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僕らへ降り注ぐ流星群  作者: 小池沙奈
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僕は無様な姿をさらしたらしい

 五日後、日曜日。

 練習試合の相手校、山崎学園高校の正門へ入ってすぐにある駐車場で僕らの乗っている車は止まった。

 僕とことはは運転席の後ろの席から降りる。

 少し遅れて運転席から支倉先生が出てきて車にある鍵穴に鍵をさしてかけた。

 今時無線のロックじゃない車は珍しいし、随分古い。


「くっ……」


 空を仰いだ僕の頬を涙が流れる。


「何泣いてるのよ、気持ち悪い」


 隣から言葉の暴力が飛んでくるが、そんなの関係ない。

 この五日間、僕は何度も死を覚悟した。

 授業後、ことはに何度もしばかれ、しまいには焼き殺されかけながらこの日を待っていた。

 だがそれも今日までだ。

 この練習試合さえ終われば僕はあの地獄の特訓から解放されるっ……。


「今日負けたら今までの特訓のメニュー、倍にするから」

「……」

「まさか今日で特訓が終わるとか思ってないよね? だってすべては星祭りで優勝するためだもんね?」

「……」


 ことはの言葉に僕は小さくうなずいた。


「目が死んでるけど、ちゃんと聞いてる?」


 そりゃ目だって死ぬよ。というか僕が死ぬよ。

 ただでさえ運動音痴なのにあんなの続けられたら特訓中にミイラになっちゃうよ。

 がっくりと肩を落とした僕の背中を支倉先生が大きくたたいた。


「はっはっは。まあ、頑張れよー、お前ら」

「他人事じゃないですよ……」

「いや、他人事だろ」

「……そうっすね」


 僕の味方はいないのか……。

 支倉先生は面倒くさげに頭を掻いた。


「あー、俺は職員室に寄らなきゃなんねえからお前ら少しそこで待ってろよ」

「わかりました」

「はーい」


 あれ、僕ら車の中で待っていてもよかったんじゃ? と思い始めたのは支倉先生が姿を消してその数分後である。

 気づいたら制服を着た男女等が僕らを取り囲んでいた。

 これは練習試合に来た他校の人間がどういう者たちなのか気になって見に来た……だけではないだろう。


「ねえ、あの子じゃない?」

「やべえ、超可愛いんだけどっ!」

「本物の業火姫(フラムヒルデ)かー」

「めっちゃ強いんだよな」


 おそらくこのギャラリーのほとんどは僕の隣にいる業火姫(フラムヒルデ)こと黒崎 ことはを見に来たというのが理由のはずだ。


「なんだか人気者ね、私たち」

「複数にしないで。注目浴びてるのはことはだけだからね」

「どういうこと?」

「……」


 この『にぶちん』はもう少し何とかならないのだろうか。

 そのうち誰かに騙されてしまいそうだ。

 僕は少々居心地が悪くなってきて何とかこの人込みから抜け出せないものかと考え始める。

 そもそも注目されるのは昔から苦手だ。


「隣の男子が……」

「っぽいよね。業火姫(フラムヒルデ)のパートナーってことは相当強いんだろうなぁ」

「っ……」


 視線のいくつかが僕のほうへ向くのが分かった。

 それに気づいた途端、上手く息が吸えなくなる。


「裕也……?」


 僕の異変に気付いたのか、ことはが僕の袖を軽く引っ張った。

 頑張って息を整えようとするのも意味をなさず、過呼吸のようになっていく。

 その時だった。


「はいはい、どいたどいた!」


 人ごみを割って僕らの前に山崎学園高校の生徒の制服を着た二人の男女が現れた。

 そのうち男子の方が僕らに手を振って爽やかな笑みを作る。

 一方女子のほうはその男子に少し隠れるようにひっついている。


「お前らだよな、敷島高校の二人って」

「そうよ」


 男子は茶色い髪を掻きあげながら苦笑いを浮かべた。


「わりぃな。二つ名を持つ高校生が珍しくって人がこんなことに。俺は今日練習試合させてもらう高坂(こうさか)……って、お前顔色悪くないか? 熱中症?」


 名乗りかけた高坂という男子生徒は僕の表情を見て心配げに顔を近づける。


「や、ごめん。なんでもな……」

「そうみたい。さっきまで大丈夫そうだったんだけど……よかったら保健室案内してくれないかしら」


 僕の言葉をことはが遮った。

 余計なことを……。

 高坂はことはの言葉にうなずいて後ろにいた女子生徒を見る。


「恵」

「う、うん」


 恵という女子は高坂に手をかざして呪文を唱えた。


「コーポリス」


 すると彼女のかざした手から淡い緑色の光が現れ、高坂の体を包み込む。


「よし。ちょっと失礼しますよ……っと」

「ふ、ふぁ!?」


 高坂は何度か手を握ったり開いたりの動作をした後、僕を肩に担いだ。

 いきなりの展開に僕は思わず間の抜けた声を出してしまう。

 僕の身長は171センチだ。

 高坂はもう数センチ高い。

 けれどたった数センチしか身長差のない人間をこうも軽々と持ち上げるだろうか。


「恵は強化能力の使い手なんだ。それを俺にかけてくれた。だからこれくらいなんともねえよ」


 な、なるほど……。


「じゃ、なくって! 僕全然平気だから、おろしてくんない!?」

「まあまあ、落ち着けって」


 同年代の男子に担がれてるのに落ち着いていられるものか。


「じゃあ、保健室案内するよ」


 高坂は僕をおろす気など毛頭なさそうで、恵とことはに目くばせをしてから早歩きで人込みを突っ切り、校舎へ入っていく。

 ああ、もう死にたい。

ちょっと短め。

ごめんなさい。

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