僕の骨は誰も拾ってくれないらしい
次の日、教室に行けば中はすでに星祭りのことで持ちきりだった。
クラスメイト達から刺々しい視線を感じながらそれを気にするそぶりを見せないように自分の席へ座る。
後ろの席で退屈気に窓の外を見つめていたことはは僕が来ると肩をちょんちょんと叩いた。
「参加するなら、優勝目指してよね」
「……はい」
こうなるんだろうなという予想はできていた。
まあ僕は頑張らないよ。ことはが頑張るだけ。
「僕は頑張らなくてもいいとか思ってたら燃やしつくすよ」
「うん、頑張ろうね」
エスパーですか、エスパーですね。
僕の幼馴染は二つの能力に目覚めてしまったようだ。
星祭りは能力者なら誰もが一度はその舞台に立ってみたいと思うほど憧れるもの。
それにことはが参加するおまけというだけで僕がなんの試験もなく学校側から指名されてしまったのならばクラスメイトのこの視線も仕方ないのだろう。
だから僕はそれに耐えることにした。
今回は申し訳ないという気持ちもあるからね。
けれど僕がそんな風に思っていることなんか知らずにことははクスリと笑った。
その笑顔は可愛らしく、いつものクールな印象など吹き飛ばしてしまうほどの威力がある。
幼馴染である僕でもそうそう拝めるものではない。
不意打ちのように笑った彼女の顔に見とれてしまったのは認めるしかないだろう。
けれど彼女のその笑顔によってクラスメイトの視線はもはや殺意となって僕へ注ぎ込まれた。
「うっそ! 黒崎さんが笑ったところなんて初めて見た!」
「浅井のクソリア充め! 爆発しろ!」
「黒崎さんって趣味悪いよね?」
「浅井くんのどこがいいんだろう?」
「黒崎さんの優しさなんだろうね、アレも……。」
うん、陰で言われるのはいいんだよ。
でも僕も別に神経図太い人間じゃないから堂々とディスるのはやめてほしい。
嫌われ者なのは自覚しているけれどそれでも精神的に来るものがあるのだ。
「……なんで笑ってんのさ」
「裕也が面白くって」
「あっそ……」
何が面白いのかよくわからないのだが。
今ずいぶん精神的にきつい状況だからね。
だけどそんな心の痛みすらも和らぐほどのものが彼女にはあった。
*****
放課後、僕とことはは支倉先生に再び呼び出され、星祭りについての詳しい日程と動きが書き記されたプリントを職員室まで取りに行った。
教室で渡せば僕が悪目立ちするということを考えてくれた先生の配慮……なんてものではなく、先生がただ単にそのプリントを職員室に置き忘れてきただけである。
「いやー、本当に良かった! オレはその三日間応援と称して休みが取れるからな!!」
プリントを僕らに渡しながら支倉先生は嬉しそうにそう言った。
「……救いようのないクズ」
「ことは、火を出すんだったら僕と校舎に被害が及ばない程度でよろしく」
短気なことはに今回ばかりは便乗する。
なんでも、高校一年生の僕らが星祭りに出ることになったのは支倉先生がことはの実力を校長に力説したからだそう。
まあ、二つ名の高校生とかめったにいないしね。
この高校でだと、二つ名を持っている生徒はことは以外には一人だけ。
それでも多いほうだ。
ほとんどの高校には二つ名を持っている人間なんていないのだから。
二つ名を持つもう一人の生徒は星祭りの参加を蹴っていたらしい。
何てことしてるんだよ、おっさん。
おかげで僕が巻き添いくらってるじゃないか。
三十後半のおっさんが興奮して休み休み言うのはみっともないよね。
少しは聖職者としての自覚を持ってほしいんだけど。
まあ、休みたいと思うのは勝手だけど口に出さないでほしい。
「わたしたちは、星祭りに向けて練習するべきね。優勝狙うんだし」
「主に僕の実力が足りないせいで、ことはの足を引っ張ると思うんだけど。やっぱり他の人に……」
「だからこその練習でしょ」
「……そうだね、初めから弱気じゃ始まんないもんね」
やっぱり逃げられないんだね。
うん、僕知ってた。
*****
僕たちは先生に掛け合ってもらって、他校との練習試合をすることになった。
星祭りにおいて名を残したことなどない僕らの高校だったけれど、ことはの業火姫というネームバリューのおかげでたくさんの高校がむしろ自分たちの相手になってほしいと声を上げた。
僕は弱小なところとやりたかったんだよ。
だって僕死んじゃうもん。
けれどそれをことはが許さなかった。
おかげで僕らは去年の星祭り本選ベスト8、山崎学園高校と次の日曜日に練習試合することになってしまった。
次の日曜日まであと五日。
そこまでに何とか僕の実力が上がるか、といえば決まっている。
否だ。
「ことは……僕が死んだら僕の骨は母さんに……」
「何言ってるの? 勝つんでしょ」
僕は死んでも骨を拾ってくれる人すらいないらしい、ぐすん。