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愉快な仲間たち

「改めまして、アリス・カートレットと申します。これからよろしくお願いします、メヴィウス先生」


校長室を後にして、彼女を自分の研究室に招き入れる頃には、取り乱し、一目散に逃げ出した人見知りの影はすっかり消えていた。


「生憎、この学校には特待生はあれど、特別扱いの制度はない。君はここの生徒と同じカリキュラムを受けることになる。改めて聞くが・・・、それでいいの、かな?」


「は、はい! 依存ありません」


この学院では、本格的な魔法指導を行うのは高等部からとされている。つまり高等部1年生となる彼女は、魔法の使い方を基礎から学び直すことになる。


正直、すでに戦場に出て、日常的に魔法を使い、なんなら使いこなす彼女にそんな必要があるとは到底思えない。要するに彼女がこの学院で学ぶことは限りなくゼロに近い。


「えっと・・・、ここは先生の研究室なんですか?」


「そうだよ。すまんな、むさ苦しい所で」


「い、いえ・・・! 文句があるとかじゃなくて・・・」


彼女はあわてて手と首を横にふりふり。


「えっと、研究室ってもっと、こう、不気味な研究物資とかで溢れてるイメージだったので・・・。ここは思ったより綺麗で小洒落てて、いいと思います」


ああ、そういうことか。


もちろん研究室は研究室なので、ここできっちり研究はしている。あれやこれやの不気味な資料たちは本棚裏に入口が隠れている横の部屋に隠しているだけ。


この部屋に残っているのは、大量の本と、とある理由で持ち運ばれたソファーやらテーブルやらベッド・・・。


「まぁ研究資料もないことはないんだが、とある事情でやたら生活的な場所になってしまってな・・・」


「とある事情・・・ですか・・・? 先生はここに住んでいらっしゃったり?」


「時々泊まることはあるけど、ちゃんと帰るようにしてるよ。俺はね」


「俺は?」


「いや・・・その、まぁ、ね?」


やたらと追求してくるアリス。


そんな彼女の視線を探ると、どうやらその先には机の隅に置かれた手挽きのコーヒーミルがある。あれもいつの間にか持ち込まれたもので、いつからあったのか分からない。


持ち込んだ本人だけが、それを使っているのを見たことがある。なるほど徹夜のコーヒーはあれで用意されていたのか・・・。


そして俺は思い出す。その持ち込んだ者のことを。そしてその者が今ここに来れば、それはそれは厄介なことになるということを。


人間、嫌な予感ほど当たる。


無情にも部屋の戸は開かれた。




「ねぇメヴィー、一限暇だから研究論文の続きやら・・・せて・・・?」




間の抜けた声とともに戸を開いたのは同僚の女性。アリスの姿を認め、言葉はフェードアウトする。


「アンタ・・・、いよいよ女生徒を連れ込んで・・」


「違う」


「え、え? とある事情って女の人を連れ込んで・・・」


「それも違う」


おっと同時に2人の女性に誤解されてしまう。それは信頼的にも社会的にもまずい。


「お二人さん落ち着け。二人とも優秀なんだ。俺の話くらい聞いてくれるよね」


アリスの方は何かにショックを受けているように小刻みに震え、ヴィネアの方は口元を手で隠してひいている。


だが何も言わないあたり弁明の余地は与えられたようだ。


「まずお互いに自己紹介してくれ。それだけで割と解決するから」


まずはアリスより年上の同僚に促す。


「えっと・・・、よく分からないけど初めまして。私はヴィネア・シルヴァーニ。一応この学校の教師やってます・・・」


「俺の同僚なんだ。よろしくやってくれ」


まぁ生徒と教師なんだ。関わる機会もあるだろう。それを差し置いても女同士は仲良くして欲しい。女同士のケンカは見たくないよ!


