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十一章 絶体絶命



 こんな緊急事態でも流石、ユアンは行動力が違った。立つのも困難な状況で一早く腰を上げ、前方の通路を睨み付ける。ヤバい!遺跡初の激震に、石畳の幾つかが早くも崩れ始めている。かく言う俺達の乗っている床もぐらぐらし始め、


「何をボサッとしている貴様等!?置いて行くぞ!!」「済みま、わっ!?」


 一息に細い身体を抱え上げ、奴は先陣を切って奥へ走り出す。当然も当然だが、俺達は二の次かよ!?

「立てるわよね、髭!?」

「どうにかな。―――よっこらしょ、おっと!」

 一際強い震動によろめくが、どうにか転ばずに済んだ。既に先行者は通路の一番奥まで到達し、轟音で聞こえないが俺達に向け何事か怒鳴っていた。

「行くわよ!」

「おう!」

 二人が駆け出した直後、残っていた階段が砲撃に因って粉砕された。発生した豪風に前のめりになりかけながら、必死に震動する石畳を爪先で掴まえ続けるトレジャーハンター達。


「そっちは駄目だ髭!一個右!」「そらよっ!!」「姉ちゃん、壁が崩れかけてる!それ以上向こうへ行くな!」「了解!!」


 勿論、俺もただしがみ付いているだけではない。脚を動かさない代わり、必死で二人のナビゲートに徹する。その甲斐あって、どうにか全員無事到着。

「遅いぞ貴様等!」

「手前が早過ぎるんだよ!」

 文句を言いつつピョン!ふう、やっぱ慣れた足場は落ち着くな。

「皆さん、怪我はありませんか?」

 横抱きされたまま姫君が尋ねる。

「ええ、大丈夫です」

「それよりこれからどうするんだよ!?このままだと何れ追い付かれるぞ!!」

「案ずるな。この奥は細い上に別れ道だ。流石にこれ以上船で突っ込む事は出来ん」

 成程。確かに相棒の言う通り、左右へ二つ下り道がある。でも、どっちが正解だ?

「船から降りてさえくれれば、私が何とか説得します。これ以上皆さんを危険な目に遭わせる訳にはいきません」

「それこそ今更だがな」ポカッ!「ったっ!」

 俺の無言の愛の鞭に、いい加減こ奴も意図を察したようだ。小さく首を竦め、済まん、素直に謝る。

「で、どうする?出迎えるなら安全な下で待ってた方がいいと思うけど」

「そうだな。だが、下調べでは内部構造は一切不明だった。片方、或いは両方に何らかのトラップが仕掛けられていると考えた方がいいだろう」

 そう言えば侵入して以来、まだ一度も罠や守護者(大抵は魔力で動く無機物)に遭遇していない。この異常事態で故障している可能性もあるが、油断しないに越した事は無いだろう。

「忘れているかもしれんが、当初の目的は宝の捜索だ。私としては効率を考えて、二手に別れて調査したいんだがな」

「この状況でよくそう冷静になれるわね……分かったわ。チーム分けは」

「私達は右へ行く。反対側は任せたぞ」スタスタ。「ちょっと!!」

 姉ちゃん、半年も一緒にいるんだからいい加減学習しろよ。それにこの千載一遇のチャンスで、ユアンが立場交替に応じるもんか。

「ところで、俺は付いて行ってもいいのか?」

 階段を降りながら尋ねる。

「どうせ断った所で勝手に来るつもりだろう。こちらには政府要人もいるしな、もしもの時の保険だ」

「へへ、ありがとよ」

 鼻を前脚で掻き間近の美人の目元、綺麗にカールした睫毛へ視線を向ける。

「大丈夫だよ。小晶さんは、こいつがちゃーんと政府館まで送り届けるからさ。大船に乗ったつもりでいてくれよ」

「こら!私はそこまで面倒を見るつもりは……ふ、フン。またエルシェンカに小言を喰らうのは御免だからな。今日は偶々空いているし、久々にシャバムでイヴを祝うのも悪くないだろう」

「え、パーティーに出席してくれるんですか!?シャーゼさんが来てくれるなら、公安課の人達もきっと喜んでくれます。皆さん凄く心配していたんですよ?」

 ほう、前職の先輩の方々か。確かに何考えているか分からない後輩だしな。こりゃ現パートナーの俺も同席して、挨拶&フォローしてやらないと。


「フン。それこそ要らん杞憂―――っ!!!?」


 それは踏み出した本人にしか分からぬ程微かな違和感。だがユアンが顔を顰めると同時に、階段の下で罠が起動した。


 ガコンッ!!「しまっ――――!!!」「きゃあっ!!」「わっ!!?」


 段差の消えた斜面を滑降する中、ユアンがどうにかデイバッグに手を伸ばす。こう言う時はトレジャーハンター七つ道具の一つ、鉤フック付きロープの出番だ!

 が、何故か奴はすぐに手を引っ込める。代わりに血の滲む細い手の甲を掴み、抱き寄せた上に尻尾を擦り続けていた俺を乗せた。

「ど、どうしたんだよ!?」

「しくじった。私とした事が、選りにも選ってこの場面で忘れ物とはな……」

 己のミスを認め、自虐的に笑む。

「早速保険の出番だ。後は頼むぞ」

「いいえ、私が奇跡で衝撃を緩和します!シャーゼさん達をこんな所で死なせたら、私は、私は……!!」

「泣くな!力を使うなら真剣に集中しろ!!」何様だよ手前は!?

 涙ぐみながらも、健気な小晶さんは意識を集中し始めた。十数秒後、淡い光と共に身体が温かな空気に包まれる。坂のゴールが見えたのとほぼ同時だ。ギリギリ間に合ったけど、こんなので大丈夫な―――わわわっ!!


「くっ!」「ぎゃあぁぁっ!!」


 衝撃が全身に走った次の瞬間、俺の意識は暗転した。




「ん……うぅ……ハッ!」


 目を覚ました途端、鼻腔を鋭い臭いが突いた。本能的にその正体に気付いた瞬間、冬なのに毛穴の奥から冷や汗が止まらなくなった。


「あ、ぁ………!!!」


 目の前では、凡そ最悪の事態が起こっていた。

 守られた小晶さんは無傷。だが庇った相棒の脇腹には、最終地点に仕掛けられていた槍が深々と……!

「ユア、っ!駄目だ……」

 不幸中の幸いだが、気絶のために出血は最小限に留まっていた。だが勿論、死ぬのは時間の問題だ。

「助けを、呼ばなきゃ……」

 矯正不可能なぐらいの頑固者、しかもとんでもない朴念仁だが、それでも俺にとっては唯一無二の相棒だ。こんな冷たい場所で、しかも愛する人の前で死なせる訳にはいかない!!

 立ち上がってトラップルーム全体を見回すと、隅に通風穴が空いていた。約三十センチ四方のそれに近付くと、カツ、カツ……誰かが歩く音が!


「姉ちゃん、髭!!来てくれ!ユアンが大変なんだ!!」


 そう声を張り上げるも、返事は無し。向こうにいるのが二人でないとすれば、捜索に降りて来た不死族か?それとも若しや、傍若無人な侵入者達に怒れる『月蹟遺跡』の住人……。

 迷っている時間も惜しい。俺は失神したままの二人に背を向け、未知の入口へ潜り込む。狭くはないが、内部は溜まった砂だらけだ。反射的に鼻がムズムズする。


「死ぬんじゃないぞ、ユアン!俺が絶対助けを呼んで来てや―――は、はっくしょん!!ううぅ……と、とにかく大人しく待ってろよ!」 




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