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第28話 荒れ果てた聖地

「フーハッハッハッハッ!」


 シャーリー達の部屋で響くディラルの楽しそうな高笑い。

 囚われたシャーリーと傍から見ているドリーは、悔しそうに唸り声を上げているアルフレッド達にキョトンとした表情を浮かべながら見つめていた。

 そもそもこの優しそうなおじいちゃんに、何を恐れているのかわからない。シャーリーがそう考えていると、ディラルはとんでもないことを口走った。


「アーニャよ。もしお前が縦に首を振らないのであれば、私はこの子を娶ってしまうぞ!」

「な、何っ!」

「なんて卑劣な!」

「ちょっと待てぇー!」


 純粋に驚くアルフレッドとアーニャだが、それよりもドリーが大きな声を上げた。

 なぜなら、いい年齢のおじいちゃんがシャーリーを愛人にしようとしているのだ。止めない理由はない。


「なんでいきなりそんな話になるのよっ!」

「では順序を立てて話そそう。見た限りとってもかわいい。将来性が見込める。唾をつけとくには越したことはない。だからだ」

「納得できるか、このロリコンジジイ! というか、シャーリーは全く関係ないでしょ!?」

「そ、そうですわ! シャーリーちゃんは関係ありません!」

「なら、私の言うことを聞くか? 聞くのであれば、離してやってもいいぞ」


 うっ、と声を溢してアーニャは怯んだ。

 このままではシャーリーがディラルのものになってしまう。だが、首を縦に振ってしまえばしたくもない結婚をする羽目になる。

 シャーリーを助けたい。でも、結婚したくない。

 そんな思いがアーニャの中でグルグルと巡っていると、シャーリーが優しく微笑みかけた。


「アーニャちゃん、私は大丈夫だよ」

「シャ、シャーリーちゃん!? で、でも――」

「大丈夫。私も望まない結婚はしないから」


 シャーリーはそう告げると、ディラルを強く見つめた。

 その目はとても強く、何よりも固い意志が籠もっている。ディラルはそんなシャーリーの顔を見て、感心したかのように笑みを浮かべた。


「状況はわかっているのかな? あなたがどんなことをしても、私にはねじ伏せるだけの力がある。何をしようとあなたは私には勝てない」

「そうかもしれない。でも、だからといってこのままだなんてヤダ。私が私であるために、大切なものを守るためにも――私はあなたと戦います!」


 ドリーは息を飲んだ。


 いつも一緒に過ごしているシャーリーとは思えないような、力強い言葉だ。それに、その意志の強さはドリーの友と重なるところがあった。

 もしかして、というありえない可能性が頭の中で浮かぶ。だが、すぐにそんなはずないとかき消してしまった。

 しかしそれでも、ドリーは考えてしまう。もしかすると、シャーリーは友の血を引いた子孫ではないのか、と。

 ドリーの心が揺れ動く中、シャーリーの言葉を聞いたディラルは「ワッハッハッ」と高笑いを上げた。

 とても楽しげに、気持ちよさそうに、ただただ愉快に、大きな声で笑っていた。


「大したお嬢さんだ。本当に娶ってしまいたくなるものだ」


 ディラルはそう言いながらもシャーリーを離した。

 そして片膝をつき、シャーリーの右手を手に取ってまっすぐと目を見つめる。強く、だけどどこか優しい目をシャーリーが見つめ返しているとディラルは口を開いた。


「だが残念だ。お嬢さんを娶っても、アーニャは結婚をしなければならない。しかし、そうだな。私のお願いを聞いてくれるのであれば、私がどうにかしてあげよう」

「本当!?」

「ああ、約束だ」


 そう言ってディラルはアルフレッドを見た。

 直後、アルフレッドはとんでもない悪寒に襲われる。一体なぜこんな寒気を覚えるか、と考えているとディラルがお願いについて話し始めた。


「ここから北にある森の奥に、迷宮が存在する。名は〈荒れ果てた聖地〉だ。その奥にあると言われている石碑を見て、その内容を教えてもらいたい」

「それだけでいいの?」

「いいとも」


『待て待て! 荒れ果てた聖地だと!? あそこは確か、とんでもないモンスターがわんさかいる迷宮だろうが! それにあそこだと黒魔術が――』

「私やります! 絶対に成し遂げてみせます!」

『シャーリー! ワシの話を聞けぇぇ!』


 必死に止めようとするアルフレッドだが、ドリーが「まあまあ」と言って無理矢理口を抑えた。

 やる気満々のシャーリーは、ディラルを強く見つめる。その意志を尊重したディラルは、右の手の甲に経緯を込めてキスをしたのだった。


