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第30話 聖騎士の亡霊

◆◆◆◆◆



 シャーリー達は幽霊少女ニイナと一緒に迷宮〈荒れ果てた聖地〉へ突入する。

 迷宮の入口となっている台座に乗り、転移するとちょっと薄暗い空が目に入ってきた。周辺には枯れた木々が並んでおり、土は黒く生えている植物も黒い。

 視線を何気なく落とすとモンスターの死骸が転がっていることに気づいた。かなり年月が経っているのか、すっかり白骨化している。

 シャーリーは祈るように手を合わせ、安らかな眠りを願う。そんなことをしていると、ドリーが声をかけてきた。


「なんだか気味が悪い場所ね。シャーリー、採取するなら注意してよ」

「うん」


 シャーリーは祈りを済ませると、白骨化したモンスターに近寄った。ポーチから小型ハンマーを取り出し、軽く叩いてみるが特に反応はない。

 害がなさそうであることを確認し、シャーリーは〈モンスターの骨〉をポーチへと入れる。そのまま生えている草に目を向けると、奇妙なことに笑っていた。


『愚か愚か。人がまた入ってきた!』

『ここは呪われた聖地。人はまた呪われて死んでいく!』


 とても気味が悪い草だ。しかしシャーリーは、何かに使えそうと思って近づいた。

 一応小型ハンマーで触れてみると植物は笑うだけで、特に何もしない。だからシャーリーは遠慮なしに植物を抜き取った。


『おのれ! この恨み、忘れるものか!』

『呪われろ呪われろ。呪われてしまえ!』


 黒い植物は泣き叫ぶが、数秒後には事切れたように静まり返ってしまう。

 ちょっと心を痛めつつもシャーリーは、〈黒い草〉をポーチへしまった。

 見たこともないアイテムを手に入れていく。アーニャもまたシャーリーに習うかのように、気味悪そうな顔をしてアイテムを手にしていった。


「ホント、気味が悪いところね。アーニャ、ここ本当に聖地なの?」

「聞かれても困ります。わたくしも始めて入った場所ですし」


『ここはかつて聖地だった場所だ。今は呪いが蔓延っていて、普通の迷宮探索者(ラビリンスチェイサー)もあまり近寄らない場所だ』

『それにモンスターも呪われているのが多いし、あと未練があってモンスターになっちゃった者もいる迷宮だもんねー』


「思いっきり危険じゃない! なんでこんなところに行けって言われたのよ……?」

『ワシに聞くな。恨むならシャーリーとくそジジイを恨め』


 ドリーは力なく肩を落とした。確かにアーニャを助けるためとはいえ、どういった迷宮であるか鑑みなかったのは痛い。もし強いモンスターと出会ってしまったら、もしかすると全滅する可能性だってある。

