以心伝心
「わかんないっす~。お手上げっす~」
「もっと熱くなればわかるんじゃないか? リュー先輩?」
葵くん……じゃなかったあおやんとリュー先輩の掛け合いに皆ふっと笑う。
「んー、考えてもわからんものやなぁ。そもそも、魔法がどうしてあるのかわからんと無理なんとちゃうかいな」
確かに。一理あるね。私は答えを知っているけど、それを知ったのも、私が賢者だから。本当なら、エナとしては知るはずはなかった。
真実を知ったのは三代前の賢者。名前は知らない。知る必要もない。
「えなちはどう思う?」
「私は……」
私は言うべきか言わないべきか迷った。皆が、皆なら、答えにたどり着けると信じているから。
「……偏見を持たず、真っ直ぐに、時々寄り道をしても、前をみて進んでいれば、きっと答えは見つかると思います」
それは、答えになってないけど、私の思い。
「そだねっ。うん」
私の意見に頷いたのはフミフミ。
「答えになってないじゃないか」
苦笑いしたのはあおやん。
「突き進んでいくっす!」
燃えているのはリュー先輩。
「結局えなちにもわからんのかいな。残念やわ」
言葉とは裏腹に、少し、いや、かなり喜んでいるのは凛姫。
「協力して突き進む、か」
何度も首を縦に振っているのはふゆみん。
何か脳内補正がかかってるけど、気にしたら負けかな?
「よおし!」
突然フミフミが立ち上がり、私達を手招きした。だから、私達は近づく。丁度円になる形で。
「円陣組もう!」
「掛け声はどうするっすか?」
集まってから気づいたけど、円陣ってなんだろう。そんな文化なかったからね。皆はわかってるみたいだけど。
「私の後におー! って言ってくれればいいよ」
「おー」
「凛姫早いよ~」
「そうかいな?」
だから、円陣って何?
「円陣って何?」
「えっとっすね。あれっすよ! あれ!」
「どれやねん!」
凛姫がリューをバシッと手の甲で叩いた。
「太坂府独特の突っ込みだ……八重県の凛姫が習得しているとは……」
隣であおやんが何かを言っている。……太坂ってどこ?
「んもう。三人とも、えっとね。人が集まって輪のように並ぶ陣形のことをいうんだよ。スポーツで、チームの選手が互いに肩を組み合わせること。目的としては、戦術の確認、伝達などのほか、やる気をあげるために組まれることが多いかな」
へー。そうなんだ。私達のところでは、拳を前につきだして、それを掛け声と共に上にあげるという文化があったけど、それに似たようなものかな?
まあ、そちらは伝達とかには向かないけどね。
あと、チラチラとふゆみんの方を見ていたことは言及しない。
「よし、皆わかったよね?」
私達は肩を組む。その影響で皆の顔が近くにある。
「私達に、これから色んな困難があると思うし、私とふゆみんは三年だから皆より早く引退するわけだけど……それでも、時間の許す限り、真実を追い続けよう。寄り道をして道草くっても構わない。前だけを見て突き進もう」
フミフミはいつになく真剣で、私達も息を飲んで聞いている。さっきの説明の時と違ってチラチラと誰かをみていたりしない。
「日進月歩とも言うように少しでも進んでいればいつか答えにたどり着く。そう信じて」
そこでフミフミは私達を見回す。後ろのドアから誰かが入ってきた音がするけど気にならない。
「自分と仲間を信じて進もう! 進め、特研部!」
「「おー!」」
どこで、とは言われなかったけど、何となくで皆揃った。打ち合わせになかった、右足で踏み込むところまで。
これが、以心伝心ってやつ?