「では約束しよう。見事に私のクエストをクリアしたのならば、アーニャの結婚はなしにしよう」

「はい! 破らないでくださいね!」


 困っている友達アーニャを助けるために、シャーリーはディラルのクエストを受けた。

 ドリーに抑えつけられているアルフレッドは必死にもがいて何かを言おうとしていたが、シャーリーは気づくことなくアーニャに振り返った。


「シャーリーちゃん……」

「大丈夫! 私がどうにかしてあげるから」

「ありがとうございます……。いえ、お礼を言うばかりではいけませんね」


 アーニャは溢れる涙を拭く。

 そしてディラルに強い眼差しで見つめ、まっすぐと向かい合った。


「おじい様、いえディラル公。わたくしもシャーリーちゃんの探索に同行してもよろしいですか?」

「構わんが、危険だぞ?」

「承知の上です。それにこれはわたくしの身の上の話。だからこそ、任せっきりにはできません!」


 アーニャの言葉を聞き、ディラルは微笑む。

 だがすぐに厳格な顔つきとなり、ディラルは返事をした。


「いいだろう。ただし、死ぬことは許さん。わかったか?」

「はい!」


 アーニャはシャーリーに顔を向け、楽しげに笑った。シャーリーはその笑顔に対して嬉しそうに笑い返す。

 すっかり仲よくなった二人を見て、ドリーはちょっと羨ましそうに微笑んで見つめていた。

 こうしてシャーリー達はアーニャを加え、迷宮〈荒れ果てた聖地〉へと赴くのだった。



◆◆◆◆◆



 カカカッ、と奇妙な鳥の声が響く。

 光が届かず、ほのかな闇が広がる北の森。その奥に存在する迷宮の出入り口である台座の前に、シャーリー達は立っていた。

 ヒンヤリとした空気が広がる中、シャーリーは周りを見渡す。

 顔を出していた小型モンスターがすぐに頭を引っ込めたり、青く輝く羽を持つ蝶が飛んでいたり、不思議な色をした発光するキノコがあったりと様々だ。


「遅いっ!」


 いろいろなモンスター、虫、植物が目に入る中、ドリーが叫んだ。

 シャーリーが思わず振り返ると、どこかイライラしているドリーの姿がある。


「もー! だいぶ時間が経ったわよ!」

「もしかしたら、何かあったかも?」

「だとしてもよ! 確かにちょっと遅れるって連絡は来たけど!」

『まあ落ち着け。ここの森のモンスターはあまり強くないからな。死ぬことはないはずだ』


「待たされるこっちの身にもなってよ! ったく」


 ドリーが腕を組み、イラつきながら足を揺する。どこかいつもと違う姿に、シャーリーは苦笑いを浮かべていた。

 なぜここまで苛ついているのか。そこまでアーニャのことが心配なのか、とつい考えてしまう。


「お待たせしました」


 そう考えていると、待ちに待ったアーニャの声が響いた。

 一斉に振り返ると、待っていたシャーリー達はそれぞれ目を大きくしてしまった。


「どうかしましたか?」


 はちきれんばかりに膨らんだバックパッカーが、アーニャの背中にあった。

 よく持って来られたな、とドリーが呆れながら感心する。

 さすがジジイの孫娘だ、とアルフレッドは頷いていた。

 かわいい杖ぇー、とシャーリーは関係ないものに視線を奪われる始末である。

 目を輝かせるシャーリーに肩を落としつつ、ドリーはアーニャに声をかけた。


「アーニャ、それさすがに多くない?」

「多いことに越したことありません! この中には万が一に備えての必要なアイテムがぎっしりと――」


「モンスターに襲われたらどうするの?」

「戦って勝ちます!」

「勝てないモンスターだったら?」

「どんなことあっても勝ちます! それにシャーリーちゃんやアルフレッド様がいますから大丈夫です!」


 ドリーは大きく大きくため息を吐いた。どうやらアーニャは、シャーリーやアルフレッドの力を過信しているようだ。

 ドリーは頭を痛めつつ、仕方なく予備として持っていたポーチをアーニャに手渡した。


「本当に必要だと思う物をこれに入れて。それ以外はここに置いていくこと」

「なっ! それではわたくしの苦労が水の泡ではないですか!」

「逃げなきゃならなくなったら逃げられないのっ! とにかく整理しなさい! い・い・わ・ね!」


 アーニャはとても不服そうにするが、渋々従って整理整頓をし始めた。

 こうして大きな不安を覚えつつも、シャーリー達はアーニャと一緒に迷宮〈荒れ果てた聖地〉へ突入するのだった。


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