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四章 姉弟疾駆




「??」「何梅干を無理矢理食べさせられたような顔してるの?」


 振り返った姉が不思議そうに覗き込む。文字列を認識した数秒間、パッチリした目が完全に点になった。

「……何これ?バラッグ・ビータって、前に政府館で会った小汚い親父でしょ?いつもこんな笑えないジョークを送って来るの?」

「んな訳無いだろ。手紙なんて初めて……っ!?ヴァイア!!?」

 姉が在宅な以上、他に『鳳凰亭』の異性は第一愛人だけだ。くそっ!彼女に何かしたらあの野郎、ご自慢の髭や頭髪にガムテープ貼り付けて、毛根ごと全部引っこ抜いてやる!!

 猛ダッシュで通りに出た俺の首根っこを、追い付いた姉が引っ掴んで肩に乗せる。


「ヴァイアさん、何処まで行ったの!?」「商店街の乾物屋!!」


 日常の食料調達は姉に任せ、自分は仕込みに時間の掛かるおせちの材料を買い求めに行ったのだ。因みに今夜の夕飯は彼女一人なのと体重管理のため、イヴだが普段通り質素な食事にするそうだ。

 木造の商店が軒を連ねる旧通り。その最奥にある目的地を目指し、姉は疾走。と、丁度正面から歩いて来ていた昼休み中の図書館員がこちらに気付く。

「よう、ネイシェにミリカお姉さん!そんなに急いで何処行くんだ?」

「悪い!今説明してる暇無えんだショナ!しばらく会ってないけど、リナリアに宜しくな!!」

 にしても、流石は森暮らしのシュビドゥチ一族。アスリート並みのスピードで通行人を牛蒡抜きし、あっと言う間に最奥ブロックへ到着した。


「ヴァイア!?」「ヴァイアさん、いますか!!?」「あら、二人共。荷物持ちに来てくれたの?」「「わっ!?」」


 乾物屋の奥の棚から顔を出した未亡人は、沢山買っちゃったから助かるわ、ネイシェの好きな伊達巻も買っておいたわよ、あら、図書館員さんもこんにちは、にっこりしつつそう言った。

「ぜぇ……はぁ、はぁ……一体どうしたんだよ、お二人さん?今日は年に一度の楽しい楽しいイヴだってのに」

「彼女もいねえ童貞が何言ってるんだ。まぁいい、実は―――」



 『鳳凰亭』へ帰りがてら、俺達は二人に脅迫状の件を話した。

「―――と言う訳なの」

「悪戯にしてはちょっと悪質ね」

 言いつつ女主人はドアを開け、豆類の袋を片付けにキッチンの奥へ。続いてショナから荷物の半分を受け取った姉が、俺を伴い冷蔵庫を開ける。あっちへこっちへ中身を移動させる事約五分、どうにか収納完了。

「家みたいに大きい冷蔵庫なら、こんな事しなくていいのに」

「はいはい、愚痴らない愚痴らない」

 これでも一人で出来る分、整理下手は大分改善された方だ。下宿し始めの頃なんて、俺かヴァイアが付きっきりでないと必ず何かしら入れ忘れていた。食品を駄目にされた事も一度や二度ではない。

「女、か……なあネイシェ、母さんに電話してやろうか?」

 カウンターに座ったショナはそう言い、ポケットから赤い携帯電話を取り出す。

「あの山師が何考えているにしても、取り敢えずここに出入りしている女性方の無事は確認しといた方がいいだろ?」

「ああ、そうだな。頼む」

 ピッ、ピッ。

「―――もしもし、母さん?今何処?……ああいや、それならいいんだ……ああ、ケーキね。分かった、仕事終わったら取ってくる。母さんもあんま根詰めないで、今日ぐらいは早く帰って来いよ。じゃ」ピッ。「ヤベ!もう昼休み終わってるじゃん!?」

 途端にあたふたし出す若者に、俺は溜息を吐く。

「アホ。ま、連絡してくれてサンキューな。早く戻ってくれ」

「力になれなくて済まん。じゃ、俺はこれで!」

 頭を下げ、ダッシュで玄関を飛び出していくショナ。次の瞬間、その後ろ姿がピキーン!一瞬にして硬直した。何が起こったのかは大体想像が付く。前回といい、つくづく運の悪い奴だ。



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