第一話 馬が怒ってる
「……こりゃ、おったまげだわ」
目の前に広がる中世の町並みを見て、思わずつぶやいた。
南には、高くそびえる石造りの城も見える。
どうやら、ゲームの世界に入り込んだらしい。
とりあえず散策してみる。
自分がいるのは城下町っぽい。
通りには露店が並び、野菜や肉を売る店が多い。
野菜は不揃いだけど、どれも美味しそうだし、吊るされた肉は艶々だ。
ああ、たぶん、艶々なのは一度も冷凍されてないからだな。
街ゆく人は、どれも異国人だ。
美人が多い、とは言わないが異国人のご婦人方はムフフな体形が多い。
歩いていくと、城壁と門が見えてきた。
太陽の方向から考えると「北門」になるのかな。
門の外に出ると、麦畑が広がっていた。
遠くに、ちらほら集落も見える。
さすが中世だけあって、自然が豊かだ。
道の脇に流れる小川、まあ綺麗なこと。
道は北にまっすぐ伸びていた。
さらに歩いていくと、一台の箱馬車が止まっている。
黒塗りの箱馬車なんで、どこかの貴族なのかもしれない。
どなっている声が聞こえた。
「走れ! このクソ馬!」
馬車の前方まで来ると、御者台で鞭をふるう男が見えた。
ビシバシと叩いているが、無駄っぽい。
馬のほうは「どこ吹く風」といった感じで相手にしていない。
『……シテヤロウカ』
はっ? なんか声が聞こえたけど。
周りを見まわす。怒った御者しかいない。
御者の男は、まだ怒って鞭をふるっている。
どう見たって、無理だろう。
素人のおれから見ても、馬の機嫌が悪そうだ。
「おっさん、おっさん!」
御者の男がじろりとおれを見た。
「ああ?」
「そんなバシバシやっても、無理じゃね?」
「ほっとけ! おら走らんか!」
そう言って、また馬を鞭打つ。
『……シテヤロウカ』
また声だ。
あっ! おれの特殊スキルはモンスターとの会話だ。
これって、モンスターだけでなく動物も聞こえるのか?
『蹴リ殺シテヤロウカ』
はっきり聞こえた。叩かれている馬の声だ。
おいおいおい! おれは御者台に上がり、男の手を掴んだ。
「おっさん、やべえって!」
御者は掴んだ手を振りほどいて、なんと、おれに鞭を振った。頬にかする。
「痛っ! このやろ……」
ガタン! と音がして、馬車が動き出した。
男がフンッと鼻で笑ったのにムカついたが、相手をしてもバカを見るだけだ。
馬車から飛び降りようとして、躊躇した。
……速くね?
動き出した馬車は、歩くというより早足だ。
御者が手綱を引くが、速度は落ちない。
どんどん速度は上がってくる。
もう早足じゃない。駆け足だ!
「フーゴ! 何ごとかっ!」
御者台のうしろにある小窓が開き、白髪の爺さまが顔を出した。
「旦那様、馬があ!」
馬があ、じゃねえだろ。
さっきの特殊スキルでどうにかできるか?
特殊スキルを使うには、事前に決めた言葉を叫び、ポーズがいる。
リアルに使うハメになるなら、ふざけた言葉にするんじゃなかった。
「モンスターと楽しく会話! モンスタートーク、略して、モントーーーーク!」
右耳をぐいっと引っ張る。
『おい! 馬! 聞こえるか!』
『殺ス! 殺ス!』
やべえよ。怒りで聞こえてねえ。
『おい! 水、水はどうだ! おいしいのやるぞー!』
『水! 水!』
さらに速くなった。ん、水?
前方を見ると大きな川があり、道は川に沿って直角に曲がっている。
『水だめ! 草は? おいしい草!』
『水! 水!』
だめだこりゃ! なにかないか?
『あっれー? うしろのメス、めっちゃカワイイ』
こんな言葉を理解するのか? と思いながら言ってみる。
おう? 馬は耳をピンと立て、速度をゆるめると止まりやがった!
馬はぐるり首を回した。
うしろを振り返ると牝馬がいないのが解ったのか、おれをにらむ。
『メス違ウ。オス』
えっ? どういうこと? 馬に聞き返そうとしたら、うしろから土煙が見えた。
五人の騎士がこちらに向けて駆けてくる。
あっという間に馬車の横に来て、おれに声をかけてきた。
「その方ら、怪我ないか?」
「ええ、なんとか」
思わず答えたが、おれは騎士の顔をまじまじと見た。
年は三十あたりか。会話しているので日本語だが、顔立ちは西洋人。
それもカッチョええ。身体もでかくて強そうだ。
「イザーク殿か」
馬車のうしろから、さきほどの爺さまが降りてきた。
爺さまと言っても年齢は七十ごろ。
背筋もピンとしていて健康そうだ。
「これは! ヴァラルシュタイン伯!」
イザークと呼ばれた騎士が馬から降りる。
どうやら二人は旧知の間柄らしい。
「隊長の手をわずらわしたようですな。助かりました」
「いえ、止めたのは私では……」
「旦那様! こいつが勝手に乗り込んできたんでさ。おかげで馬が暴走して」
二人の視線がおれに来た。
……えっ、そうなる?
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