配慮
「おっと、気づけばもうこんな時間か」
進路相談会も一段落し通常の業務に戻っていたところ、店内に流れる地方ラジオが夕方のニュース放送を始めた。気の抜けるイントロBGMを聞き流していたところ、遼が思い出したかのように切り出した。
「綾人、悪い。この後ちょっと用事あるから先にあがらせてくれないか? もう少ししたら真尋も来るからさ」
「珍しいですね。いつも世話になりっぱなしだし、そもそも客なんてまったく来ないんで構いませんよ。戸締りだけきちんとしとけば問題ないですよね」
「頼むわ。埋め合わせはするからさ」
「気にしなくていいですって」
律儀なところはこの先輩の美点だが、もしかしなくても時給より遥かに高額な食事をご馳走になりかねない。さすがに申し訳が立たないので、綾人はこれを固辞する。
「しかしだな、今回はかなり個人的な用事でお前らに悪いっていうか……」
どんな用事だろう、とは思うが遼が口に出していない以上突くのも野暮というものだ。ただそのまま引き下がるとも思えないので、綾人は野暮用を一つお願いをした。
「でしたらお願いしたいことがあるんですけど。ついででいいんで、これをうちのアパート1階の楪のところに届けてもらえないですか」
バックヤードのバッグからいっぱいになったコンビニの袋を取り出す。中にはちょっと高めの栄養ドリンク、彩り豊かなサンドイッチの詰め合わせ、スポーツドリンク、カロリーの高そうな菓子パン、パック詰めの白米などコンビニで買えるありとあらゆる食品と飲料が詰まっている。
「こりゃすごい量だな。楪ちゃんどうかしたの!?」
「どうやら体調崩しちゃったみたいなんですよ。それなのに今朝無神経なことやっちゃって喧嘩までしてしまいまして…… 今日まだ何も食べていないだろうしお詫びも兼ねてです」
「なるほど、引き受けた。早いほうがいいだろうしな」
「すみません。助かります」
遼へ荷物を手渡すちょうどその時、
――速報です。港湾地区にて、6日前より行方不明となっていた市内の県立高校女子生徒が保護されたようです。県警は若年女性連続失踪事件との関連性があるとみて引き続き捜査を続ける模様です。
「また、ですね……」
「すっかり聞き慣れたニュースだよ。進展なさすぎて毎回同じ文面じゃねえか!ってな」
「警察はなにやっているんでしょうねえ」
「それそれ。奴らじゃ頼りにならねえし、楪ちゃんのことも気を付けないとダメだぞ? 綾人君」
それぐらい言われなくてもわかっている、と言い返そうとしたところで渡しかけていた荷物を掴みあげられた。
「まあ、心配しなくてもお遣いはしっかりこなさせてもらうよ。ちょっとばかり様子見て、何かあるようだったら連絡するからさ。仕事のほうはそろそろ真尋が来るだろうからサボらないようだけ見といてくれ。どうせ客は来ないだろうけど」
必要な事柄を簡潔に告げ、革ジャンに着替えた遼が颯爽と店を後にする。その姿と官能的なFADDY DADDY管サウンドを見送り、一人カウンターにもたれかかる。
「……掃除でもするか」
結局、真尋が出勤してきたのは閉店30分前だった。




