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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
21/26

交錯

綾人は自宅への帰路を4速8000回転で車列の隙間を足早に駆け抜けていた。

「クソッ、こんな混んでるのかよ……」

サボタージュが平常と化していた綾人には最終の5限まで大学にいることなどないため、帰宅ラッシュの始まる夕方の国道の混雑具合など知る由もない。夕方は大体はバイト先で遼や真尋と他愛のない会話を繰り広げているばかりだ。

――楪との関係を修復するためにまず自分の生活や行いを見つめなおす。そう決めたはいいものの、いきなり終日目一杯講義を受講するのは骨が折れた。思い返せば、昨年度の単位取得状況が芳しくないから、と楪が半ば強引に入れられるだけの講義を詰め込んだ年間取得申請を提出したのだった。俗にいうフル単である。

(甘えてばっかだったな…… あいつは今、どうしてるかな)

逸る気持ちとは裏腹に目の前の信号が赤く灯る。

交差する車線に比べ圧倒的に交通量の多い現車線から見れば、停車させられる時間などたかが知れたものだ。だが、綾人にはその時間がいやに長く感じる。信号が青に変わるのと同時、車列の先頭から二輪特有の瞬発力を活かして弾けるように飛び出していく。そしてまた赤信号に阻まれる。

信号の周期設定はよく考えられているもので、法定速度で走行するとスムーズに通過できるとも言われている。綾人はそんなこと露知らず急発進急停止を何度も何度も繰り返し、ようやく自宅アパートが見える路地まで来ていた。さらに交差点を一つ曲がり、そろそろ減速しヘルメットのシールドーを開けようか……と手をかけたところで、

「なんだアレ? 水道業者か何かか?」

アパートの目の前を塞ぐように停まっている白いワンボックスカーが目に入った。

ただ業者にしては不自然で、車体横に事業者名のひとつも入っておらず、窓ガラスはすべてフルスモークで覆われている。何より駐輪場や出入口を完全に塞ぐような駐車そのものが、明らかに本職のそれではない。そのおかげで綾人はバイクを停めようにも停められない。

「急いでるってのになんなんだよあいつは!?」

アパートまで数十メートル手前でエンジンをかけたままバイクのスタンドをたて、苛立ちを隠せない綾人は文句の一つも言ってやろうと歩き出す。一歩、二歩、三歩……と進んだときだった。

綾人は思いもしていなかった、しかし心の奥底では一番聞きたかった声を耳にすることになった。

「やめてください! その話はお断りしたはずです」

水瀬楪だった。

その関係性について何日も思い悩み、またその顔を見て声を聞きたいと願った大事な幼馴染その人だった。

しかしその声は綾人ではない別の誰かに向けられているようで、珍しく語気も荒げているようだった。何かトラブルに巻き込まれているのは一目瞭然だ。

さらに距離を詰め、様子を伺う。

「わーった、わーった。とりあえず乗れ。場所を変えよう」

「イヤァ離して!! 誰か……むぐっ!?」

玄関の内側にいたであろう筋肉質で大柄な男が楪の腕と口元を押さえつけ無理矢理に車内まで連れ込もうとしていた。この時点で立派な犯罪行為そのものだ。

(オイオイオイオイ、まずいだろこの状況!?)

綾人は制止しようと反射的に駆け出す。駆け出しながら警察への通報も考えるが、連絡手段を持っていないことを思い出し即座に断念した。どの道、このまま黙って見過ごすことなどできない。

残り十数メートルまで接近し危険を承知で飛び掛かろうとした瞬間、受け入れがたい事実が綾人の足をピタリと凍り付くように止めてしまった。

「嘘だろ? なんで…………」

綾人が見てしまったのは、車内から楪を引き込もうとする男の横顔。

「なんで…… どうして……」

ワンボックスカーのスライドドアの隙間から覗く自信に満ち溢れた表情と切れ長の目を持つその顔立ちは、いくら距離が離れていたって見紛うことなどありえない。

「どういうことですか? 遼さん……………………」

車内にいたままの速水遼は十数メートル先に綾人がいることなど気づかず、不敵な笑みでそのまま楪を車内に引っ張り込み、ドアを閉めた。

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