異世界転移?
今回も千君サイドです
「……っ!」
少し地面より高いところから落とされた僕。なんとか声を出さずには済んだが、舌を噛んでしまった。
「……ここは」
周りを見渡せば、石で出来た冷たい部屋にいた。ふと後ろを振り向けば、未だに寝ているカズマがいた。
「流石におきろよっ!」
ここで決めるは脳天踵落とし。良い子は危険なので真似しちゃダメだよ。カズマは当たる寸前で僕の足を受け止める。
「危ないだろっ!」
「ならもっと早く起きろよ」
僕は悪くない。起きないカズマが悪い。カズマなら避けれるってシンジテタカラネ。棒読み? 気にしない。
「ここどこ?」
「僕が知りたいよ」
詳しい説明をしようにも、僕にもわからないからね。なんとも無理なわけだよ。
「まさか……」
カズマがはっとしたように何かを言う。もしや、ここを知ってるのか?
「なあ、これってさ……」
なんだよ。早く言えよ。気になるだろ。
「異世界転移とか言うやつじゃない?」
「んな」
僕は、カズマの言葉に頭が狂ったのかと一瞬思ったが、続くカズマの言葉に口を閉じる。
「エナちゃんそうじゃない?」
そう。僕らのクラスメートであり、僕の好きな人……って、なに言わせんだよ。
「そうだったね……カズマのくせによく覚えてたね」
「カズマのくせには余計だよ」
僕達がそんなことを言っていると、不意に、僕達を後ろから飛び越える人影が見えた。すげえな、ジャンプ力。
「……だ、誰?」
逆光でよく見えない。後ろから、また、足音がする。聞こえてくる数的に二人か三人。その足音の主を確かめる。
「千君にカズマさん。どうして……」
ひよちゃんと……誰だ。思い出せそうで思い出せない。あんなに綺麗な黒髪なら忘れるはずないのに。
「ひよちゃんこそ。どうして?」
「私達は……って、えなちは?」
え、エナちゃんもいるの?
「私ならここにいるよ?」
それは、僕達を飛び越えた人影から発せられた言葉。
「気づくのが遅すぎるよ。そんなだから……ま、いっか」
エナちゃんはいつもと違う雰囲気を纏っている。
「転生する探求者」
エナちゃんが、何かを唱えた瞬間、エナちゃんの手元に本が現れた。
「え、えなち。どうして……」
「この世とは違う世界へ導け! 幻想世界」
僕はエナちゃんの不敵で、しかし、悲しげで儚い笑い顔を最後に見てしまった。それが、どういうことを指す笑いなのかを知らずに。
そして、僕らは今度は意識を失うことなく、他の場所へ転移させられた。




