純白の大地にて
第1話 純白の大地にて
降り積もる雪。見渡す限り平らな雪原に突き刺さるように朽ち果てた旧時代の遺物。
破壊されたトーチカや要塞、戦車など人間同士で争い、殺し合う為に造られたものが至る所に散乱している。
......『次、距離600 4時方向 速度そのまま』
「風速計算カット。徹甲弾装填 ファイア」
白銀の世界。目標の全高は低く狙いにくいが対象的な黒は狙いやすい。
右腕に装備された火砲から塊を放つ。火を噴き出し発射された砲弾はひゅるるると小気味良い音を鳴らしながら目標へと着弾した。
低いエンジン音を響かせ、擦れる金属音を発するのは脚部の[装甲履帯]雪の中を行くにはこいつが必要不可欠だ。
『次はどこだい? ゼフィー』
「今ので最後の目標よ。お疲れ様今日もいい調子ねストック」
今日の風はそこまで強くなく雪がゆっくりとまっすぐ落ちてくる。
頭部に装着されたバイザー越しに訓練をやり終えた妹を見る。優秀な妹を持つと長女としても鼻が高い。
『そういえばアマリとリーの方はまだなのか?』
「え? そうねっと、まだ合同訓練をしてるようだわ」
『あぁそうか..みんな悲鳴をあげてるだろうね』
「ほらほらぁ! お前らその程度か?この私に傷一つくらい付けてみろ!」
目を輝かせ速度全開の装甲履帯で一直線に突撃する少女。
「そんなんじゃすぐ死ぬぞ! もっとよく狙ってみろ!」
約100を超える戦闘部隊からなる歩兵隊の列へ向けて右へ左へ急旋回を加えながら近付く。
「くっ、全隊構え! 撃てぇ!」
構えられた100丁のマシンガンから放たれる弾丸は壁となり押し寄せる。
が、発砲とその同時にくるりと反転し余裕で全弾回避する。
「今日もシールドは張っていないぞ! さっさと当ててみろ!」
上機嫌で言い放った瞬間ひゅんっと飛翔音が聞こえた。それに反応するかのように左肩を見るとかすかに血が滲んでいた。
「..今のは誰だ?正直に手を挙げな」
鉄火のような緋色の目に琥珀色の光が満ちる。『負傷すればその分パワーが上がる』というアマリのコアの特徴が自然と現れてしまう。
ざわつく歩兵隊の列から一人手を挙げる。
「わ、私です!アマリ教官!」
「よくも..お前か!ナンバーは?」
「え、L-9番です..!」
傍から見たらガラの悪いチンピラのような雰囲気に圧倒され歩兵隊からは息さえできない様子だった。
「私は嬉しいよ..やっと、やっとこの私に初めて傷をつけた奴がこの歩兵隊から現れたんだ!」
当てた本人のL-9はもちろんアマリ以外の全員は口を開き、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「優秀な兵士の誕生だ!お前をリーダに任命する!そうだ名前もやろう。ルーク!それでいいよな?」
「えっあ、はいっ! 感激の極みです!」
「これからも頑張れよ!ルーク!今日の訓練おわり!解散!」
『マスタングリーダより各中隊へ 目標は1人だけだが油断はするな』
『アパルーサリーダ了解 すぐ終わらせて歩兵隊の奴らへ自慢してやろう』
『クライスデールリーダ了解 今回こそ勝つぞ』
四足歩行動物のような二対の菱形履帯が特徴的な戦車。グリズリーとその強化版、グリズリー改はアビスネストの誇る主力戦車全27両3中隊は雪原を横隊で進軍している。
『こちらアパルーサ2-2前方距離約3200 フリージア教官を発見』
『マスタングリーダ了解。2800で行進間射撃開始後、2000で停止 正面射を行う』
「さぁ、全力で来てください」
身の丈の2倍はある大きな純白の盾を2つ構え巨大な装甲履帯に今日も『乗る』
「きっと..大丈夫ですよね。私のコアは強いもの」
大盾を地面に突き刺し角度をつけて構えるとその瞬間大量の砲弾が降り注ぐと粉塵は舞い上がり、爆音が響き、それらが収まるまで耐え続ける。
純白の盾は傷こそ着くものの、全てうけとめ、弾き返し、盾を背負うと戦車隊へと無傷の姿を示す。
『今回も私の勝ちのようですね..今度はこちらの番です..!』
特徴的な8本の装甲履帯を回転させ戦車隊の列へと接近しながら肩部の中口径砲弾で行進間射撃を開始する。
『目標接近..!』
『っ、全車全速後退!!』
比較的練度の高いマスタング中隊は横隊陣形を崩さずそのまま全速力で後退することに成功した。が、ほかの2中隊は混乱や焦りなどで逃げるのが遅れた所を1台また1台と撃破していく。
「逃がしはしません!」
逃げることに精一杯のマスタング中隊の側面を捉え、肩部の高速榴弾砲を放ち履帯や駆動輪を破壊し動きを止めると雪を煙幕のように巻き上げながら全速力で接近する。
「これで終わりです!」
装甲履帯前方の一対を巨大なチェーンソーのように展開させマニュピレーターアームに装着する。
『ダメです足がやられました!..追いつかれます!』
巨大な装備をしながらも蜘蛛のように素早く飛びかかりグリズリー改の砲塔部分に張り付くと、果物を切るように容易く砲身を一瞬で真っ二つにした。
「アマリ、リーお疲れ様。今日もいい調子だったみたいだね」
「ん、お疲れストック姉!」
「姉さんもお疲れ様です」
訓練上がりの2人の妹へスポーツドリンクを渡すと1つ礼をし、美味しそうにごくごくと飲むアマリとこちらも例をしゆっくりと落ち着きながら喉を潤すリー。
「君たち2人は本当に正反対だね。見てて面白いよ」
「そう?リーが引っ込み思案すぎるだけだと思うぞ?」
「姉さんがツッコミバカなだけですよ」
なによぉーっと今にもキャットファイトが始まりそうな雰囲気を静止させるのも私の役目だ。
「ったく..そういえばゼフィー姉ちゃんはどこ行ったんだ?」
「あぁ、今回の訓練結果を報告しに行ってるよ」
「今週は姉さんの番ですもんね」
「村長と話があるらしいから先に部屋に帰っていいってさ」
「なら帰ろう!シャワーだシャワー!」
と3人は自室へと向かっていった。
外は日が沈みはじめる。
覆われた雲により日は遮られこの星の夜はすぐにやってくる。
暗がりの部屋でライトも付いておらず、慣れぬ独特な緊張感に苛まれながらも淡々と続ける。
「以上が今回の訓練結果です。質問はありますか?」
「ん、ないよ。今日もご苦労さん、ゆっくり休んでくれ」