発令!長距離輸送作戦!
第3話
5534/8/3 午前四時
『こちら司令部 輸送車郡全60両の準備が整いました いつでもどうぞ。』
「了解 こちら轟型陸上戦闘部隊 長女ゼフィランサス これより輸送作戦を開始します!」
ガキン..ゴゴゴゴと重厚感のある機械音と共に分厚い鉄の門が開く。
外は真っ暗でいて強くはないが多少吹雪いている。こんな天候は慣れっこだが、今回の輸送車郡は規模が大きい。
不測の事態も想定しながら油断せず集中をしなければならない。
私を含め姉妹全員がそんな面持ちで輸送作戦は開始された。
『輸送中の作戦指揮権は轟型陸上戦闘部隊に委ねられます。柔軟な対応と素早い機転を用いて作戦を遂行してください』
「わあってるって、そんなん当たり前だろ?」
「アマリ。無駄口はよして周囲の警戒をしろ」
「はいはいっと、ストック姉も戦車隊の指揮がんばれよ!」
嫌味などいう気はサラサラないと思うがそんなことを言われ、複雑な気分になり軽く頭を搔く。
白雪の中進み行くは輸送車郡とその随伴護衛部隊。横と縦に広がり索敵 防御 攻撃のバランスが良い陣形で雪を踏み固めるように履帯のこすれる音や低いエンジン音を暗闇に響かせながらアビスネストへと向かう。
「定時連絡を開始 現在午前4時30分 周囲に敵影なし。予定通り安全に輸送を遂行中」
「なぁんだなんもいねーじゃねーかいつもならちらほら出てくる頃なのによう」
「えぇ、今はね。でも私たちの目が効く範囲の外では何が起こってるか分からない。もしかしたら先回りして待ち伏せや罠を仕掛けてるかもしれないわ」
「そうですよ。それにグロウがいないのは私たちにとっても輸送車の皆さんにしても好都合ではありませんか」
「まぁそうだけどよぉ..こうも何もないと暇じゃないか?」
「縁起でもない。もしここで新型のグロウなんか出てきたら」
「ちょっと待って!..9時方向から感あり! 数およそ20! タイプ:ウルフ!」
タイプ:ウルフと呼ばれる
「やっときたか..ここは私に任せな!」
インカムの向こう側からアマリがにひひっと自慢げに言うと列から離れ迎撃に向かう
「ひひっ..遅ぇなあ!」
バックパックから展開された2本のサブアームに搭載されている小口径の機銃で脚を狙い銃撃する。
装甲で多少弾かれるも一瞬で装甲を歪め脚を破壊すると前方へと勢いよく転倒させた。
「ちょこまかと..今捕まえてやる!」
左手首の装備から射出したワイヤーショットで捉えて乗りこなす。周りを取り巻くウルフへと残弾切れを伝える音声が聞こえるまで弾丸を浴びせる。
捉えていた最後の一体にも大口径のショットガンを頭へ打ち込む。削り落とされたかのように頭部はバラバラに飛散し、ただの鉄くずへと姿を変えた。
「おっし、おわった! すぐそっちに合流する!」
『いやまだ..後ろよ!』
瞬間。振り向くと、爪を立て喉元を斬らんとするウルフが飛びかかっていた。
機銃で応戦しようと構えるも残弾無しと無慈悲な音声が流れる。
「くっそ..っ!」
攻撃から身を守る為基本搭載されているシールド・ジェネレータを緊急展開させるも4姉妹に搭載されているシールドは遠距離防御用の物であり近接攻撃の際での対応は難しく懐へ入られてしまった。
寸でのところで横へ回避するも、左肩へと黒い爪が突き刺さり貫かれる。
「ぐっ...こいつ!」
そのまま勢いを逃がすように地面を背に倒れ込み、眼前のウルフは今度こそトドメをさそうと喉に狙いを定め反対の腕を振り下した。
それに反応し腰に携えている近接戦闘用のナイフを首へと突き刺す。
人間でいう喉にあたると思われる部分を切り裂くと断面から黒い液体を垂れ流し、そのまま力無く活動を停止した。
「っちくしょう..いいのをもらっちまった......」
がらくたへと変わったウルフに蹴りをいれて退かし、突き刺さったギラギラと黒く輝く爪を引き抜こうと触れると鋭い痛みが走りそれを我慢する。
肉と骨まで貫いた爪により裂かれた傷穴からは血が溢れ、地面へと流れ落ち紅い斑点を浮かべる。
「あー......っ もういねぇのかぁ..?」
大きく息を乱し全力疾走を終えた後のように呼吸を荒げるも、それは痛みによる症状ではなくコアから来る本能的な快感が体を駆け巡り自然と目には琥珀色の光を蓄えてしまう。
『ちょっと! 大丈夫なの?!』
「おう..もう少ししたら戦列に戻るから先行しくれ」
この状態で戻るのは最も遠慮しておきたい。
傷を負ったのがみっともないとかそういうことではなく、今戻ったら敵も見方も姉妹も見境なく襲ってしまいそうだった。
興奮が覚めるあいだ先程一撃を与えたグロウの残骸を漁る。
ただの思い立った行動だった。それこそ、「暇だったから」の一言で片付くほど簡単なまでに。
「現在午前7時30分周囲に敵影無し 警戒を厳に」
あれからグロウの襲撃はなく、アマリはゼフィランサス姉さんに応急処置を施され無事に戦列に復帰した。その時に、無理しすぎと頭を小突かれていたのを見逃しはしなかった。
「ここから先グロウの活動圏内ですよね?」
「あぁ。僕達の手があまり届いていない地域だね」
「アビスネストの長距離偵察部隊によると活発化していた所も最近は落ち着いてきたらしいわよ」
「そうなんですか..それは良かったです」
「あいつらはいつ来るか分からない。私のレーダーがあっても信用はダメよ?」
自慢のレーダーを自虐するようにそう言った姉さんは、戦闘時に油断せず常に周囲へと気を配り部隊の安全を守る私とは違う守り方に少し憧れる。
周囲は比較的明るくなり雲の向こうの太陽も真上に向かっている頃だった。
「現在10時丁度。周囲に敵影な---」
姉さんが定時連絡をしている傍ら。僕の任務である前方警戒をしていると後方からドォンッと聞き慣れた音とは少し違う音が聞こえた。
「姉さん、どうしたんだい?」
「分からないわ!急に輸送車両が爆発をしたみたい!」
「安否は?」
「無人追走車だったらしいけど..」
輸送車には、ドライバーが運転する有人操縦と、その子機にあたる一定の間隔を保ちながら追走する無人操縦の二つのタイプが存在する。
今回爆発した車両は人的資源の損害を減らすために造られた新鋭の無人追走車だった。
「攻撃されたのか?」
「..それも分からない」
「......周りにグロウは?」
「レーダーには写ってないわ..」
突然の爆発。攻撃を受けたかも分からないほどの急な出来事に様々な思考が巡る。
車両の整備不良、積荷の爆発......隠蔽性の高いグロウによる長距離攻撃など考えうるいくつかの可能性が出てくる。
「でもここで立ち往生はまずいんじゃないか?」
「えぇそうね..とりあえず先に進みましょう」
しかしこの時予想できる事態のさらに上を行く事になるなんて思いもしなかった。