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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シーガル☆フォーエヴァー ~いや、いま焼肉って気分じゃないんッスよね。~


波が俺を呼んでいる 七色に施されたサーフボードを片手に

遠くまで澄み渡る空の下、一面に広がる海 海

足元に感じる冷たさは夏を感じさせてくれる

膝は沈んでないから、良い波まではは遠いな

でも 進むのは苦しくないね


相棒に身を預け 道なき道を進む

真っ昼間から自然のスポットライトが齎す刺激は十分過ぎるポイズン

それでも俺には味気良いスパイス

陸地はもう米粒サイズ あとは波を待つだけ




―――俺は上記のことを7回口ずさみながら、錆びれた個室のユニットバスで棒立ちのままでクロールの動きをしていたのだが、突然扉を大きく叩く音が。



「ステェアップッッ!!!!貴様はッ罪を犯したッッ!!!!」



「うわヤッベ、バレた!!!!」



だが奴ら、扉を大きく叩くだけで、突入はしてこない。中途半端。実に、中途半端。こいつらはきっと焼きたてホヤホヤのフランスパンみたいな連中なんだろう。


――耳を澄ます。扉の外側にいるのは2人。扉を叩いているのは武器は持っていないようだ。だとしたら、武器を持たなく"ても"問題が無いという意味なのか……。もう片方は何やらジャラジャラと音を立てている。爆弾か?それとも弾丸か?……何にせよ、ここは一刻も早く出た方がよさげだ。



「貴様は表に出なければならないッ!さもなくばッッこの扉を打ち破るッッ!!!!」



「わーkったよォ。俺は"表"に出るよ……ほらよォ!!!!」



俺は扉を蹴破り、その勢いで扉の前に居た連中共もペ☆シャンコした。俺は横たわる扉の"表"側に立っている。こいつらはもう少し、文脈の裏をかく訓練をすべきだったな。俺ならびに扉の下敷きとなっている連中を覗いたのだが、1人はテレビ局の集金係の人で、もう1人は家賃の滞納にシビレを切らした家主だった。床には血がじわりじわりと広がっている。あと、2人とも反応がない。まるで屍のように……。


……俺は決してそんなつもりじゃなかった。ちょっとお遊びのつもりで、気絶するくらいに加減はした筈だった。本当に、ワザとじゃないんだ。俺はてっきり、扉の外には"連中"が待ち受けているのかと思ってて……



「貴様!!!!そこで何をしているッッ!!!!」



しまった!俺が予想していた本来の"連中"が、本当に来てしまった!俺は焦りに焦って部屋の窓から大脱出をかまし、路地裏へ逃げ込む。ここまで来たなら一安心だ。俺は、気づかれそうにみえて意外と気づかれないくらいの絶秒なこっそり見テクニックでもって、"連中"を観察する。



「クソっ、取り逃したか……だが、まだ近辺に潜んでいるはずだッ!」



「リーダー!これは……!」




"連中"は、打ち破られた扉の下敷きとなっている2つの死体を発見した。




「し、死んでいる……ッ」




「……畜生ッ、この辺り一帯の警備を強化しろ!!一刻も早くだ!!このままではッ……市民たちが危ない!!!!」




"連中"は急いでその場を去った。奴らが本領を発揮した時はとんでもない。早く遠くに逃げないと、すぐに奴らに見つかってしまうだろう。俺は気付かれない様にその場を去り、遠く遠くに逃げる。


俺を悪戯心に照らし続けていた夕陽が沈み、月がこの世界を監視し始めて数時間経ったか、覚えていられないくらいには走った。気付いたら俺はスラム街にいた。そこら中に人間が横たわったり這いつくばったりしている。奴らは職を失ったのだ。あの"法律"のせいでな。となるとこの辺りは、"連中"にとっては訪れる価値すらない"吹き溜まり"の場所でしかない。ここまでくれば、当分は見つかることはないだろう。



"連中"の正体は我が国の特別高等警察だ。以後、特高警察と略すことにするが。……奴らはこの国に存在するフザけた法を守るために一所懸命パトロールをしている。


「禁詩法」。文字通り、詩をつくることを禁じる法律だ。馬鹿みたいだろ?フザけてるとしか思えないよな。だが、そんなバカげた法律に違反してしまった罪のない国民たちが、こうしてる今もどこかで特高警察によって取り締まられているのだろう。そして俺も、その1人"だった"のだ。


