第3話:黒菱自動車編2:白雲部品
「はぁ……。一昨日の面接も、落ちちゃったな……。これでもう、この雑誌に載ってる目ぼしい所は、全滅かぁ。」
私は、家の近くの公園で、さっき買ったばかりのコーラを飲みながら、ため息をついた。
もう9月も半ばなのに、私に出来る仕事で、尚且つ高給な仕事は、どこも既に募集を終えていた。
色々と就職雑誌を買ってみたのだけれど、目ぼしい所は、既に決まってしまっているか、落ちてしまった。
今の時期も、まだまだ暑い日差しが、私の肌をチリチリと焼いてゆく。
「すみません、お嬢さん。この辺りに白雲部品という会社がある筈なんですが、どこにあるか知ってませんか?」
男性の声で、フッと我に返る。いつの間にか、ウトウトとしてしまっていたみたい。
思わず欠伸をしてしまった私を見て、ウトウトとしていたのが分かったのか、
「す、すみません、起こしてしまいましたか?」
と聞かれてしまった。頬が、日差しのせいではなく、熱くなる。
こんな所でウトウトしてたなんて、恥ずかしかった。
「いえ、大丈夫です。白雲部品なら、私の父がやってる会社ですけど、ご案内しましょうか?」
「それは助かります。この辺りに来るのは、今回が初めてなもので。携帯もバッテリー切れになってしまいましてね」
男の人は、昨日充電忘れていたからなんですけどね、と苦笑いをした。
それにしても、この人は、ラフな格好をしている。
白のタンクトップに、黒っぽいGパン。
顔もカッコイイし、直に見える腕は、引き締まっていて、良いなぁ、なんて思ってしまった。
「あの〜、私の顔に何か付いてます?」
そう言われて、彼を見つめていた事に気づき、顔中が熱くなる。やだ、何やってんの私。そんな場合じゃないでしょ!
今は、この人を案内しないと。
「あ、いえ。では、私について来てくださいね」
私はそう言いながら、コーラの空き缶を、ゴミ箱に放り込んだ。
「パ……、じゃなくて、父さ〜ん、お客さんだよ〜」
工場に着いて、パパを呼ぶと、
「分かった、今行く!」
直ぐに返事が返ってきた。
「優幸、こちらは?」
パパにそう聞かれ、まだ名前を聞いてない事を思い出した。
「え、え〜と、その……まだ」
「私は、黒沢零司という者です。白黒つけるの黒に、金沢の沢、漢数字の零に、司ると書きます。あ、これ名刺です。」
パパが名刺を見ている間に、彼は私にウインクした。
フォローありがとう、という意味で、私もウインクを返した。
すると、彼は優しい微笑を見せる。
良い人だなぁ、そんな事を、考えてしまい、また顔が熱くなってきた。
彼は、パパが名刺から顔を上げるのを見るなり、私達に向かってこんな事を言った。
「白雲厳太さん、次女の優幸さん。
そしてここにはいませんが、奥さんの美空さん、長女の穂波さん、長男の正示さん。
黒菱自動車の阿久井に苦しめられているようですね。
“復讐”したいとは思いませんか?
このままだと、一家心中しかないでしょう?
今まで阿久井が懐に入れていた金も、取り戻して差し上げますよ。この“私”がね。」
熱くなっていた頬が、一気に冷たくなってしまった。
何者なんだろう、この人は。そして、何をしにきたのだろうか?
工場の作業音が、どこか遠いものの様に思えた。
僕の不注意により、日替わり後の更新となりすみません。