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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
25/26

勃発

「撃ってきやがった!? 躊躇なしかよ、冗談じゃねえ」

綾人は暗闇の廃工場を全速力で逃げまどっていた。

遼と楪の怪しげなやり取りを盗み見ていたのだが、会話に聞き入るあまり不意に物音をたててしまい遼に気づかれてからまだ数分とたっていない。

(鬼人だとか百鬼だとか一体なんなんだ? 楪とどう関係する? それにあの薬は……) 

塀沿いの廃材置き場跡を乗り越え、入り口の門の方角を伺う。そうやって逃げながらも推察を続ける。しかし納得できる答えは出てこない。彼らの会話のすべてが聞こえていたわけではないからだ。

「それより、今はこの状況をなんとかしないと…… うわっ!?」

またも発砲音が響く。身を隠していたトラックの窓ガラスに着弾し、飛散した破片のいくつかが肩に降り注ぐ。綾人は低い姿勢を保ち車体後部に回り込もうとするが、荷台に銃弾が着弾する金属音がその動きを阻む。

(位置が、バレている!?)

先回りするかのような銃撃で綾人はあることに気付いた。

場所は山中の廃工場であり、夜間で照明はない。しかし、どういうカラクリかはわからないが相手は自分の位置をほとんど正確に把握しており、狙い撃たれているのだと

そう思ってからというものの、その場から動くことができなくなっていた。そんな綾人に構うはずもなく、銃を手にした何者かはゆっくりと距離を詰めてくる。一歩、また一歩と迫ってくるその足音が、すでに恐怖と緊張感でいっぱいになった綾人を追い詰める。

(どうする、どうしたらいい……?)

必死に考えを巡らせながら辺りを見回す。相変わらず一帯は暗闇のままではあるが、目が慣れてきたこともあり、綾人はあるものを発見した。

「よし。イチかバチか、やってやる」

それは身を隠すトラックの荷台に積まれていた袋詰めの工業用石灰だった。綾人は荷台から落ち破れて中身が少なくなっていたそのうちの一袋を両手で持ち上げ、敵がいるであろう方角に放り投げた。投げると同時に門に向けて走り出す。

「ぐはっ!?」

しかし、走り出して間もなく腹部に強烈な回し蹴りを受け、綾人はそのまま地面に叩きつけられた。

「ゲホ、ゲホ。狙いはよかったが残念だったナ。俺に煙幕は効かない」

「な、なんで……」

遼に中村と呼ばれていたその大柄な男は、石灰に咳こみながらも綾人を見下ろす形で銃を向けていた。そして、中村には普通の人間には存在しないはずのあるモノがついていた。

「………………角?」

うっすらと光る2本の角と、怪しく輝く赤い瞳。

一目でわかる異形のそれに、綾人は湧き上がる疑問を自然と口にしていた。

「鬼人を見るのは初めてか、少年?」

「鬼人…………」

遼と楪の会話のなかで出てきたフレーズだ、と綾人はその単語を反芻する。

「暗闇も煙幕も無視して他人を痛めつけられるのが鬼人ってやつなのか?」

「んだと?」

「うぐっ!?」

挑発混じりの質問に、中村は苛立ちを隠そうともせず綾人の顔面を蹴りつける。切った口内から血が飛び散る。ひとまずはそれで満足したのか、中村は綾人の質問に答える。

「ああ、そうさ。俺の鬼人としての能力は聴覚強化。お前の足音も情けない独り言も全部聞こえていたぜ。逃げられると思うなよ」

中村は綾人の胸倉を掴みあげ、銃を突き付けながら睨み付ける。

「俺からも聞かせてもらう。どうやってここを突き止めた?」

「……………………」

無言のまま睨み返す綾人の頬を、中村は銃を持つ手の裏拳で殴りつける。綾人は一瞬意識が飛びかける。

「調子に乗るなよ。腹に風穴開けられたいのか?」

「…………車の後ろをつけさせてもらった」

渋々といった態度で綾人は尾行を白状した。ついでに中村の胸元目がけて血を吐き捨てる。

「そんなわけあるか!! 俺が聞き逃すわけがねえんだよ!!!!」

中村は綾人の挑発行為への報復も忘れ、激情を露わに銃を押し付ける。

「嘘じゃねぇよ。そこの門の外にバイクがある、確認すればいい」

「…………質問を変える。誰の差し金だ、クソガキ?」

「差し金?」

「お前の話が本当だとして、こんな人通りも車通りもないところまでずっと俺の耳を欺けるはずがねえ! 誰がケツ持ってる? 答えろ!!」

語気を荒げ一層強く銃を押し付けられてもなお、綾人は怯むことはなかった。トラックの陰に隠れて固まっていた時とは正反対である。何故なら目の前の中村という男が、楪を無理矢理引っ張っていった張本人だからにほかならない。押さえつけられその顔を確認してからというもの、恐怖よりも憎しみの感情が上回っていたのだ。

「…………」

「……ハァ、もういい。死んどけ」

そうして睨み合うこと数十秒、先に口を開いたのは中村だった。

これから行うであろう行為に躊躇いも罪悪感もまったくないといった様子で、綾人の脳天に銃口を向けなおす。中村がUSP.45の無骨なトリガーに力を込めようとしたとき、2人がよく知る声がそれを制した。

「中村、そのへんにしとけ。情報源を潰す気か?」

遼だった。

暗闇でまだ距離も離れているため遼のほうは綾人のことを確認できていないようだったが、綾人には聞き間違うことのない声だった。

「そうッスよ。石川の自白剤あるの忘れてんですか~? 中村さん、普段寡黙なのにキレやすいっすよね」

「…………フン」

そしてその遼のさらに後方から、また別のおちゃらけた声も聞こえてくる。

「前野、お前の持ち場はあの女のところだろう? 速水サンの指示を無視して勝手なことをするな」

「いいんだよ、中村。俺が呼んだんだ。銃声も止んだしそろそろコレが必要な頃かと思ってね」

追いついた前野から薬剤入りの注入ガンを受け取った遼がゆっくりと近づいてくる。

この一連のやり取りで中村の注意が逸れるのを綾人は見逃さなかった。

「!?」

中村の股間目がけて残った渾身の力で足を振り上げた。声にならない悲鳴をあげる中村には目もくれず、拘束を解かれた綾人は遼に向かって一直線に飛び掛かる。

「遼ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「な、綾人!?」

予想だにしていなかった人物の急襲により遼は戦闘態勢に入ることが遅れ、銃を構えることができなかった。一方の綾人は、敵意剥き出しで固く握った拳を振り上げている。

2人が交差しようとした瞬間、一発の銃声が響いた。

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