変化
唱えた言葉と共に私の周りを青い光の円、否魔方陣が私の足元に描かれる。
そして、私の手元に本が現れる。分厚くしかし、見た目より軽い革のカバーで覆われた本である。
この後どうすれば良いかわからなかったのでとりあえず、本をめくってみたら、1ページ目に
『汝、願え。この<転生する探求者>に』
と、一言だけ書いてあった他のページは空白だった。これについての考察は後にしようと思う。いまは、『鍵』についてだ。
私の『鍵』は、私自身を表す言葉だった。
何となくわかったのだ。この言葉だと。
そして、あの声はこれまでの自分。
転生する前の自分の声だと思う。
はっきり言って自信がない。
異世界に来た頃から昔の事が少しずつ思い出せなくなってきているのだ。
(どうして? 私の他に賢者がいるとか? でも、そんな事例今までなかったはず。わからない)
良くわからないもやもやとした気持ちで考えていると。
「えなち……凄いです。すごいですよ! 」
ひよちゃんが自分の事のように喜んでいる。
そんなひよちゃんを見ていたらもやもやとした気持ちは何処かに行ってしまった。私はそっと本を閉じる。すると、魔方陣も本も消えていった。
「成瀬さん。他の人の能力を見てすぐに出来るというのは素晴らしいです。その長所を生かして下さいね。そして、二人ともまだまだ伸びるはずですから鍛練を怠らないように」
これが校長先生の評価。
はーい。頑張ります。と、私達は返事をした。
「さあ、今度こそもう帰りましょう。ちょうど5限目が終わったようですし」
素直に頷いて歩き出す。
少し満たされたような感じになった私は気づかなかった。何処からか私をみている目のことを。
そして、そのまま6限目をうけ、寮に帰った。
寮に帰った私は昼休みの考察を続けることにした。
今わかっていることを箇条書きにして書き出すと
・本の名前は『転生する探求者』である。
・『転生する探求者』と唱えると本が青い魔方陣と共に出てきて、閉じると消える。
・『転生する探求者』は1ページ目に『汝、願え。この<転生する探求者>に』と書かれている以外のページは空白であるということ。
・私の記憶が薄れていること。
ぐらいであろうか。
上の三つはぼちぼちやるとしても最後の一つは重大である。
(私、変わってしまうのかな。良くわからないよ)
昔の恵那なら、わからない事を調べることが一番の喜びだったため、わからないことがあるというのは嬉しかったがいまは、そうではない。
(苦しい。あ、あれ。目から何か)
自分が泣いている。その事実を理解するのには、時間がかかった。その理由はもっと理解するのに時間がかかった。