ビワの実とカラス
ある日、一羽のカラスが庭にやってきた。
寝室の窓から見下ろす小さな庭には、そこそこ大きなビワの木がある。
ビワがたわわに実って色づきはじめた頃だった。
それからカラスが一羽毎日庭にやってくる。
毎日ビワを食べに来る。
どうやら毎日一粒食べている様子。
食べたらすぐに去っていく。
ビワの実は日当たりのいい上の方から色づいていく。
取りやすい下の方も、もうすぐかと待ちわびる。
沢山実っているし、上の方はどうせ取りきれないから
食べてくれていっこうに構わない。
問題はそれが、まだ寝ていたい早朝4時ごろだと言うこと。
夜明けと共に、庭のトタン屋根の上を歩きまわる。
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
とても寝てはいられない。
これが毎朝。
いやでも早起きの習慣が身につく。
これは…いいことか。
毎朝起こしに来るカラス。
1日一粒ビワを食べていく。
不思議な習慣。
ある朝、いつになく騒がしく起こされた。
何事かと、カーテンの隙間から庭を見下ろす。
1、2、3、、、、5?いや6羽?
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
これも6倍。
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
バッサバッサ、ドンッ!ドタッ!バタッ!
カラスの群れが庭にやってきていた。
毎朝、几帳面に一粒づつビワの実を食べていたのは、偵察(味見)の為だったのだ。
この日ビワの実が美味しく熟したのだ。
カラス達はこの日、上の方のビワの実をごっそり食べて、去って行った。
さて我々(人間)も収穫するか。
余談だが、この時カラスが落としたタネが、のちに芽を出し、立派に育ち、今ではたわわに実をつけていると言う。