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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
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空白

「まだ怒ってんのかなぁ。どうしたものか」

飲みかけの缶コーヒーを片手に、木陰のベンチで天を仰ぐ。

綾人は大学の体育館近くの休憩スペースで一人時間を潰していた。ちなみに3限の金融論は、

講堂入口で楪と別れてからこっそりと抜け出している。今年もこの単位は取れそうにない。同じように半ば放棄した単位がいくつもある。おそらく年度末の進級は絶望的だろう。

綾人はたとえ進級できなかったとしてもそれで一向に構わなかった。加えて言うならそのまま中退になっても、だ。

ならば何故大学に進学したのか、とまわりの人間は疑問に思うだろう。

記憶を失くした3年前から目標も生きがいも無く勉強ぐらいしかやることがなかった、だとか、幼馴染に将来を心配されて言われるがままに進学した、などと答えることになるのだろう。

自身にある数少ない思い出を辿り、そのままさらに奥へ向かうことができないもどかしさが綾人を再び苦しめる。

「空っぽだな、俺は……」

楪には3年前にとある事故に巻き込まれてしまった、と聞いている。意識不明の重体になり脳にダメージを受けたことが原因で記憶消失になったのだと。どうやら両親もそのときに死んでいるらしいのだが、そもそも両親の顔すら思い出すことができない。

病室で目覚め、泣き腫らした楪の顔が視界に入ってきたあの時からの記憶だけで生きてきた。

友達と呼べる人間はほぼいない。事故以前仲が良かった者は、すべてを忘れてしまい内向的になった綾人から徐々に離れていった。

自分が何が好きだったのか、何をやりたかったのか、何を大切にしていたのか、そのどれもがわからなくずっともがき続けてきた。大学への進学も楪に強く勧められたことが大きな要因であるものの、環境が変化すれば何かを見つけられるかもしれない、という淡い期待があったからだ。しかしこの1年でそんな期待も打ち砕かれた。

この埋めようのない虚無感がこれから先ずっとのしかかってくるのだろう。肌寒いのは季節のせいだけじゃないことは綾人もわかっていた。何ができるわけでもなくたった一人で黄昏るしかない。

気が付けば缶コーヒーはとっくに冷め切っていた。

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