第4話:黒菱自動車編3:私たちのヒーロー
「黒沢さん、貴方は一体何者なんですか!?どうして、黒菱自動車の阿久井の事を知っているんです!?」
パパが叫ぶように言った言葉は、私も思ったことだった。
何故、初対面のこの人が、私たちのことを知っているのだろう。
それに、彼の言った『このままだと、一家心中しかないでしょう?』という言葉が引っ掛かるな。
最悪の場合でも、自己破産すれば、命までは取られない筈なのに。
そこまで考えて、ふと脳裏に浮かんだ事が有ったけど、口に出す前に、彼自身が言葉にした。
「“私”――いえ、“俺”は、貴方方を“助けに来たんです”。『大和会』の魔の手からね。失礼ですが、厳太さん。貴方、『大和会』から借金をしているでしょう?『大和会』は、容赦ないですよ。借金を返せなかったら、人身売買・臓器売買、何だってやって回収しますよ。……知らなかったわけじゃないでしょう?」
予想が的中していた事に、愕然とする私。
物音がして見てみれば、そこには目に涙を溜めながら、地面にへたり込む、パパがいた。
「あの時は仕方なかったんだ!そうでもしなきゃ、路頭に迷う所だったんだ!」
そう叫んで、歯を食い縛るパパに、彼の言うことが、嘘ではない事を知り、目の前が真っ暗になる。
思わずふらついた私を、優しく支えてくれながら、彼は続ける。
「たったの五万が、高く付きましたね。まぁ、銀行もその時には既に貸してくれなかったんですから、仕方なかったのかも知れませんが。でも、『大和会』の借金は、違法な利子が課せられますからね。彼らは、相手が誰であろうと、殺すときは殺します。だから、警察も動かない。警察官だって、家族を人質に取られ、惨殺すると脅されれば、そうするしかないですから」
そこで、彼は優しい視線を、私にくれた。そこで、まだ彼に支えられたままだという事に気付き、こんな時だというのに、頬が熱くなった。だけど、私の足は、まだ役割を果たしてくれないから、このままでいるしかなくて、恥ずかしくて目をそらした。
彼の声が、優しく聞こえる。
「家族を守りたかったから、『大和会』から借金をして。今度は、家族を酷い目に合わせたくないから、一家心中を考えて。でも、もう大丈夫ですよ。“俺”が、阿久井から金を取り戻しますから。こんな可愛い娘さんを、死なせたりしたら、日本に取って大きな損失ですから」
当たり前の事を言うように、とっても恥ずかしい、けれどとっても嬉しい事を言われて、頬だけじゃなく顔全体が、熱くてたまらなくなってしまう。
ドクン、ドクン、と脈打つ心臓の音が、とてもうるさく聞こえた。
恐ろしい現実から、彼が助けてくれる。
いつの間にか、私は彼――黒沢零司さんを、信頼しきっていた。
黒沢さんの、正体も知らずに。
更新計画無視してスミマセン。