七章 締まらない悪党からの救出劇
「ガハハハ!ノコノコ現れたな、若造共!」
「大事な彼女を返して欲しければ、大人しく鍵を渡せ!」
「俺達は紳士だからな、まだ何もしていないぞ!」
「断った後の事までは分からないがな、ヒッヒッヒ!」
遺跡前で絶賛予行演習中のむさ苦しいカルテッドは無視し、俺と姉は焚き火に当たっていた美人へ手を挙げた。
「お待たせ、小晶さん。寒くなかった?」
「あ、皆さん」
俺達の姿を認め、天使は相変わらず食べちゃいたい位極上の微笑みを浮かべる。
「いえ、大丈夫です。今あそこで集まっているビータさん達に、色々良くしてもらいましたから。話し相手になってもらった上に、膝掛けとホットミルクまで頂いてしまって。あ、そうだ!」
手を叩き、隣のパイプ椅子へ空のカップと、丁寧に畳んだブランケットを置く。そして代わりに取ったクッキー袋を手に立ち上がり、俺達の後ろで仄かに頬を赤らめていたユアンに両手で差し出した。
「これ、アムリさんとシェニーさんからのクリスマスプレゼントです。女将さんと四人で食べて下さい」
「あ、ああ……わざわざ届けてくれたのか、済まん」
お姉様が最後に言いかけていたのはこの事だったのか。如何にもクリスマスらしい型に、綺麗な緑や赤のアイシング。正直食べるのが勿体無いぐらい可愛いかった。
「これから皆さんであの遺跡へ行くんですか?なら私、終わるまで待っています」
彼らしい配慮に、相棒は舌打ち。
「そんな訳にいくか。貴様を帰す方が先決だ」
「ユアンの言う通りです。副聖王様達も随分心配していましたよ?それに相談なら電話でも」
「いえ、何せ政府館でも初の試みなので、こうして直接頼まないとその……絶対大変ですし、ただでさえシャーゼさんは忙しそうだから……」
何て奥ゆかしい人だ。これで未亡人なら絶対落としてるのになあ。
「遠慮なんてしなくて大丈夫大丈夫!こいつは小晶さんの頼みなら何でも喜んで聞くからさ!!」
「勝手な事をぬかすな狐公」ムギュッ!「ギャッ!!」
尻尾を強く掴まれ、本気で泣き別れになりかねない激痛が走る。すかさず前脚で後頭部を連続パンチして反撃!
「った!?毎度の事ながら暴力的な獣め!少しは無い脳味噌で反省しろ!!」ブンッ!「わっ!」「きゃっ!もう!いきなり投げ付けないでよ!?」
俺をキャッチして文句を言う姉を完全無視し、ユアンは愛しい人へ向き直る。
「おい小晶。貴様、私に一体どんな面倒事を押し付けに来た?相談があるんだろう?早く言え」
「あ、はい。ええと、実は」
そこでタイミング悪く、(寧ろ散々騒いでたのに、今まで気付かれなかったのが不思議なぐらいだ)髭共がこちらを発見した。四つの野太い怒号が荒地に響き渡り、ドスドスとこちらへ駆け寄って来る。
「お前等、来たならちゃんと挨拶しろ!!」「これだから礼儀を知らん若造共は!」
凡そ誘拐犯の物ではない台詞に、一人を除いて全員呆れかえる。と、相棒がこっそりと姉へ話し掛ける。
「おい女狐、前に新技の実験台が欲しいと言っていたな。ここを任せて構わんか?」
「え?ええ、勿論よ!覚えててくれたのね、嬉しい……!」
恋する乙女が頬に両手の指を当てる。が、同業者の怒鳴り声が、良い雰囲気を見事にブチ壊した。
「こっちには人質……はもう取り返されちまったが、とにかく街には戻らせねえぞユアン・ヴィー!!」
「人数は俺達の方が多い上、前みたいに助けも呼べねえぞ?」
「怪我しない内に降参するんだな!」
「負け犬共が、話にならんな」
挑発で返したユアンはフン、いつもより気持ち短く鼻を鳴らした。
「貴様等の相手など、うちの穀潰しの狐共で充分だ。行くぞ小晶」そこで何故か眉間に皺を寄せ、「『奴等』に発見される前にここを離脱せんと」そう続けた。
「?は、はい。えっと、ビータさん、それに皆さん」
深々と一礼する麗人。
「今日は色々気を遣って頂いて、本当にありがとうございました」
誠心誠意の礼に、いい年こいたオッサン四人は揃って赤面。
「あ、ああ」「いや、俺達はそのう……」「取り敢えず主犯はビータの旦那なんで」「こらお前等!!?」ポカポカポカッ!「「「ぎゃぁっ!!」」」」
漫才している前で、奴は細い手を強く掴んだ。
「モタモタするな。パーティーに間に合わなくなるぞ」
「は、はい!」
手に手を取って戦線離脱する二人を背に、肩へ俺を乗せた姉が立ちはだかった。
「ユアンもああ言っていたし、今日は思い切り暴れさせてもらうわよ!」
拳を握り締め、片脚を前に浮かせて、得意のカポエラの構えを取る。その気迫に押され、三人の手下達が情けない悲鳴を上げた。
ビシッ!「ビビるんじゃねえ手前等!こいつ等は確かに強えが、所詮二匹だ。三人掛かりなら勝てる!」
三枚目でも流石は一団のボス。鞭を唸らせての一喝に、ABCの表情が変わった。
「俺はユアンを追い掛ける。ここはお前等で何とかしろ!」
「「「アイアイサー!!」」」
部下の快諾を聞くなり、奴は五十メートル先を行く二人に向かいダッシュを掛け始めた。拙い!体力の無い小晶さんを連れているせいで、移動速度は普段の半分以下だ。このままだとすぐに追い付かれちまう!
「姉ちゃん!?」「ええ、行って!!」
こちらも承諾を得、ジャンプで砂地へ降り立つ。身体は小さくとも、赤狐のトップスピードは人間の走力を凌駕する。鮮やかに抜き去って、そのボーボーの顎に華麗なアッパーを決めてやるぜ!
「―――ん?」
意気込んで駆け出す俺の周囲が、ふと夜のように翳った。龍族の連中でも飛んでいるのか?
いぶかしみながら頭を上げると―――影の主は、超低空航行する銀色の宇宙船だった。