 下手に自由行動を取らせると危険かも、と考えたドリーはシャーリーに注意しようと振り向いた。だが、ドリーは思いもしないものを目にしてしまう。

 一生懸命に黒い草を抜くシャーリーの後ろに、白い鎧があった。握っていた剣を高々とふり上げ、今まさにシャーリーの首を跳ねようとしている。


「シャーリー!」


 ドリーは咄嗟に魔導拳銃を手に取り、ドリガーを引く。

 魔力の塊が撃ち出され、白い鎧が持っていた剣を弾き飛ばした。

 回転し、サクッと心地いい音を響かせて刃が地面に突き刺さる。

 その音でやっと気づいたシャーリーは、後ろに立っている白い鎧に振り返った。


「ふえっ!?」

『ウォオオオォォォッッッ』


 白い鎧は叫んだ。亀裂がさらに大きく広がり、欠片がこぼれ落ちていく中で今度は殴りかかろうとする。

 だが、それよりも早くアルフレッドが割り込む。影で生み出した拳をぶつけ、シャーリーを守った。

 しかし、白い鎧のほうが力が強いのか影の拳は簡単に砕け散ってしまった。


『チィッ』

「先生!」

『平気だ! それより一旦距離を取るぞ!』


 アルフレッドはすぐに影の手を作り出し、シャーリーを抱えて白い鎧から離れる。

 逃さまいと白い鎧は手を伸ばすが、ドリーが銃撃をして邪魔をした。

 白い鎧はそれでも捕まえようと突撃するが、アーニャが〈燃え盛る青い炎〉を投げつけた。

 遮るように青い炎が広がると、周囲の草木は一気に凍りつく。

 白い鎧はそれに怯んだのか、シャーリーへの追撃をやっとやめた。


「何なのよ、あれ!」

『あいつは〈パラディン・ファントム〉だ。かつて聖騎士だったものが未練を残し、亡霊になってしまったモンスターとも言われている』

「女々しい奴ね。それよりあいつ、私達の攻撃あまり効いてない気がするんだけど?」

『特殊な鎧のせいだ。あいつはほとんどの魔力を持った攻撃を半減にする特性を持つ』

「ハァ!? 何それ!」


 ドリーの顔が曇る。

 アルフレッドの言う通りであれば、ドリーの攻撃は意味をなさない。

 もしかするとシャーリーが持つ杖も、効果がないかもしれないのだ。

 頼りのアルフレッドも、相手が相手なため分が悪すぎる。

 しかしそれでも、シャーリーは立ち向かった。


「でも、先生なら負けないもん!」


 そう言ってシャーリーはアルフレッドを手に取った。

 いつものように中身を広げ、アルフレッドに記された黒魔術を発動させようと読み始める。

 だが、おかしなことに文字が浮かんでこない。

 まさか魔力同調が切れた、と思いアルフレッドを見るが特に変化はなかった。


『すまん、シャーリー。ここでは黒魔術が使えないんだ』

「えっ? どういうことですか!」

『ここは元々聖地ということもあって、少しでも攻撃的な魔術は使えないように術式が施されている。いわゆる黒魔術封じが迷宮全体にかけられているんだ』

「そ、そんなぁー……」


 頼りの黒魔術が本当に使えない。それを知ったシャーリーは、泣きそうになった。

 そんな中、パラディン・ファントムが地面に突き刺さった剣を抜き取る。

 ゆっくりと振り返り、シャーリー達の首を刈り取ろうと歩み始めた。


「く、来るわよ!」

『シャーリー、アイテムだ! 何か投げつけろ!』

「え!? えーっと、えーっと!」


 もたもたとしながらシャーリーはポーチを漁る。

 その間にもパラディン・ファントムは歩を進ませていく。

 シャーリーが一生懸命に使えそうなアイテムを探すが、パニックになっているためかどれが有効なのか判断ができなかった。

 パラディン・ファントムはそんなシャーリーを狙って、剣を突き出す。

 そのまま駆け、シャーリーの胸を貫こうとした。


「シャーリーちゃん!」


 シャーリーを庇うかのように、アーニャが割って入った。

 そして握っていた〈生命の輝く雫〉が入ったビンを叩きつける。


『オォオオオォォォオオオオオォォォォォォ!』


 ビンが割れ、液体を被るとパラディン・ファントムは悲鳴を上げて消えてしまった。

 ホッと胸を撫で下ろすシャーリーだが、アーニャはポカンとした顔をして立ち尽くす。

 一体何が起きたのかわからないでいると、アルフレッドが思い出したかのように語った。


『死霊系モンスターだったな。なら、あいつらにとって回復アイテムは有効だ。ものによっては一撃必殺にもなる』

「え? そうなのですか?」

『知らずにやったのか? まあ、何にしても倒したことには変わりない。ありがとな、アーニャ』


 偶然の出来事だったが、それでも窮地を乗り切ることができた。

 アルフレッドはアーニャに感謝しつつ、シャーリーに顔を向ける。

 腰を抜かしてしまったのか、ニイナに立つのを手伝ってもらっている姿があった。

 ドリーはちょっと心配しつつも、シャーリーが立つのを一緒に手伝っている。


『何にしても、気をつけて進むぞ。いつまたさっきのようなことが起きるかわからんし』

「ア、アルフレッド様……」

『ん? どうしたアーニャ?』


 アルフレッドは振り返ると、青ざめた顔をしたアーニャの姿があった。

 不思議に感じ、視線を合わせてみる。するとその先には、大量のモンスター〈ファントム〉がアルフレッド達を睨みつけている。

 本の身体であるアルフレッドだが、それを見て一気に顔が青ざめてしまった。


『殺せ殺せ!』

『呪い殺せ!』

『魂を食ってやる!』


『みんな、逃げるぞ!』


 さすがにあの数は相手にできない。

 そう判断したアルフレッドは、全員に逃げることを指示した。

 シャーリー達はその言葉に従い、一目散に駆け出し始める。 


「なんでこうなるのぉー!」

「誰か助けてー!」

「あー、もー! 走ることに集中しなさい!」


 前途多難な迷宮探索。

 大量のファントムに追いかけられながら、シャーリー達は迷宮の奥へと踏み込んでいった。



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