禁詩法が制定される前、この国は詩と活気に溢れていた。人々は詩に勤しみ、俺もソーシャルジャスティスストリートポエマーとして名を馳せていた。俺は本名が致命的にダサかったから、「シーガル☆フォーエヴァー」という仮の名前を使い、ポエムバトルに明け暮れていた。その日だけしか生まれない詩を交わし合う果てしない戦い……流れる汗……時折、溢れる涙……そりゃあ、血気盛んだったとも言えるが、それ以前に言葉と人のもつパワーと美しさが溢れていた。そういやバトルの成果とか盛り上がりが評価されて、国から肩書きだけは凄い役職なんかも貰ったりしたっけな。あと、バトルを通じて、人生で最も素晴らしく、最も愛する人と出会い、結ばれたりもした。……過去の自慢話やら惚気話を並べて懐かしむなんてくだらねぇマネはしたくなかったが、あの時代は、とても輝いていた。



だが、突然その輝きは失われた。報せもなく、詩を禁ずる法律は成立した。晴天の霹靂だ。俺は……曲りなりにも国から職務を任された人間だから、報せを貰ってもいい筈だったのだが、どうやら俺なんかじゃ関与できないほど"上"の連中が勝手に決めたのだそうだ。それも、事前に知らせることすらせずに。


国民は猛反発した。当然だ。この国で"詩"をつくることは、"生きる"のに等しい。国の、限られた一部の層が大多数の生きる権利を略奪したことに納得を覚える人間など存在しないだろう。だが、詩を禁じた勢力の持つ力は絶望的にも、大きすぎたのだ。



反対を謳う国民は殆ど、"連中"により取り締まられた。詩という武力で以って立ち向かう勢力もいた。俺も、その1人だった。詩を武器としたのだ。俺達の自由を守るために。……それが結果的に、大切な人を傷つけてしまい、俺の元からいなくなってしまった。詩で守ろうとした愛すべき人を、詩を守ろうとしたことで、詩で傷つけちまうなんてな。皮肉だよな。


結果的に俺は"連中"に捉えられた。というよりは、追放されたんだろうな。そして俺と同じくして、戦いを挑んだ人間、反対だけを唱えた者も含め、多くの人間が法を犯した者が収容される地下労働施設に囚われることとなった。そのまま日を浴びることなく生活が終了した人は数えきれない。ごく稀に、俺のように恩赦を受けて外に出られた奴もいるが、そうした奴らは決まってこの場所に捨てられて、ロクな職にも就けずに、道端で飢えるしかないのだ。俺が危うく踏みかけたこの人間も、かつては立派なストリートポエマーの1人だったのだろう。



俺はもうポエマーじゃない。外に出てからは、運よく匿名の啓蒙活動家となって日々のやり繰りをしている。おかげで道端で飢えずには済んでいる。それに、詩で人を傷つけた俺に詩を詠う資格はない。―――だが、詩への恋しさが消えることは、なかった。だからさっきも、詩を詠んだ。だが、"連中"は、詩らしいことを喋っているだけで嗅ぎ付けてくるからな。鬱陶しいものだ。まぁそれ以前に、俺はもっと重大な法違反をかましちまった訳だが……。



……といった事(正確には、「"連中は"~」のくだりから「~をかましちまった訳だが……。」のところまでの範囲)を13回呟きながらアシカの真似るように左旋回を繰り返していたのだが、いまのこの街の暗さには似つかわしくないに品の良いジャケットと小綺麗なシャツを上半身に着ているややウサンくさい男が近寄って来た。下半身は、何も着ていない。



「いや~ン☆エッチぃ!ケーサツよんでやるゥ♡」



「待て待て私だ。覚えておらんのかね?」



俺は両目を5回ゴシゴシして、鼻の穴の中を4回ゴシゴシしてから男を確認した。この男はやはり、ウサンくさい。何故なら、俺のよく知っている、凄腕だけど"ウサんくさかった"、最大の敵であり数少ない友。――ナロウ・Bヴァン・サレット男爵だ。




