another story2
「本当に人がこないですね」
モンペリエ校の一角にある図書室。学校の仕事があまりないからと任された本の管理。しかし、本当に人がこない。
「では、今日はあの本を読むとしますか」
仕事中に本を読むのは最初は違和感や、後ろめたさがあった。しかし、本を読みたいいや、私の場合、字を見たい、という方がいいのだろうか? という誘惑には勝つことが、どうしてもできなかった。
呼び寄せの呪文でも本は出すことができるが、それでは本がかわいそうに感じる。だから、私はいつも本は取りに行くことに決めている。そして、数冊の本を手に持ち、カウンターに戻ることで、業務の準備が整う。
「コツコツ……」
室内に靴の音しかしない。そして、一つの本棚につき必ず五冊以上はある、あの偉大な魔法使いの書物。それはとても有名で、たくさんの書物が出回っていた。三人ともこのモンペリエ校で働いていたために、モンペリエではその出回っていた本のほぼ全てがそろっている。
「では、読みますか」
メガネを呪文で出取り出し、かける。椅子にもたれ込み、思わずいつも首にかけているネックレスに手をかけてしまう。このネックレスは本の形をしていて開いたり閉じたりすることができる。その中に納めている写真をいつも見てしまう。いつも見てしまってから、後悔をする。こんなネックレスは早く処分してしまえばいいのに。けれど、決心がなかなかつけられない。
「ポッティー・ルーニャさん……」
この人にまつわる私の思い出といえば、淡く、甘酸っぱく、ほろ苦い実らなかった初恋相手、ということだった。