フラグ
その人も私に気づいたようだ。目と目が合う。瞬間、私は一歩下がってしまった。そのせいで、目を離してしまう。恐る恐る、視線を戻せばもう居なくなっていた。
なぜ、どうして、ホワイ? わっとどぅゆーみーん?
関係ないけど、わっとどぅゆーみーん? って早口で言うと、わっと、どう言う意味ー? そんな風に聞こえる気がする。私だけかな? まあ、日本語訳だけどね。
そう、あの人は私にとって、とても大事で、でも、今は恐怖の対象でもある。理由はこちらに来る前にあの人の大事な花瓶を割っちゃった。バレてないと思ったんだけどなぁ。
なんだか、今、誰か名前を言うと、再会しそう。というか、乗り込んで来そうだから止めておこう。こんなときは直感を頼るべきなのだ。
そのお陰か、今日は何ともなかった。でも翌朝にひよちゃんから、三組に編入生が来るときいて、ああ、本当に乗り込んできたよ……。と思ってしまうのは仕方のないことだと思う。いや、編入生が本当にあの人かはわからないけど……。ここは一縷の望みにかけよう!
そんな希望もあえなく壊された。そりゃもう木っ端微塵に。だって、食堂にひよちゃんが連れてきちゃったんだもん。
「此花莉菜よ。よろしくね」
赤く、まるで燃えているような、赤い髪に月のように黄色い瞳。腰までのびた赤い髪には自然なウェーブがかかっている。凛とした姿勢で私を見つめている。
「僕は加賀谷ゼン、よろしくね」
「私は永山エイリなのよ。よろしくお願いするのよ」
「私は春山茜だよ。これから仲良くしてね」
「私は赤澤晴菜。晴菜って呼んでね」
「ゼン君に、エイリちゃんに、アカネちゃんに、ハルナちゃんね。三組に編入することになったの。これからよろしくね」
皆が順に自己紹介をしていく。それを聞いたその人は、皆に笑顔で答える。
「で、この子はえなち、じゃなくて、成瀬恵那ちゃんです」
「よろしくね? 恵那」
「は、はいっ」
声が上擦ってしまうのも仕方がないと思う。だって、目が怖いんだもん。あの花瓶のことまだ怒ってるのかな。ひよちゃんが私をあだ名で紹介しかけたことにもツッコム余力もない。冷や汗が垂れる。皆が不思議そうな顔で私を見ている。もう気にしないでー。
「えなち? 怖がらなくても大丈夫だよ? あ。人見知りかー」
「……」
ひよちゃんの茶々にも無言を貫く私。気分はあれだよ、怖い先生の前に怒られることがわかってて立ってる感じ。
「で、いきなりで悪いのだけど……恵那。どう言うことか説明してくれるよね?」
それは私もしてほしいよ! なんで貴女がここにいるのか、を詳しくね!
「うん……お姉ちゃん」
そう、この人は私の双子の姉。バインバインな方。似てない双子姉妹の姉。色々言い方はある。でも、二つ目は傷つくから止めよう。誰だよ言ったやつ!
なんて、ふざけてる場合ではなく、無情にも私には頷くと言う選択肢しかないのだ。だって、双子とは言え、姉の方がしっかりしていて、一応尊敬だってしてるんだから。
周りを見渡せば、皆それぞれの反応で驚きを示してる。あーあ、皆、驚いてるよ……。説明するの面倒だなぁ。




