第二話 教師と生徒のいけない関係の先に。ーその4
そう、それは、私が中学1年生になりたての頃に、お父さんの言いつけを破って近づいてはいけない倉に近づいた事が、私の奇妙な人生の幕開けでした。
倉で出逢ったのは、あの『西遊記』の妖怪三人の娘と一匹の妖怪。その不思議な出会いから、私は、寺の娘ながら今まで不思議な事や幽霊や妖怪を信じなかった事を信じるようになり、今では3年間で法力という不思議な力を操るまでに成長を遂げた訳です。
そして私はその三人と一匹と共に暮らし、見事普通の女子高生が夜な夜な悪さをする妖怪を退治するという不可思議な女子高生として生活をするハメに……。
これは、そんな普通じゃない女子高生の私と、三人の半妖の美少女と一匹の妖怪が繰り広げる物語です。
何かに運ばれる様に、私達が居る公園の前を通り過ぎてった一人の女性。ソレは気色の悪い妖気と共にしていた……。
彼女の身に一体何が……彼女を追うその先に何が待ち迎えてるのだろうか……。
一番の問題は、桃が夜食のおうどんを我慢できるかどうか!?(笑)
私達はそんな中、通り過ぎ去った彼女を追うのでした
☆。砕妖魔乙女伝 彩優記。☆
第二話 教師と生徒のいけない関係の先に。ーその4
「速いか」
沙紀が走りながら漏らす。
私達は公園から駆け出し、気色の悪い強い妖気と共に過ぎ去っていく女性を追っている。
追っているが、相手のスピードの方が上で、中々追いつけないで居るのだ。
「目視で追いかけるのは限界がありますね」
「けっこう速いしね」
凛ちゃんの言葉に相槌する桃。
「コレだけ強ければ、気を探れば居場所が特定出来るかもしれない」
ふと私は走りながら言う。
「なら走るのやめていい? お嬢」
「あんまり遠いと探しにくいから、やっぱ追うしかない気もするわ」
「あははは、どのみち走るんですね」
軽く乾いた笑い声を響かせる凛ちゃん。
あ、こうすれば……。
私はふと思いつき、
「結界札ですか?」
結界札に気を入れて前方を進む彼女向かって飛ばす。
ヒュゥゥゥッ!
札がいきおい良く空を裂き進み、前方の彼女の背中にペタっと貼り付く。
「なるほどね。遠すぎても自分の気を追えばいいように目印をかぁ」
感嘆の声を上げて、足を止める沙紀。
「自分の気なら遠くにあっても、妖気を探すより簡単だからね」
「蘭さんならではですね」
と、ニッコリ微笑む凛ちゃんに
「ちょっとは疲れなくてすむや」
足を止めた桃。
「何があるか解らないから少しでも体力を温存しとかないとね。私は皆と違って体力は無いから頭使わないといけないのよ」
人一倍体力はある方だけど、流石に『人一倍』単位じゃ、半妖の三人には負けるのが当然である。
「だから、体力仕事は皆に任せるわね」
「あれだけ走れて息が上がってないお嬢も凄いと思うけどなぁ」
「体力修行の賜物ですね」
と言う二人に、
「私は、出来る事なら普通の女子高生で居たかったわ……」
少々愚痴る。
実際、夜な夜な妖怪退治をしてる女子高生なんて聞いた事無いし。それに私だって、本当なら普通に女の子して高校生活を送っていたはず。
沙紀に桃に凛ちゃんに白。三人と一匹に会わなかったら、私は普通で居られたのかも知れない。
いや……。ソレは違うかも……。
私が三蔵法師の血をひいてる限り、遅かれ早かれこうなってたのかも知れないか。
心の中でふと呟く。
「どうしたの? 蘭ちゃん?」
「なんでもな〜い」
桃の声にふと戻り、言葉を返した。
「やっぱりここなんだ?」
「まぁ、今日の事ですし、ここが印象に残っても仕方ありませんね」
「今度は逃がさないからっ」
三人が各々漏らした場所は、
「気を探ったら、ここに行き当たった。それに放課後の事もあるし、やっぱり見たいな感じはあるね」
一瞬強い妖気を感じた私達が通う高校だった。
「それじゃ、鬼ヶ島へ鬼退治に行きましょうかね〜」
「桃太郎ですか〜」
沙紀の言葉にクスクスと笑う凛ちゃん。
「ちょうど三人居ますしね。桃さんはそのままお供のおサルさんですね」
「うんじゃ、俺は何だろうねぇ」
「犬だよ犬っ」
「それでは私はキジですかね」
犬発言する桃に合わせてキジ発言。
「キャンキャンうるさいし」
