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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
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後悔

用事がある、といって公園を後にする詩音を見送った綾人は、投げ捨てたヘルメットを拾い上げ、鍵を挿しっぱなしの愛車のもとへと歩く。

朝陽はぐんぐんと上昇し、街は人々が活動を開始した音で溢れている。

だが、不思議とこの展望公園の周囲には人の気配がなかった。徘徊する老人や犬の散歩をしている人がいてもおかしくない時間であるが、人だけでなく車やバイクの一台として見当たらない。

綾人は最初こそ小さな違和感を感じていたものの、その違和感はこれからやるべきことを考えていたためあっさりと塗りつぶされていた。

「楪と仲直りをするのが先決、だが……」

呟きながら広げた右手を見つめる。何度か握っては開き、感触を確かめるが痛みなどこれっぽっちもない。

(連絡手段がないんだよなぁ。直接は会ってくれなさそうだし、どうしたものか)

今朝方、おそらくこの右手がスマートフォンを握りつぶした。

しかし今しがた確かめたように痛みはなく、直後はあったはずの傷跡もまるで最初から存在してなかったかのように綺麗に完治していた。

この奇妙な自らの身体が気にならなくなったと言えば嘘になるが、それでも詩音とのひと時を経た今の綾人は冷静さを保っていられた。

解決しなくてはならない問題ではあるが、今優先することはほかにある。一先ず棚上げすることにした。

そして考える。取れる手段、必要な事象、楪の心境。

「…………大学行くか」

数分の逡巡ののち、結論が出た。

だが、これは思考放棄をして投げやりに出した逃げの選択ではない。

これから真剣に楪と向き合うために、本来やるべきことをきちんとこなしたうえで真摯な姿勢で彼女の元へと行くべきだという綾人なりの決意の表れのひとつなのだ。

「よし、行くぞ」

真っ白なヘルメットを被り、バンディットに跨りエンジンを始動した綾人が向かう先は大学……ではなく自宅。

いざ講義に出席することを決意したはいいものの、ノートや教材はおろか財布のひとつも持っていないことに気付いたからだ。これでは学ぶものも学べない。というのも、綾人には大学に友人の類が一人もいない。当然ものの貸し借りなど期待できるはずもなく、手ぶらで講義が頭に入るほどこれまで真面目に受講もしていなかった。

これまでの自分の行いの悪さに半ば呆れつつ、戻ってきた自室で荷物の支度に入る。

ついでにスマートフォンの残骸と袖の焼け焦げたジャージをゴミとして片づける。目を背けたくなる気持ちを抑えしっかりと、一欠けら残さずに。

出席の準備と着替えも終え、これなら一限にも間に合うだろう時間に部屋を出る。

真っ先に向かったのは真下の部屋。

「楪、大学から帰ってきたら話がある。大事な話だ」

扉の向こう側からの返事は、ない。それでも綾人は続ける。

「もしかしなくても俺は楪に頼りっぱなしだったと思う。それって不公平なんじゃないかって気づいたんだ。だからこそ、楪も何かあったらすべて話してほしい。不満でも愚痴でも何でも受け入れるから」

綾人は近所にまで聞こえているだろう声量で、扉の向こうにいるはずの楪に想いの丈の一部をぶつけた。

起きて聞いてはいるのだろう、僅かに物音がしたがそれでも返答はない。

「遅刻しちゃうから俺、行くよ。また後で」

綾人はくじけそうな気持もあったが、少しでも今の考えが届いたのなら一歩前進と捉える余裕が生まれていた。

だが、その余裕がこれからのすべてを一変させる原因の一つになるとは思っていなかった。

綾人はこの時、無理にでも楪と対面すべきだった。扉をブチ破ってでも、窓ガラスを破壊してでも、何としても彼女の顔を見て話し、伝え、和解する必要があった。

しかし綾人はそんな状況など露知らず、バイクで走り出す。

この時の行動を、綾人はこれから長い間悔やむことになる。

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