養子
「しかし、中学に入るとしても、戸籍ないんじゃないですか?」
「あっ……」
コセキ? うーん、なんだろ。美味しそうな響き……多分食べ物じゃないと思うけど。
「ねえ、コセキってなに?」
「んー、えっとだなぁ、この国で、生活するためにいるものかな?」
この変な服の人も知らないの? そう言うのよくないと思うよ? ちゃんと説明してよ。この変な服のおっさんのかわりに下っ端ぽい人が説明する。
「国民各個人の親族的身分関係をはっきりさせるため、これを記載した公の台帳。以前は家、今は夫婦を単位に作る物ですね」
むむ、なんか見てる。平べったくて、長細い。青紫色。私の瞳よりは黒みがかっている。これはいったいなに? これも魔法は使われて無さそう。
「おい、スマホ見ながら言うのはよくないぞ! ……あ、そうだ」
スマホ? この長細い物はスマホって言うんだね。なんか光ってる。少し怖い。変な服のおっさんが何かを閃いたように、手を叩く。
「よし、養子にしよう」
「は?」
「ヨウシ?」
私と下っぱさんが疑問の声をあげる。私の知っているヨウシは姿形のことを言うのだけど……それじゃないよね?
「だから、こう、お偉いさんを脅……掛け合って、養子にする」
「……貴方ならやりかねないから困ります」
「ただ、俺のって言うとヤバイから、他の人にしよう」
そう言って、少し形の違うスマホを取り出し、それに向かって話し出す。通信機なんだ。
変な服のおっさんのヨウシだとヤバイらしい。ちょっとよくわからないけど。
「あ、高山? ちょっとさ、戸籍ない子がいたから、養子にするんだけど、細かいことは頼んだぞ」
それだけ言うと、一度耳を離し、操作したあと他のところに話し出す。それだけで通じるのか甚だ疑問だけど気にしないでおこう。
「あ、姉さん? 養子とらない? え、無理? じゃあ誰かに頼めない? あ、子供がほしい人いる? じゃあ、その人でいいや、よろしく、今夜は奢るからさ」
「……この人理不尽ですよね」
その光景を見た下っぱがぼそっと言う。
「理不尽?」
「ええ、普通こんなこと出来ませんからね」
「どうしてできるの?」
「わかりません」
肩を竦める下っぱ。まあ、私としては、なんでも構わない。そう、この人達が警察官と言うことを聞いていて、尚且つ、勇者様の職業が警察官だったと言うことを知っていてもなんとも思わない。
「……」
その後私達は無言になる。変な服のおっさんは何処かに行った。
「えっと、得意なことって何かありますか?」
「得意なこと? うーん。記憶力は取り柄かな」
下っぱからの唐突な質問には驚いたけど、真面目に答える。
「そうなんですか」
「あ、なら、僕が言ったことを真似して言ってください。暇潰しに丁度いいでしょ?」
「いいよ」
確かに、暇しそうだし。
「アメンボ赤いなあいうえお」
「アメンボ赤いなあいうえお」
簡単すぎない? この言葉何かしらないけど、言いやすいね。
「じゃ、この画面に映った数字をできるだけ覚えて下さい」
そう言って差し出されるスマホの画面。そこには数字がずらっと並んでいた。上の方には円周率と書かれていた。よくわからないけど、覚えれば良いんだよね。
私は目を閉じて言う。
「3.1415926535、89793238462643383279502884197193、993751058209749445923078164、0628620899、86280348254211706798214808651、328230664709384460955058223172 5359408128、48111745028410270193、852110……」
数字は私達の世界に来た勇者様に教わったから知ってる。ま、正確には勇者様の弟子だけどね。
「ストーップ。もういいですよ」
まだ言えるのに止めるの? 私はちょっぴり不満。
「凄いですね」
そんな風に驚いている下っぱ。あ、変な服のおっさん来た。
「書類はなんとかしてきた。知り合いが養子としてとってくれることに落ち着いた。悪いな。勝手に決めた」
「大丈夫」
「じゃあ、ま、中学校の話をするか」
私は笑顔で頷いた。
「うん!」