「ぁあそぉう。桃はキーキーと騒がしいは単細胞だはでお似合いだな」
お返しとばかりに嫌味を言う沙紀。
「お供ならお供らしく、馬鹿な事言ってないでシッカリ着いてきなさい」
私はそう言葉を残して、一人校門の先を進む。
「へいへい」
「蘭ちゃん待ってよぉ」
「あははは……」
それぞれが私の言葉に答えて、後を着いて歩くのだった。
私達が2号館1階の出入り口に来た時、軽く何かが漂ってる気がした私。
2年生専用の木の下駄箱と、下にはスノコが敷き詰められている。
「罠とか無いですよね?」
「さぁ? 大将の鬼さんに子分は付き物だけど?」
凛ちゃんの言葉に柄のついた白い鞭を空間から出現させる沙紀。
「叩けばそれで良しじゃない? 居たってもさ」
と、刃の付いたトンファー空間からを出現させた桃。
「用心はした方がいいかもね」
私は一枚の紙札を取り出し、
「発っ」
気と共に、紙札を錫に変形させる。
「あははは……。備えあれば〜ですかね」
ちょっとしたタメ息と共に、空間から長く曲がった刃の鎌を出現させた。
その言葉が合図か、いくつものやや小さい妖気が私達四人へと向かってくるのを感じる私。
「結界を張らなきゃダメ?」
「お嬢、冗談でしょ?」
私の言葉に軽く笑って答える沙紀。
「多いけど、平気かな〜ボクは」
「右に同じですね」
頼もしい三人の言葉。
丁字の廊下の左右からいくつものの、黒い中型犬くらいの蜘蛛の妖怪がこちらに顔を覗かせている。
「心配じゃないわ。個々でやるより一気に消す方が楽かなって」
「少しは運動しないと太りますし。動きますよ」
と、微笑み、スノコが敷いてある場所から、右の廊下へと向かう凛ちゃん。
ザシュュッ!
鎌の柄を持ち、回転して、一気に襲いかかる四匹の蜘蛛を斬り裂いた。
「凛、ダイエット中だったっけ?」
バシイィッ!!
沙紀の操る鞭が、白い一閃を描き、瞬時三匹の蜘蛛を消滅させる。
そして直ぐ様左の廊下へと向かい、襲い来る蜘蛛を次々と消滅させて行く
「うわ、楽しそ〜う……」
その様子を見ながら、出番無しという感じの桃は恨めしそうに呟いた。
すると、後ろ出入り口の方から同じ様な妖気がいくつもの感じてくる私。
「桃、来るよ!」
私が叫ぶより早く、
「知ってるっ」
嬉しそうにトンファーに付いた刃で斬り裂き、対応していた桃の姿。
襲い跳び来る蜘蛛を次々と叩き落して、刃のある方で斬り裂いていく。
そんな三人を見てて何だか私も、ふと、
「暇だなぁ」
なんて呟く。
囲まれた状況なのに、どんどん妖気が減っていく事に緊張感も薄れていく。
『ラストっ』
沙紀と凛ちゃんの声がハモり、廊下の左右の妖気が完全に消えていった。
「手伝いましょうか? 桃さん」
「こっち終わったし」
「ヤダ! こっちは少ないんだからボクがやる!」
と、こちらによそ見をするくらい余裕があるらしい。
「へいへい」
「それじゃ私達は先を急ぎましょうか? 蘭さん」
私はそう振られて、
「そうだね。あと少ししたら終わりそうだし、ここに運ばれた女性も心配だしね」
そう意見を述べる。
「では桃、俺達先に行ってる〜」
「直ぐに追いつきますよ、桃さんなら」
別れ言葉を残して廊下の右へと向かう私達。
妖気が強くなってるのが右の廊下の方で、私がくっつけた結界札の気もこっちから感じるのである。
「あ、ちょっと待ってっ」
断末魔が響き、残してきた最後の妖気が消えるのを感じた。
終わったようね。
心の中で呟き、二人を見る。
「随分大きい妖気だこと」
「そうですね、先ほどの妖怪とは違って大きいですね。おそらく……」
「『大将の鬼』って所ね」
二人の言葉に頷く。
私達が進む先は、体育館へと続く一本道の外廊下。
ぐんぐん進み、大きな体育館の扉前へと足を止める私達。
「さてと『鬼』が出るか『蜘蛛』が出るか」
「気を引き締めましょうね」
「開けるよ」
私は呟いて扉に紙札を貼り付け強めに気を紙札へと送る。
すると、大きな扉が右へと重くスライドし始める。
ドンっ!
大きな音が響き、大きな扉は完全に開く。
私達は体育館の中に入り、中央、バスケットコートラインが引かれた所に立っている者へ
「こんばんは」
と挨拶をしたのだった。




