エピローグ5 デュレイン
城内の広い一室。デュレインの前に多くの人が集まっていた。
皆が魔術師。それも宮廷魔術師、つまりは彼の部下だった。
騒動以降、今までも共に仕事をこなしていたが、こうして一堂に会するのは初めてだった。
息を吸って、吐く。
全員から送られる視線に、緊張。重い塊が胸に満ちるよう。
急に割り込んできた己を内心快く思っていなかったのでは、と良くない方向に思考が進む。
大臣のお気に入りだから優遇されている、と嫌われているのかもしれない。
忙しいのに呼び集めた事が不満なのでは、と恐れてしまう。
それでも、向き合わねばならない。
覚悟を決めたデュレインは口を開く。
「……み、皆。自分はこのような重責ある立場に相応しい人間ではないと思う。……だが、何が何でも成し遂げたい事があるのだ」
反応を気にする余裕はない。
この勢いを殺してはならないと、一気に言葉を重ねる。
「過去発生した疫病の特効薬。その材料である薬草の栽培。食料の増産と備蓄。既に動いてもらっているこれらは、どれも人々の命を救う為には絶対に必要なものだ。だが、まだ単純に数が足りない。更に励んでもらう。そして今後も魔術で補える、あらゆる仕事が増えていくだろう」
発言は自然と熱を持つ。
デュレインが提案した業務を改めて纏めればとんでもない仕事量。
苦労をかける。恨まれる覚悟は既にしている。
そこから更にエゴを貫く。
本題と言える、理由の話だ。一蓮托生の部下への隠し事はしないと決めた。
唾を飲み込んで、前を向いて、思いを紡ぐ。
「……自分が励むのは、正直に言えば、国の為ではない。個人的な意地だ。家族の生きた証を残したいという、私情だ。それでも本気なのだ。私情だろうと、全力で国に尽くす。だが一人では不可能で、皆の協力が必要だ。その働きの代わりに、皆とその家族、国全体をも幸せにしてみせよう!」
冥界へ旅立った両親を含めた家族。彼らの生きた道を無駄にしたくないという思い。
そして今や彼らと同等に心を占める彼女を支えたいが為に奮闘している。
国への奉仕ではなく、あくまで私欲。それを手伝ってもらう部下へは大きな報酬が当然で、しかし働きに見合うだけを出せるかは分からない。
そんな理由で動く人間には従えない、と言われたらそれまで。
正直に話すのは、せめて誠意ある人間になりたいからだ。
だから真摯に願うしかない。
「……だ、だから、自分を認めて、ついてきてほしい!」
言い終えた後の静寂が長い。
息が詰まる、永遠のような幻想。
心臓が激しく暴れる。
目を閉じたくなるのを意思で抑える。
やがてゆっくりと世界は色を取り戻し、部下の魔術師達が動いて、後に声が轟いた。
「当たり前ですよ!」
「筆頭に相応しいです!」
「前任者なんかよりよっぽど適任ですって!」
「有意義な仕事でやりがいがあります!」
「文句なんてありません!」
「わかってます、閣下の為ですよね!」
様々な声援には安堵を通り越して、呆気にとられる。
既に認められていた。そう遅れて理解しても、すぐには腑に落ちない。
彼の実力は、同業者が目の当たりにすれば容易に理解できるというのに。
己自身だけが過小評価していた。素直に称賛を受け取っていいのだ。
じわじわと頭に浸透してきて、少しずつ口元が緩む。
「そ、そうか……」
「分かってなかったんですか?」
「それは嫌味ですよ。あの戦いで散々暴れておいて」
「……確かに、そうか」
ほっとして、笑う。なんだか身内の笑い話を思い出す。
そうして改めて感じるのは、閉じこもっていた世界の狭さと、大きな恩。
自分が実力を持てたのは、やはり家族のおかげだ。決して一人の功績ではない。
だから、次に繋げていくのだ。
「……よし。ならばまずは自分の両親から受け継いだ術理を覚えてもらう。自分だけでは効率が悪いからな」
「え!? それって一族の秘伝じゃないんですか!?」
「広めて役立てていく方が有意義だ。さて、それでは厳しくいくぞ!」
「はいっ!」
全員の声が揃う。意欲に満ちた眼差しも同じ方を向く。
もう彼らへの恐れは一片たりともなかった。
デュレインはあの屋敷を離れても一人ではないと知り、心強い仲間が増えていくと実感し──その上で思い出と共に未来へと歩み続けていくのだ。
こちらにも番外編がありますのでよろしければお楽しみください
「相見えて触れ合わず ─コープスホワイト番外編─」
https://ncode.syosetu.com/n6551jr/




