十六章 意外な依頼
ゴゴゴゴ……!!!
夕焼けの中、荒野を飛び立つ小型船を見送った後。ユアンは改めて突然の訪問の用件を問うた。
「はい。実は、政府館の今月の会議で―――民間との合同出資に因る、トレジャーハンターの協会を設立しようと言う提案が出されたんです」
は……協会?
「個人では資料を当たるだけでも、物凄い時間と労力が掛かってしまいます。ですから資料分析と実地調査を分担作業にした方が、個々のスキルも生かせる上に効率的ではないか、と。それにあの、折角一生懸命頑張っても無収穫では生活に困るでしょう?ですから所属員には協会から、少ないですけどお給料も支給しようかと思って……」
「「「「本気か!?」」」」
「ほ、本当なんですかそれ!?」
万年貧乏の髭と女房、手下ABCが食いつく中。当事者の一人は冷ややかに口端を歪めた。
「何時から政府は不労者共の味方になったんだ?余程税金を食い潰されたいらしいな」
「ユアン!?」
「はい。エルも、最初はシャーゼさんと同じ理由で反対しました。但し、入会試験と定期考査を厳格に行える人を代表に迎えるならば問題無いだろう、とも」
舌打ち。さしもの鈍感男も、どうやら用件を悟ったらしい。
「―――私は、充分な実績のあるシャーゼさんを、その代表に推薦したいと思っています。どう、ですか……?」
小首を傾げ、思わず接吻したくなるような幼い顔で困惑を表す。
「やっぱり、忙しいですよね……?私個人としては、手伝ってくれる人が多ければシャーゼさんの目的も早く達成出来るかと思って……済みません」ペコリ。「急に決めなくても大丈夫です。ゆっくり考えてからで」
「やる」
「え?」
「聞こえなかったのか?」一層鋭い舌打ち。「引き受けてやると言っているんだ。おい、髭」
突き付けた人差し指を上下に振りながら、ユアンは上から目線で告げる。
「現時点を以って、貴様を副代表に任命する。設立の当面の手は、仲良しこよしなそいつ等でも使え。あと、言っておくが『余計な』真似はするなよ?小晶は酔狂にも、貴様等軽犯罪者を雇ってやろうとぬかしているんだ」
鼻で笑う。
「今まで散々体験した通り、こいつの部下は血も涙も無い人非人揃いだ。次逆らったら人肉ハンバーグ如きでは到底済まんぞ?」
「ハ、ハン……あ、ああ分かった!約束する!!」
死の恐怖が蘇り、ABC共々首をガクガク縦に振る。一方、髭の女房は情けない男達とは正反対の表情をしていた。
「どうした、異論があるのか?」
「いいえいいえ!ヴィーさん。どうぞうちの宿六を目一杯、何なら今日からでもこき使ってやって下さい!」
滅茶苦茶乗り気だなオバサン!そんなに定期収入が欲しいのか!?
「こう見えて昔この人、小さいながら事業を興した事もあるんですよ。ですから面倒臭い手続きや経理なんかはお手の物です」
「こ、こらカカア!そんな大昔の話」
「なのに軌道に乗っていた会社を突然整理して、俺は一攫千金を掴むんだ!なんてねえ」
「信じ難い程の阿呆だな」
「でしょう?」
揃って嘆息。
「まぁ、安心しろ。共同事業とは言え、公務員となれば福利厚生もそれなりにある。今よりは大分暮らし向きが安定する筈だ」
そう告げられ、目をキラキラさせるミセス・ビータ。
「ヴィーさん、このご恩は一生忘れません。これで良ければ、どうぞ何なりとお申し付け下さい」
「ああ―――だそうだ、良かったな髭。家族の全面協力が得られて」
ニヤニヤ。今更だけど本っ当に性格悪いなこいつ。隣にいる姉ちゃんも呆れ顔だ。
「ぐぐ……仕方ねえな、分かったよ。けど、手前に従った訳じゃねえぞ?あくまで聖者様の頼みだから聞いたんだ。そこの所間違えるなよ?」
「些末な事を気にするな、小者が。―――で、小晶。ボンクラ共への最初の仕事は何だ?」
「そう、ですね……正式な設立は来年になるので、取り敢えず協会員になってくれそうな方達に声を掛けておいてもらえますか?あ、そうだ。もし絵の上手な方がいれば、公共機関へ張る募集のポスターも是非作って欲しいです。必要な情報は、年が明ける前に『鳳凰亭』へお送りしますから」
「だそうだ。やれやれ、明日から忙しくなるな髭。まるでマトモに働いているようではないか」
(ん?あれ、ちょっと待て……あー!!)
気付いた俺が口を開きかけると、姉が諦めろと言わんばかりに首を小さく横へ振った。
そう。ユアンと言う奴は、体よく全ての面倒事を髭達に押し付けた上、ちゃっかり小晶さんの信頼だけ獲得する事に成功したのだ。何て悪辣外道な童貞野郎!
(でも、組織になるって事は、その内このチームにも新メンバーが加入……される訳無かったな)
仮にも仲間の俺達でさえ、普通に容赦無く置いていくリーダーだ。初対面のド素人など、最初から頭数にも入れないに違いない。
(……けど、良かったなユアン)
実地はともかく、これで少しは資料調査の時間が減り、万年肩凝りも少しはマシになるだろう。何より、愛する小晶さんが五年間ずっと案じ続けていてくれた事。口には出さないが、嬉しいに決まっている。ああ、それに―ー―いや、止めておこう。
(にしてもあの薬、吃驚するぐらい即効で治ったな。しかも副作用無しでピンピンしてるし。もし今度会えたら、是非お礼しないと)
そう思いつつ、ふと茜色の空を見上げる。すると船とは明らかに異なる黒いシルエットが、雲海の真下を通過する最中だった。馬車?まさかね。きっと龍族が飛んでいるだけだ。
「良い夕焼けだなあ」「おい、何を寝惚けている馬鹿狐?―――まぁいい、送って行ってやる。来い、小晶」「あ、はい!」




