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十章 天才の秘密と孤独


 

 約二百段の石階段を降りた先は、如何にも遺跡と言った趣のある広大な空間だった。左右等間隔に装飾の彫られた石柱がズラッと奥まで立ち並び、所々無くなっているものの足場の石畳も健在だ。どうやら、天井のあちこちに地上への通風口があるらしい。入って来た階段と違い、通路は差し込む光でライト要らずだった。

「大丈夫ですか、小晶さん?」

 姉の問いに、最後尾の彼は蒼白い顔で頷く。その様子を見、背中を支えていた相棒が座るよう命じた。

「でも」

「勘違いするな、奴等の『救出作戦』が始まるまでだ。今の内に少しでも体力を回復させろ」

「済みません……」

 謝りつつ、よろよろと腰を下ろす。相棒はデイバッグから銀色の細い水筒を取り出し、整った顔面に突き付けた。「飲め」

「ありがとうございます……?あれ、コップは?」

「あるか。直接行け」

「あ、はい。じゃあ頂きます」

 素直に間接キスに応じ、こくこく。本当に天然で、仕草の一つ一つまで可愛いらしい人だ。

 一緒に出した調査ノートを広げ、相棒はいつも通り事前に情報収集したページを軽くさらい始める。

「図書館の文献に因ると、ここは宇宙暦百年頃に建造された龍の一部族の墓標らしい。宝の記述は特に無かったが、この規模の遺跡だ。期待値はそれなりにあるだろう」

「凄い、よく調べてますね!大変だったのではないですか?」

 ビッシリ書かれた紙面を見、小晶さんが吃驚しつつ尋ねる。隣の同業者も目を丸くして凝視していた。

「そうか?生憎資料が一冊しか見つからなかったからな、他に比べれば少ない方だぞ。なるべくハズレは引きたくないからな。何だ髭、その目は?―――これぐらい当然だろう。下調べも無しに片っ端から行っては、命が幾つあっても足りん」

 下手すれば子供世代の淡々とした返答に、宝探し屋の先達は帽子を目深に被り項垂れた。

「凄えな、お前……誰かに弟子入りしてたのか?」

「そんな暇あるか。銃の撃ち方だけは一日講習を受けたがな、他は特に何も」

 そして前職で培った情報収集能力と分析力を元に活動開始、か。凄まじいスペックとバイタリティーだ。一年後、俺と出会った頃は、既に片手で余る程の遺跡を踏破したと言ってたし。

(……けど、それでも天職とは言わないんだろうな、こいつは)

 どんなに功績を讃えられ、巨万の富を得ても、あくまでトレジャーハントは手段に過ぎない。目的が達成されたが最後、ユアンは誰が何と言おうと潔く廃業するだろう。まぁ、相手が他でもない小晶さんならどう答えるか分からないが……。

「成程。じゃ、お前等は手伝いを?」

「ええ、家事なんかの身の回りの世話と、荷物持ちを主にね」

 戻される水筒を羨ましげに見つめながら、姉は唇を尖らせる。

「でもユアン、そろそろ私にも資料分析の方法を教えてくれてもいいでしょ?」

「はぁ?何時まで学生気分のつもりだ女狐。それぐらい勝手に見て盗め」

「!?な、何ですって!!?」

 普段我慢していた(のか?)堪忍袋の尾がとうとう切れたらしい。凭れていた壁から背を離しビシッ!人差し指を突き付ける。

「大体あなた、ママに私の事を頼まれているくせに、放任主義も甚だしいわよ!ネイシェやヴァイアさんに任せ切りで、自分はいっつも部屋に引き篭もっているじゃない!?」

「ババア狐からは面倒見以外、特段注文を付けられていないからな。当たり前だ」つーん。「文句があるなら、今からでも弟子入り先を変えるんだな。そうだ、髭の所はどうだ?絵に描いたような貧乏山師共だぞ、素晴らしい手本だ」

「巫山戯ないで!何でこんな男臭い連中の所に行かなきゃいけないのよ!?私はもっとクレバーでスマートに」

「ハッ、如何にも修練を怠る半人前の言いそうな事だ。基本もロクに出来んくせにギャアギャアと」

「だからそれを教えてって頼んでいるんでしょう!!?」

 繰り広げられる(片方だけ)喧々轟々の喧嘩に、商売敵は同情の目で俺を見つめた。

「大変だな、お前も」

「いや、これでもいつもよりは大人しめだよ」

 とは言え、今日は片想いの人同伴だ。そろそろ止めさせるか。

「ユ」「シャーゼさん」

 中性的で綺麗な声が響いた瞬間、ピタッと言い合いが止む。呼び掛けられた相棒が、どうした、まさか吐くとか言うなよ?耳まで赤くしつつ問う。

「いえ、吐き気はありません。動悸も大分落ち着いてきましたし、もう大丈夫です」

「そうか」ホッ。「なら、そろそろ進むとしよう」

「その前に、一つだけ質問してもいいですか?」

 形の良い眉を顰め、薄い胸に手を当てつつ、聖人は重々しく口を開く。


「そんなに大変な思いをしてまで―――シャーゼさんは一体、何を探しているんですか?」


 その瞬間の相棒の目を、俺は一生忘れないだろう。落胆、悲嘆、そして微かな絶望……だがそれらを鼻息で吹き飛ばし、奴はいつものせせら笑いを浮かべた。

「秘密だ。お前が知る必要も無い」

「でも」

 反論しかけた瞬間、凄まじい地震が起こる。震度幾つだ!?乗っていた肩から落ちそうになり、悪ぃ髭!断ってジャケットに爪を掛け、どうにか踏ん張った。


 ドドドドドドドド――――!!!!!「きゃあっ!」「な、何なのよこれ!?」


 断続的な震動は、心持ち段々大きくなっているように感じた。ついでにビリビリと毛皮の下の皮膚が泡立つ、命の危機の予感も。

 片膝を立て一人冷静に周囲を観察していたユアンが後方を確認し、今までに無い程鋭く舌打ちする。

「あの女、血迷ったか!!?」

 その叫びに驚いて、俺達も同じ方向を見―――四人揃って己が目を疑った。


「な、何じゃありゃあぁ!!!?」

 

 砲撃で階段を悉く掘削しこちらへ向かって来る宇宙船に、一同を代表した俺のツッコミが華麗に入った。



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