第2話:黒菱自動車編1:心中計画
「阿久井さん、これ以上納品価格を下げられたら、ウチはやってけません!どうか、よろしくお願い致します!」
《黙れ!黒菱自動車の仕事をしたいという会社は、いくらでもあるんだ。ウチの言う値段で納品出来ないのなら、手を切るしかないな》
「そんな!私たちに死ねとでも言うんですか!?」
《ほぅ、一家心中かね?出来るものならやってみたまえ。じゃあな》
私のパパは、自動車の部品を作る会社を経営している。
でも、立場の違いを悪用されて、本来の値段よりも安い値段で納品しなければ、手を切られてしまうらしい。
有り得ないよね。私もそう思う。
でも、これが現実なんだ。
阿久井って奴は、正規価格と実際の納品価格の差を、懐に入れる――横領しているらしい。
でも、他の仕事がないから、無理してでも、阿久井の回してくる仕事を請けるしかない。
こんな状況だから、私を高校に通わせてくれたのも、かなり無理してくれてたんだと思う。
大学は、諦めた。だけど、仕事は見付からない。
高校卒業から一年以内に仕事を見つけられなかったら、パパの会社に就職する事にはなっているんだけどね。やっぱり、給料の良い会社に就職して、少しでも家計を助けたい。
なのに。
「また、面接落ちちゃった……」
半年経った今でも、就職できないでいる。
水をゴクゴク飲みながら、何がいけないんだろう、と考えていた。
私は、白雲厳太。五人家族の大黒柱だ。
といっても、経営している工場は、何とか生きて行ける程度しか、利益が無い。
言い訳ではないが、私のせいではない。納品先が、立場の差を利用して圧力をかけてくるのだ。
だが、全く収入がなくなれば、工場機械のローンを払えなくなってしまう。
だから、厳しくても、踏ん張るしかない。私の名に、『厳』の字があるのだから、頑張れる。
そう、思っていた。
でも、もう、これ以上は無理だ。
妻の美空はスーパーのレジ打ちのパートをしている。
長女の穂波は、奨学制度のある大学に、バイトをしながら通っている。
次女の優幸は、就職活動中だ。あと半年経っても就職できなかったら、私の会社に就職する事になっている。
長男の正示は、まだ義務教育中だ。
それなのに、この道を選ぼうとしているなんて、なんと酷い人間なのだろう。
『一家心中』
遺書に、阿久井や黒菱自動車の悪事を、全て書いてやる。
もう、私達は地獄へ墜ちてしまう道からは、逃れられない。
けれど、私達だけでなく、奴らも、一緒に地獄へ――。
その日、私は無理心中することを決めた。
心中なんて話、相談するわけにはいかない。
私は、いるのかも分からない悪魔に、魂を売り渡した。
「悪人、発見。黒菱の阿久井、か。“死神”が地獄に墜としてやるよ。楽しみにしてな」
そんな声が、どこかで聞こえた――。
僕の不注意により、昨日(2008/10/5)の更新が出来ずにすみません。