「此度このヴァルトピア国立魔導学院に転入して参りました、アリス・カートレットと申します。シルヴァーニ先生、どうぞご享受よろしくお願い致します」


いい家出身(だと思う)のアリスの一礼は気品に満ちている。


そしてその名を聞いたヴィネアは、


「え、アリス? カートレット? それってあのアリス? あのカートレット?」


はい予想通りのリアクション。俺と全く同じ。ここまででワンセットだ。


「もしかして校長が言ってた例の転入生って『聖女』さんのことだったの!?」


ヴィネアが問うてくる。


「お前、本人を前にして例のとか聖女とかは止めてやれよ・・・」


俺の勘だが、この子にとって特別扱いされたり、別称で呼ばれることはあまり気分の良いものじゃないだろう。


普通の人は特別扱いされ、その身に箔を付ける別称に憧れるかもしれないが、いざその場になった人は大体普通でありたい願っているものだ。


それを表すようにアリスの表情が曇る。そしてそれに気づいたヴィネアは「あっ、ごめんなさい・・・」と謝った。


「とまぁアリス。この通り否が応でも君のこの学校への転入は注目を集めることになる。どう考えても普通の学校生活なんて送れないだろう」


「・・・・・・・・・」


厳しいが現実だ。お国の有名人が普通に入学しましたーなんて一般人には注目のネタにしかならない。


偽名は国の法で禁じられている。彼女の入学は国も周知だから、身分を隠して入学なんてできない。


「加えてこの学校で君が学べることはおそらくほぼない。これは俺たち教師の実力不足だ。君のせいじゃない。だが学びがないことは変えられない」


「ちょっと・・・!」


横からヴィネアが言い過ぎ、とでも言いたげな顔で袖をひく。だが俺はひかない。


「だからこそ聞きたい。君は何を求めてこの学校に来た?」


彼女は結果を残してきた人間だ。リスクを背負ってまで、己の身にならないことをするようには思えない。


成したいことがあるのなら聞いておいて損は無い。手助けできるかするかは分からんが、少なくとも邪魔はすまい。


「私・・・・・・会いたい人がいるんです」


無粋な問だったかもしれないが、彼女はゆっくりとそう答えてくれた。


「その人とは・・・、私が小さい時に一度出会っていて。もう一度その人に会いたい、その想いで私はここに来たんです」


「そうか。それが誰かさえ教ぐえっ」


襟をヴィネアに引っ張られ、嗚咽を漏らす。


「いいメヴィ? こういうのは『誰か教えてー』なんていうのは不遜よ。誰にも言えない秘密だからこその『想い』なの」


「あ、そう」


ヴィネアに「そうでしょ?」と言われ、アリスも「そうですね・・・」と答える。デリカシー欠如しててすまんね。


「で、その人はこの学校の関係者なのね?」


「はい」


「そう。なら頑張らなきゃね」


「はい・・・・・・!」


お、なんかいい空気。やっぱり女の問題は女教師に任せるのがいいのかも。


その後はヴィネア主体で雑談へと入っていった。なんだかんだ彼女も教師だ。あの年頃の子供の扱いは慣れているのか。よく見たらコーヒーも出してやがる。仕事はやっ。


「ところでヴィネアは何しに来たの?」


「さっき言ったじゃん。研究論文やりに来たのよ。まだ研究終わってないし」


そこでアリスの頭に?が浮かぶ。


「お二人は共同研究なされているんですか?」


「いいえ。やりに来たのは私の単独研究よ」


「? ここはメヴィウス先生の研究室なのですよね?」


「そだよ」


アリスは状況を理解できていない。まぁこれは生徒には知りえない事情だからなぁ・・・。


「えっとね。私は一応昨年ここに赴任してきた新米教師なのよ。そして新米教師にまで個別の研究室を与えられるほど、この学校にはスペースがないのよ」


「そうそう。学校側にとっても死活問題なんだよな」


その一言が余計だったのか、ヴィネアに謎の火がついた。


「ちなみにこの人も私の同僚だから、新米教師なんだけどねー」


「えっ?」


「けどメヴィはいいわよね〜。校長先生のお気に入りだ・か・ら・ね!」


「なんで怒ってんの」


別に怒ってないし?って怒りながら言われましてもね・・・。


「そんなわけで私たち個別研究室を持たない教師は、研究室を持ってるベテラン教師たちの研究室に籍を置かせてもらって、そこで研究しなきゃいけないってわけ」


「なるほど。じゃあこの部屋の物にはシルヴァーニ先生が持ち込んだ物もあるんですか?」


「まぁあるけど・・・。でもほとんどはあいつ・・・よねぇ・・・」


「そだねぇ・・・」


「?」


顔を見合わせる俺とヴィネア。アリスはまたまた?を浮かべるが、まぁそのうちわかる。


だってもう一限の時間は終わっているんだから。




「お邪魔しまーす、あれ? なんで見たこともない女の子がいるの?」




「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


陽気な男声でもう一人の同僚が飛び込んできた。


紹介しよう。彼の名はルベル。俺の悪友であり、俺とヴィネアの同僚であり、ヴィネアと同じように俺の研究室に籍を置く新米教師。


その後はヴィネアがこの部屋に来たとき同様に話が進み、多分皆仲良しになったよ多分。ちなみにこの部屋に置いてある日用雑貨はほぼルベルが持ち込んだ物だ。


まぁ・・・、仲良くしてくれ。あとこの部屋最近狭く感じてきた。


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