呼び名
「成瀬恵那ちゃん、歓迎するよ! ようこそ、特研部へ!」
「よろしくお願いします!」
私はお辞儀をする。顔をあげたときには、フミ先輩が何かを考えるようなポーズをしていた。
「どうしたんですか?」
「さあ? フミちゃん先輩がなに考えてるかいつもわからんからなぁ」
私と凛ちゃんがそんな話をしている間に、フミ先輩は何かを閃いたようで。
「決めた! 皆のあだ名を作ろう!」
「は?」
「だから、皆のあだ名を作るの!」
「いや、それはわかるけどなんで?」
突拍子もない発言に皆が頭にはてなマークを浮かべている。勿論、私も。葵くんの疑問はもっともだ。葵くんが聞いてなきゃ、他の誰かが聞いてただろう。
「んとね、皆の親睦を深めるため?」
「なるほどな……なぜ疑問系?」
「何となく?」
葵くんとフミ先輩は顔を見合わせて笑っている。その笑顔のまま私達に言う。
「最初はなれないと思うけど、頑張ってやろう? ダメ……かな?」
だんだんと尻すぼみになっていく言葉を聞いて、何故か、犬を思い出した。
「まあ、私は構わないが……」
一番初めに賛成したのは冬実先輩。少し意外だった。
「俺は別になんでもいいや、まあ、賛成かな?」
「僕は賛成っす! 葵くんなんすか、もっと熱くなるっす!」
葵くんとリューマ先輩も賛成。リューマ先輩ってそんな性格だったけ……。独特なしゃべり方をしているとは思っていたけどさ。え? 私は賛成かどうなのかって? そりゃもちろん――
「私も良いと思います!」
良いに決まってる。だって、楽しそうだし。否定する要素ないし。終わりよければ全て良しって言うでしょ? それと同じで楽しければ全て良しなんだよ。
「なんや、あとはうちだけか……こんなん、賛成に決まってるやないか! 楽しそうやん!」
「皆、ありがとう~!」
感激のあまりにか、フミ先輩が皆に抱きつく。葵くん、リューマ先輩は顔が真っ赤だ。
「そうたなったら、決めよう!」
「フミちゃん先輩はフミフミで良いと思うんさな、うちは」
「良いじゃないっすか!」
「いいね! 私のことはフミフミって呼んでね?」
凛ちゃんの案で決まった。フミフミ。呼び捨てで良いのかな……。心の中で呼ぶならいいよね。うん。そうだよね? そうだと言って!
「じゃあ、凛ちゃんはね……」
「お凛」
「長いっ!」
冬実先輩が提案するも却下されていた……フミフミの方が長いけどね。
「凛姫」
「採用!」
ダメ元で言ってみたら採用された。判断基準がわからない。
「姫かいな」
凛姫は苦笑している。
「よし、次はリューマね。リューでいっか」
「扱いが雑すぎるっす!」
リューが叫んでる。きっと、カズマ君の上位種だ……。おんなじ感じだ。
「じゃあ、葵くんはどないする?」
「あおやん」
「えー」
フミフミ、冬実先輩の発言をことごとく却下してる……。どうしてだろ。
「あおやんでええやん……」
「……なんでもいいや。もう」
凛ちゃんは若干呆れながら、葵くんは諦めてあおやんを受け入れる姿勢。悟りを開いている? そんな感じだと思う。
「むー、次は冬実……ふゆみん」
「まあ、別に、かまわない」
冬実先輩もといふゆみんは口調とは裏腹に満更でも無さそうだ。
「最後は成瀬ちゃんやな~」
「そう言えば、有岡からえなち、って呼ばれてなかったか?」
「そうだよー」
あおやんが思い出したように言ったので、私は肯定する。そういや、ひよちゃんの苗字って有岡だったけ。
「なら、それで決まりだねっ! よろしくねー。えなち?」
「はい!」
ぶっちゃけ、えなち、に決まってよかった。だって、呼ばれなれてるの以外だと反応できなさそうだもん。
こうして、特研部メンバーのあだ名が決まった。




