十二章 一小説家の冒険
時折曲がりつつ、十分程進んだだろうか。ようやく前方に光が見えた。出口だ!
「よっ……と」
床までは約五十センチあったが、後脚で踏ん張りながら慎重に降りる。伊達に一日何回も人様へ登ってはいない、これぐらい余裕綽々だ。
降り立った場所は、これまでとは明らかに異なる巨大空間。見上げた目線の先には、かつて栄華を誇ったと言う龍族の壁画が。どうやらここが本来の目的地、最深部のようだ。
トレジャーハンターとしての性か、反射的に中央へ続く二十段余りの昇り階段へ向かう。宝を目前にして見過ごしたとあっては、ユアン・ヴィーの相棒失格だ。
(そう言や初めてだな、たった一人でこんな奥まで来たの……)
いつもはユアンや姉ちゃんが一緒で、しかも大概肩に乗せてもらっていた。二人と同じ目線で見た遺跡はどれも、現在視界に広がる物より遥かに楽勝そうで、
「っ……!」ブルルッ!不意に背筋が震え、階段の途中で歩みが完全に止まってしまった。
嫌と言う程自覚はあった。俺は―――恐怖している。この先の未知に、たった一人で対峙する事に……。
情けない事この上無いが、元来俺は勇敢な方ではない。今までトレジャーハントをやってこられたのは、ひとえにしっかり者のパートナーのお陰だ。だが今、奴は死の淵を彷徨い、どう足掻いてもここには来られない……。
カタン。「っ!!?」上に、誰かいる!?
物音が聞こえた途端、膝はガタガタ震え出し、尻が情けなくも段差にへたり込んだ。
無理だ。俺みたいな小さい赤狐が、デカくて強い遺跡の番人に敵う訳が無い。ユアンみたいに戦闘技能も無ければ機転も利かない、ただの非力なプリティ獣では、
「―――馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!!」ガンッ!顎に拳を叩き込み、無理矢理己へ喝を入れた。
苦痛の一瞬後、視界をお星様が舞う。しかし痛い思いをしたお陰で、臆病風は退散してくれた。傍目にもイタい事この上無い行為だが、誰にも見られていないので良しとしよう。
「行くぜ!」
一気に残りの段を駆け上がる最中、下宿に残した原稿内の宝探し屋が乗り移ったような感覚に襲われた。まだ未完成の段階から作者を操るとは、ユアン・ヴィー。貴様、本物に負けず劣らずの大物だな!
沸き上がる名作の予感に自家発電で胸を熱くしつつ、頂上へ到達。天井から垂直に冬の陽光が降り注ぎ、床にはユアンのノートに模写されていたのと同じ魔法陣。祭壇だ。
厳かな場に立ち、先程の音の正体を見据えるため、俺はキッ!と周囲を睨み付けた。
「誰だ?」「っ!!?」
だが、まさか人語を聞けるとは思わず、吃驚仰天して思わず再度腰を抜かしてしまった。