「お前……リーガルかっ!……いや、今はサレット卿と呼ぶべきかな?」



「リーガルとは、随分古い名前を覚えているものだな。君が道端から地下へと主戦場が変化しつつあった時にはもう、私は詩から離れ、本名を名乗り貴族社会に進んでいったからな。君もそろそろ、匿名での活動をやめて本名を名乗っても良いのではないかね?」



「やだね。俺は本名が嫌いだからね。何なら、君のかつての名前、俺に譲ってくれないか。あの名前、今の啓蒙活動家として名乗るなら似合うと思うけど。」



サレットはジャケットを整える。ついでにパンツも整える仕草をする。―――下半身は、何も履いていない。



「それはお断りだな。"リーガル☆ポエマー"の名は私も気に入っているんだ。君はさしずめ、"イリーガル☆ポエマー"、が相応しいのではないかね?」



「ふん、冗談だよ。それに俺は……もうポエマーじゃない。啓蒙活動家だしな。合ってるのはイリーガルって所だけだな。」



サレットは再びジャケットを整える。何で会話する度にジャケットが崩れるんだ。そしてまたパンツを整える仕草をした。―――何度も言うが、下半身は、何も履いていない。



「君が捕まるのは予想外だったよ。過激派ポエマー、"シーガル☆フォーエヴァー"。カモメの如く、言葉の大海を永遠に渡る詩人。世間は賛否分かれる評価を下していたが、私は君の詩が、好きだった。」



「俺に続いて冗談言うのはやめろ。……それにまず、こんな所に政府の人間が来ちゃマズイだろ。早く離れた方がいいんじゃないのか?ついでに鏡の前に立つといい。」



「まぁそう逸るな。何を隠そう君に恩赦をかけるようにしたのは、この私だ。」



「……どういうつもりだ?」



俺は睨みつける。目の前にいる、素体の知れない人間のことを。俺の経験上、詩を交わり続けると相手の素性とか性格とかも知ることができるのだが、コイツに関しては何度も何度も詩で殴り合ってもわかることはなかった。投げてくる言葉が、どれも不穏で、トリッキー。あの時のことを思い出すよ。



「俺をどういう意図で、シャバに出したのか、聞いてるんだ。」



「なあに、君が不審がる意味は持っちゃいないよ。『禁詩法』は知っているだろ?」



その法律はとっくに知っている。俺はその法律を侵したことで裁かれ、収容させられたのだ。俺の事を馬鹿にしているのか。



「禁詩法は脈絡もなく突然施行した。その結果多くの国民が収容施設に囚われることとなった。そして今、詩を禁ずる国家の動きは実り、今や詩が禁じられても違和感のない国民がほとんどを占めている。全くもって、後味の悪い世界となったものでな……。」



サレットが他所を向きながら喋っている時は、大抵は頼み事がある時だ。



「……悪いが、専門外の仕事はやらないよ。啓蒙活動家としての仕事しか引き受けないことにしてるんでね。」



面倒事はもう、これ以上ごめんだ。それに俺はもう既に、追われている身となったからな。だが、サレットはそんな俺の肩をガッシリと掴んできた。



「そうか……実はな、君が啓蒙活動家であるからこそ、聞いてほしい事があるのでな。」



俺のことを凝視してくる。よくよく考えたら下半身何も履いてないヤツが見つめてくるのって絵面がエグいから、俺は何となく空を見上げている。……あ、流れ星だ。



「だが、ここじゃまずい。場所を変える。ここに来たのも実は、私の行きつけのバーがあってな。焼肉屋もやってるんだ。話はそこでするとしよう。」




「え?いや、いま焼肉って気分じゃないんッスよね。オレ。」




「おい何で急に話す雰囲気を変えるんだ。やめろ。一緒に焼肉屋に来い。」




「いやぁ……ヤダなー。え、ヤダなー。一応ここ中世ヨーロッパの街の片隅やん?ぎりぎりヨーロッパやん?ヨーロッパなのに焼肉ヤダなー。コーヒーとか飲む場所がいいヨォ~~~。コーヒーショップとかさ~~~~。」




