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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
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漆黒

 「はぁ……はぁ……」

高宮綾人は息を切らし、倒れ込みそうになるのを堪えながら必死で走り続けていた。

「はぁ、はぁ……」

どれほどの時間、距離を走ってきたのか本人さえもわかっていない。それでも走り続ける。

それでもなお、綾人は両足に鞭を入れ走る。

後ろを振り返ることはない。というよりも、する意味がなかった。

なぜなら、

そこは周囲一帯が闇に覆われていた。


「なんなんだよ!?」

驚愕とも怒りとも取れる言葉を吐くが、この場でそれを耳にするものは誰一人として存在しない。それでも口に出さずにはいられないほど追いつめられてる。

足が重い、苦しい、思考が鈍い……

全身が脂汗に塗れ、激しい運動をしてるというのに不思議なほどに身体は冷たい。それが綾人は気持ちが悪くて仕方がなかった。

心身ともに限界が近いが、綾人はなおも走り続ける。

「イヤだ、来るなぁ!!」

綾人は闇から逃げていた。それも死に物狂いで。

立ち止まったら最期、この迫りくる闇に飲まれ、喰われると本能が告げている。

その得体のしれない恐怖、絶望に抗う術がただ逃げ続けることだけなのであった。

そんな状態がどれほど続いていたのだろう。時間の感覚などとうに消え失せていた。

これが永遠なのか、と悟りかけたときだった。

「あれは!?」

絶望の渦中、綾人は文字通り一筋の光を見た。

遙か前方に小さな小さな光があった。長いトンネルの出口のような、綾人にとっては希望の光そのものだった。

縋るような思いで綾人は光の方角へと走る。

少しずつだが、でも確実に、光は近く大きくなってきている。

予感が確信に変わり、限界のはずの身体は軽やかに動き出す。

もう少し、

もう少しだ。

「これでやっと……、え!?」

あと数歩で飛び込めそうな大きさになるところだった光の出口が、とたんに急激に小さくなっていってしまう。

「待ってくれ、俺はまだ……」

いくら追いすがっても光はどんどん遠ざかる。

綾人はもがくように手を伸ばすが、すでに光は豆粒大の小ささとなり、間もなく完全に消えてしまった。

「…………」

希望を掴みかけたところで絶望に叩き落され、綾人は両膝から崩れ落ちた。とっくに限界を超えていた身体はもう前進する力が残っていない。

抵抗できない綾人に再び闇が迫る。

ふと手足の感覚に異常を感じ、両手を広げ視線を落とす。

「あ、あぁ……」

指先から次第に闇と同化し、自分の両手が消えていくのがわかった。

気付けばすでに両膝から下の感覚が消え失せている。立ち上がることすらもはやかなわない。

――俺はこのまま消えるのか?

両腕、両足、そして胴体までもが闇に喰われ、綾人の頭の中は絶望で埋め尽くされていく。

とうとう視界さえも奪われ、完全に闇と同化してしまった。

そこに、高宮綾人と呼べる存在を確認できるものはただの一つとして残っていない。

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