『鍵』
ひよちゃんと世間話をしていると、
校長先生がやって来て、
「体育館に来てもらえるかしら。あなたたちのクラスの先生には伝えておくから」
と、言われたので体育館に行く。ひよちゃんは緊張しているようだ。
「えなちは、緊張しないのです? 」
と、きかれてしまった。
「緊張しないことはないけど、校長先生いい人だから」
「そうですか。」
ああ、食堂から、体育館までは遠い。
体育館に来ても、まだ校長先生はいなかった。
でも、その後すぐに来た。
「待たせましたね。恵那さんあなたは来たばっかで、他の人の能力をみたことがないので有岡さんにも協力してもらい、能力について知ってもらいますね。あなたにとっては要らないかもしれませんが、一応編入生が来た時のしきたりですので。そして、……(以下略)」
(これがひよちゃんの言ってた校長先生は話が長いってやつか~。確かに長い。前話したときは短かったのに。つい、略しちゃった)
そんなことを考えていたらいつの間にか先生の話しは終わっていたようだ。
「有岡さん。お願いしますね」
「え、はい。少し離れていてください」
言われた通り離れる。
すると、ひよちゃんは右手を挙げ、
「完全な秩序」
と、言った。聞いたことのない魔法だ。いや、魔法じゃない。私の知らないなにか。
そして、熊の可愛い人形が5つ、ウサギの人形が2つ、つばめのような人形が4つ出てきた。
「しもべたちよ、『歩き続けろ』」
その合計11個の人形たちは自由意思を持ってるように見えるが、しかし、ひよちゃんの命令に逆らうことなく歩き続ける。
「『集合』」
ひよちゃんの前に集まる人形達。
「こんな感じです」
と、どや顔をするひよちゃん。
「すごーい! 格好いいよ! ひよちゃん! 」
誉めると照れ臭そうにするも、まんざらではないようだった。
「と、こんな風に自分専用の『鍵』を唱えることによって異能の力を発動することができるんですよ。」
そうひよちゃんが教えてくれた。
校長先生はうんうんと頷いていた。その目頭が濡れていたのは誰にも気づかれることはなかった。
(それ、私の台詞~)
「異能の力を発動させる キーワードね」
うーん、何だろう。
急に、声が聞こえてきた。聞いたことがあるような、知らないような、おじさんのような、若い女性のような、良くわからない声。脳に直接響いてくる
誰。
『誰だっていいだろう』
そうかな。
『そんなことよりも『鍵』を早く』
知らないよ私
『そんなことはない。知っているはずだ。いや、知っていたんだ。思い出せ。早く』
そんなことを言われたって思い出せないよ。
『本当にそうか? 』
え?
『本当にわからないのか? 』
どういうこと?
『思い出せ、おまえは誰なのか』
私が誰なのか……。
『そう、おまえは――』
そこで声が途切れた。
「……夫?大丈夫? 」
目の前にひよちゃんの顔。
「あ、うん。大丈夫」
「ならいいですけど」
まだ、疑ってるね。ちょっぴり嬉しい。でも、もう私は大丈夫だよー。
「有岡さん、成瀬さん、そろそろ行きますか」
と校長先生がおっしゃる。
「待ってください。一つやってみたいことがあるんです」
「え? どうしたんですか? 」
ひよちゃんが心配そうにこちらを覗き込む。
だから、私は大丈夫だって。
「鍵って唱えるだけでいいんですか」
「はい、そうですよ。私はポーズを決めた方が格好いいからやってますが」
ひよちゃんが答えてくれた。
「なら」
そう言い私は前に1歩でる。
「『転生する探求者』」
そう、キーワードを唱えた