一章 聖前夜パーティー
「パパ、抱っこしてあげるー!」「したげるー!」「僕もー!」
三方向から同時に掴まれ、激痛と共にブチブチ冬の赤毛が抜ける。半泣きになりながら、じゃあチビから順番な、どうにかそう答えた。
「わーい!」
むぎゅっ!危うく窒息しかけたが、年に一度の家族サービスだ。場をセッティングしてくれたヴァイアとミリカ姉ちゃん、それに和気藹々とパーティーを楽しむ愛人三人のためにも頑張らないと。
「じゃあ二人は私と遊びましょう。―――行っくよー、ほーら!!」
両側に一人ずつ手を繋ぎ、持ち前の体力で勢い良く回転を始める。
グワングワングワン!「きゃー!!」「おばちゃんすごーい!!」
長女の無邪気な一言に、姉の額に一瞬青筋が浮き出る。が、勿論手を離し、遠心力のまま壁に叩き付けるような極悪非道な真似はしなかった。二階にいる誰かさんじゃあるまいし、幾ら箱入りお嬢様でもそれぐらいの分別はある。
「喧しいぞ貴様等!こっちは仕事中だ!!いい加減その乱痴気騒ぎを止めんか!!!」
おっと、んな事考えてたら二階から本人の御登場だ。丸一日に及ぶ資料分析の疲れからか、ただでさえ悪い目付きが一層険しい。
遊び相手にうってつけの(頑丈そうな)成人男性のお出ましに、子供達の目がキラーン!三人共自ら手を離し、一斉に口を開く。
「おじさん、抱っこしてー!」「かたぐるまー!」「ぼくおうまさんごっこー!!」
連携プレーで足元へ群がる娘達に、五十パーセント増しの殺人視線を飛ばす奴。はて?何だかこの光景、遠い昔何処かで見た事あるような。しかし子供達との顔合わせは今日が初めてだし、うーむ……ま、多分デジャヴって奴だろ。
「こら、引っ張るな糞餓鬼共!ネイシェ、貴様の管轄だろう!?何とかしろ!!」
「済まん。諦めてくれユアン」笑いを噛み殺しつつ答える。「ま、七面鳥もケーキもたらふく食った後だし、すぐに寝てくれるさ」
「そうよ、大人気ないわね。練習だと思って我慢しなさい」
俺の反論に、食器を片付け始めた姉ちゃんも加勢―――って、何気にまだ諦めてなかったのかよ!?この半年で恋心などとっくに冷め切った物と思っていたのに。
そんな姉の片想いの相手、性格最悪で図体ばかり大きくなった子供はいつも通り鋭く舌打ちした。
「断る!おい、勝手に人の背中へ乗るな小娘共!お前も髪を引っ張るんじゃない!?禿げたら訴えてやる!!」
暴言を吐きつつ本気で戯れ始めた相棒をニマニマしつつ見、俺は残っていたフライドポテトを口に放り込んだ。