anater story3 小さな約束
今、僕たちはバスの中。席順はと言うと、通路側にアリア、真ん中が君、その隣が僕、といった具合。相変わらず、二人は僕のことなんかどうでもいいようで、いわゆる「女子トーク」でも繰り広げているのかな、と二人を見た。あれ? アリアは寝ているんじゃん。もしかして、君と話すチャンス? いや、でもなぁ……。僕に、そんな勇気なんて無い。皆無だ。僕は案外弱いんだ。心も、頭も。いや、これは冗談だけどね。
「まぁ、いい」
漠は昔の……。孤児院で過ごしてきた七年間に思いを馳せることにした。
孤児院に同時に三人で来た頃、君は訳もわからず泣いていた、『なんで、パパもママもいないの? なんで、なんで……』。アリアはずっと無表情だった。僕は多分、愛に飢えていた。僕たち三人とも寂しかったんだ。あの頃はなにもわからなくて、孤児院に来る前の記憶は見事に無くて。世界に一体、誰なのかもわからない自分一人だけが取り残されている。そんな気分だった。
ある日の夜。僕はトイレに行きたくなって、目が覚めた。暗い廊下で人影がゆらめいていて、泣き声が聞こえた。その声は、
「リリー? どうしたの?」
「ロイス……。寂しくて泣いていたら、同じ部屋の子にうるさいって言われて……」
なんて、心無い子たちだろう。泣いていたら、慰めてあげればいいものを。
「君は……、リリーはひとりじゃないよ。僕がいる。寂しかったら、僕を呼んで。いい? 約束」
「約束?」
「そう」
「うん、わかった」
そう返事をしたものの、また、孤独と、虚無感に襲われたのか、君は泣きだしてしまった。僕は、ただただその手を握っていた。
これは、僕が覚えている、一番古い記憶。そのあとのことは覚えてない。君とアリアと僕が仲良くなった頃には、もう君は泣かなくなっていた。
あの日の小さな約束。君はもう、覚えていないかも知れないね。
僕は変わっていく風景を眺めて、学校への到着を待った。