第1話:序章:死神誕生
ほぼ毎回死人が出る予定です。
――黒沢零司、19歳の冬――
「親父、何が有ったって言うんだ!?」
俺は、夜中にかかってきた電話に向かって、思わずそう叫んでいた。
《すまない、零司。お前にも言っていた、“デスサイズ”が『大和会』にバレた》
「ウソだろ……?」
『大和会』とは、日本の裏社会を統括する組織だ。現会長は俺の曽祖父で、親父はそこの技術部長をやっている。
親父は、裏社会を見ていて、ぶっ潰したくなったと言っていた。“デスサイズ”も、その為に親父が組織に隠して作ってたんだ。
《残念だが、本当にバレていて……な。実は、さっき会長に撃たれた》
「え?」
それは余りにも唐突過ぎて、直ぐには理解できなかった。
しかし、止まった脳みそが動き出してみれば、声の様子がおかしかった事に気付く。
耳を澄ませてみれば、荒い息が聞こえる。
「会長に撃たれたって、会長からしたら、親父は孫だろ!?そんな、何で――」
《………………》
「親父!しっかりしろよ!まだ、まだ死ぬんじゃねぇよ!裏社会をぶっ潰すって言ってたじゃねぇか!こんな所で死んじまったら、裏社会をぶっ潰せねぇじゃねぇか!」
受話器から聞こえてくる、荒い息。そして、かすれるような声。
《零司……すまん、父ちゃん、もう駄目だわ。後は、任せる。俺の代わりに、腐った世界を、ぶっ潰してくれ……!》
「親父!そんな事言うなよ!俺だけでどうこう出来る訳ないじゃねぇか!」
《零司。もう、父ちゃんは駄目なんだよ。急所は外したみたいだが、血がハンパじゃなく出てるんだ。もう、父ちゃんは助からない》
「親父!俺だけじゃどうこう出来ないし、裏社会をぶっ潰すのは誰がやるんだよ!死ぬな!」
俺は、とにかく叫び続けた。そうすれば、少しでも長く親父が生きていてくれると思ったから。
そう、本当は俺にも、分かっていた。耳を澄ませてみた時に、親父がもう助からない事を、分かってしまっていた。
だからこそ、必死に脳裏から追い出して、『死ぬな!』と叫んだのだ。
《零司、お前だけじゃ無理でも、“家”の奴らがいるだろ。それに、“デスサイズ”は既に完成している。隠し場所は、モグラに聞け。そこには、“デスサイズ”の設計図もある》
「な、何で今まで黙ってたんだよ!もっと早けりゃ……」
もっと早けりゃ、親父が撃たれる事も無かったかも知れないのに。
しかし、その言葉は飲み込んで、口には出さなかった。
もう、助からないならば。せめて、安心して逝って欲しい。
だから、目元に浮かんだ涙を、手で擦り取って、親父を見送る事にしたんだ。
《じゃぁ……後は、頼む……ぞ》
「……分かった。親父の変わりに、俺が、裏社会をぶっ潰してやるよ。だから、安心してくれよ」
《はは、どうやら、決心が、付いたようだな……。じゃぁ、先にあの世で待ってるぜ。同じ所に逝けるかは分かんねぇけどな》
「親父らしくねぇな。あの世なんて、ある訳ないだろ?」
《はは……かも、な。じゃぁ、おやすみ。会長が最後の情けで残してくれた時間も、もう無いみたいなんでな。》
「ああ、おやすみ。モグラに後は聞くよ。」
《零司、お前の人生まで巻き込んでしまって悪いと思う。しかし、父ちゃんには――》
「気にしなくて良いよ。俺は、もう“零司”じゃない。俺は、――」
「俺は、今日から“死神”だ。後は、“死神”に任せてくれよ」
俺は、親父の言葉を遮って、そう宣言した。
《はは、頼もしいな、“死神”さん。これで――》
それが、親父の最期の言葉だった。
俺は、必死で涙を堪えた。
“死神”は泣かない。“デスサイズ”――死の鎌で、死をもたらし続けるだけ。
その日、黒沢零司は死に、一人の“死神”が誕生した。
親父――黒沢恵之助より託された、“デスサイズ”。そして、“家”の人たちの力を借りて、俺は、悪人共をぶっ殺していく道を歩み始めた。
千里の道も、一歩から。そんな諺が、脳裏に浮かんだ。
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