サレット卿は額に手を当てた。戸惑っている。明らかに。




「困った……この辺りでコーヒーショップを見たことがない。ここは焼肉屋があること以外知らないのだ。……焼肉屋でだってコーヒーは飲めるだろ?それじゃいかんのかね?」




「いやだ!コーヒーショップがいい!」



俺の駄々っ子ぷりに、サレット卿はますます困ったさんになっていた。……全く、仕方がないなぁ。俺は人が困った時は、解決してあげようという気持ちになってしまうからなぁ。ここは、あの"手"を使おう。




「じゃあ、分離しまーす。」



「は?」





俺は、メキメキメキと身体を裂く。分裂した2つの肉体はやがて人の形を成して行き、最終的に俺と全く変わらない姿をした人間と、サーフボードに分かれたのだった。




「な……ど、どうなってるんだ?……え?てか、え、何でサーフボード?」




そして俺の姿をした人間が自己紹介を始める。




「俺っち、木高もだか 小恋漢ここから!!!!最近ようやく、啓蒙活動家として生活やってマ~ス☆☆☆」




突然の変異に、サレットはさっきよりも戸惑いを隠せない。



「えっ、え何。え?……てか君、本名、もだかここから、っていうんだね。」



俺の形をした人間はにこやかだ。



「うん、そうだよ!そしてそのサーフボードはもう1人の"俺"だから、そいつのことをよろしくね!それじゃあ、俺は焼肉の気分じゃないから、コーヒーショップに行ってくるよ!」




俺の姿をした人間はスキップしながらコーヒーショップへ向かう。サレットはまぁ焦る焦る。



「お、おい待ってくれ!え?サーフボードも君なのかい?!え、サーフボードも君かい?!?!」




「ん~?サーフボードは"俺"、で俺は俺!うわ~っ!早くしないと、3時から始まる大好きなアニメに間に合わないよ~!」



そして、彼は去ってしまった。サレットはもう、どうしたらいいのかわからないまま、サーフボード……つまり、俺に話しかけようとしている。……彼からすれば、俺は、"俺"だがな。




「……えっと……君は、その……、君、何だよな?」




全くもって、訳のわからない質問だ。だが仕方ない。俺は真摯に答えなければならない。




「あぁ、俺は俺だ。まぁ、サーフボードの身体をしてるけどな。だが、戻ることだってできる。」



そして俺は、何かこう……ね(笑) することで、無事に俺は俺の姿に戻ることが出来た。サレットは明らかに心臓がバクバクしてそうな様子だ。確かにそうなるのも致し方ないこと。サーフボードから人の姿に戻る時ってなかなかにグロテスクな絵が続くからな。だがこれなら、焼肉屋に行くという選択肢は消えてくれることだろう。けどまぁ、今なら焼肉屋に行っても問題はない。焼肉屋に行きたくないという感情は、彼に託したことだしな。



「と、とにかく、元に戻ってくれてよかったよ……。……あぁ、ちょっと落ち着かない。少し、辺りを散歩してから話すことにしよう。」



サレットはジャケットを整え、パンツを整える仕草をする。明らかに挙動がおかしくなってたからな。ジャケットを整えるのはわかるが、なぜパンツも整えるのだろうか。下半身、何も履いてないよな。



「あ、ついでに言っておくと、俺から離れた彼を俺と融合させたいなら、その時にテキトーにウサギを放ってくれ。そうすると色々条件が発動して……ね?」




「………いやいやいやいやわかんない。わかんない。わかんない。」




俺も理由は把握していないが、何故か、そうすべきであると強く思ったのだ。――少しだけ自分の感覚に違和感を覚えたがな。朝食に小さな肉片と腐った牛乳を摂ってしまったからだろうか。そういえば腐った牛乳は、妙に甘かったな。それも牛乳の甘さではなく、不思議なものでね。


……気が向いたら、このこともサレットに話すこととしよう。久しぶりに会えたからには、酒も交わすことだろう。酒を多く含んだ辺りから話を始めるのが望ましい。


ひとまず、ここでなければどこでもいい。何なら、奴の好きな焼肉屋とかが、丁度いいだろう。



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