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五章 『女』の正体




「す、済みませんユアンさん!!ぶつかるつもりは」ボカッ!「いてっ!!」

「二度も人の下宿の前で騒ぐな、このサボり常習犯が。今度やったら館長にチクるからな」

「は、はい!!重々承知しています!!!」


 そう謝り、追い立てられるまま急ぎ職場へ帰還する奴。その背中を一瞥すらせず、鬼の如きトレジャーハンターは入れ違いに『鳳凰亭』へ。

「準備は出来ているな?行くぞ」

「待ってユアン。これを見て」

 姉が例の脅迫状を見せると、相棒は予想通り鼻を鳴らした。

「暇人が。おい、まさかお前等、真に受けているんじゃないだろうな?差出人は瞑洛一のろくでなしだぞ?相手にするだけ時間の無駄だ」

「でもユアンさん。手紙には『月蹟遺跡』で待つとあるわ。もし罠だとしても、せめて出発前に心当たりの方の安否を確認しておいた方が」

「なら主人、私は無関係だ。何処かの腰を振るしか能の無い畜生と違って、私には面倒極まりない女関係など皆無だからな」

 堂々と胸張って言う事か!?しかし前言も含め、完全に的を射ているので反論出来ず。代わりに口を開いたのは姉だ。

「けど、この『鳳凰亭』で一番恨まれてるのはユアンでしょ?私やネイシェ宛ての可能性は低いんじゃないかしら?」

「顔面を引っ掻き、武道で脛を蹴飛ばした挙句、散々っぱら虚仮にしくさった生意気な害獣と小娘が逆恨みされる筋合いは無いと?ハッ!久々に面白い冗談を聞いたぞ」

「うぐっ……で、でもあの時だってリーダーはユアンだったし」

「今度は責任転嫁か?天下御免の闇組織を継ぐ人間にしてはエラく弱気な返答だな。―――とにかく、私には関係無い事だ。先に行っているぞ」

 そのまま躊躇い無く街へ出ようとする後頭部に飛び付き、銀髪を積年の恨みも籠めて思い切り引っ張った。


「って!!何をする貴様!!?」「お前こそチームの仲間を置いて行こうとするな!」「組んだ覚えなぞ無い!」「何だと手前!?」


 ギューギュー!ポカポカポカ!!殴り蹴り合いの喧嘩の後、奴は忌々しげに吐き捨てた。

「チッ!三十分だ、それ以上は待たんぞ」

 その言葉を聞き、姉が素早く自身の携帯を開く。

「ユアン、もしかしたら標的はあなたの御家族かもしれないわ。この街にいらした事もあるし」ピピッ。「はい」

「何故私の家の番号を短縮に入れているんだ女狐!?」

「もしもの時のためよ。細かい事は気にしないの」

 釈然としないまま相棒は携帯を受け取り、耳に押し当てる。


 プルルル、ガチャッ。『あ、ミリカさん。どうしたの?またうちのシャーゼが迷惑掛けちゃった?』


 最早定番の拡声モードになっているとも気付かず、無言のまま額に青筋を浮かべる相棒。

「傍迷惑なのは居候のこいつ等の方だ。訂正を求める」

『あれ、珍しい。一体どう言う風の吹き回し?』

「女狐が勝手に繋いだんだ、別に他意は無い。母さんは」

『後ろでポインセチアの手入れしてるよ。替わろうか?』

「いや、いるならいい。ところで、今朝から何か変わった事は無いか?怪しい男が家の周りをうろついているとか」

 お、流石に心配はしているんだな。訊き方は直球過ぎるが、この冷血男にしては悪くない反応。

『え、何それ?うーん……今日来たのは郵便さんだけだよ。あ、そう言えばし』「そうか、邪魔したな」ピッ。

「今お姉さん、最後に何か言おうとしてなかったか?」

「さあな。それより次だ。ネイシェ、愛人共の安否確認は?」

「まだだ。ヴァイア、電話借りるぞ」

「じゃあ私はママ達に連絡するわ」

 俺は暗記している番号をプッシュし、残り八人の未亡人達の所在を確かめる。冬休みでイヴと言う事もあり、年末にも関わらず殆どは在宅だった。龍族の彼女だけは買い物中だったが、そちらも携帯に掛け直して無事声を聞けた。別れの挨拶に愛の言葉を囁き、受話器を置く。

「どうだった?」首を横に振る。「そう、良かった……とは言えないわね。心当たりはこれで全部なのよね?まさかビータさん、無関係な女性を人質に……?」

「だとしたら赦せないわ。政府館の時といい、本当に余計な事しかしないんだから!」

 隠した尻尾を突き上げて憤る姉を冷淡に見、時間だ、ユアンがそう口を開いた時だ。


 プルルルル。「あら、誰かしら?」ガチャッ。「はい、こちら『鳳凰亭』―――え?あ、はい。すぐに替わりますね」


 受話器を手で軽く押さえた女主人は、ユアンさん、政府館のエルシェンカさんからお電話です、と告げる。流石は俺の恋人、さり気無く拡声ボタンに指を掛けるのも忘れない。

「あいつが?ったく、この忙しい時に一体何の用だ―――はい、もしもし」

 差し出されるまま耳に押し当て、ぶっきらぼうに電話に出る。


『相変わらず自営業者とは思えない邪険な応答だな、シャーゼ。取引先のアイザも呆れていたぞ?』


 前職の上司の第一声にフン、奴は鼻を鳴らす。

「あんなお節介デカ女の事などどうでもいい。さっさと用件を言え」

『……成程な。オリオール、バッドニュースだ。どうやらまだ着いてすらいないらしい』

 あれ、あの一角獣の坊主も同席しているのか?しかし着いていないって、何が?

「おい、コソコソ話すな。説明しろ。大体、何故餓鬼が貴様の執務室にいる?小晶は―――!!?まさか……」

 冬にも関わらず、皺を寄せた額から一筋の汗が伝う。

「そう言う事か……くそっ!髭め、低能の分際でナメた真似を!!」

『その様子だと、誠の居場所に心当たりがあるみたいだね。瞑洛から近い場所か?』

「数キロ近辺だ。だが手出しはするな、奴は私が保護する」

 えっと、この話の流れから考えて、まさか髭の預かった『女』って……小晶さん!?うわぁー、あの助平中年め!極刑も恐れぬ傲慢不遜な真似しやがって!!

(いや、待てよ……)

 逆に考えれば、これはユアンの株を上げる又と無い大チャンス!恋のキューピットとして、俺も精一杯フォローしなければ!!

『それは誘拐犯の危険度次第だね。大体、誠が誰も連れず出掛けたのはシャーゼ、君のせいなんだぞ』

 溜息。

『折角招待状を出したのに、君ときたら……少し相談したい事もあったのにさ』

「相談だと?政府には以前戻らんとハッキリ」

『そんな事じゃないよ。まあ、詳しくは救出してから本人に聞くんだね。ん、オリオール?―――どうやら拙い事になった。急いだ方がいい』

 ん?まさかあの坊や、兄さんを助けに来るつもりか?

「チッ!そのようだな、切るぞ」

『充分気を付けなよ。白鳩の頃からそうだったけど、君は殊誠の事となると頭に血が昇って冷静な判断が出来な』ガチャッ!

 忠告虚しく完全沸騰したトレジャーハンターは、無言で俺達に目配せした。長い付き合いだ、煮え滾る想いぐらいとっくに察している。

 俺は小さく頷き、定位置である肩に乗って、無口な相棒に代わり叫んだ。


「ああ、行こうぜ!二度とこんな大それた真似しないよう、とびきりキツくとっちめないとな!!」



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