第二話 教師と生徒のいけない関係の先に。−その3
そう、それは、私が中学1年生になりたての頃に、お父さんの言いつけを破って近づいてはいけない倉に近づいた事が、私の奇妙な人生の幕開けでした。
倉で出逢ったのは、あの『西遊記』の妖怪三人の娘と一匹の妖怪。その不思議な出会いから、私は、寺の娘ながら今まで不思議な事や幽霊や妖怪を信じなかった事を信じるようになり、今では3年間で法力という不思議な力を操るまでに成長を遂げた訳です。
そして私はその三人と一匹と共に暮らし、見事普通の女子高生が夜な夜な悪さをする妖怪を退治するという不可思議な女子高生として生活をするハメに……。
これは、そんな普通じゃない女子高生の私と、三人の半妖の美少女と一匹の妖怪が繰り広げる物語です。
一瞬の強い妖気へと駆け出した私達……。向かう先にはいったい何が待ち迎えてるのだろうか、そして何故この学校で妖気が発生したのだろう……。
混沌の先に見えるもの、ソレは光か闇か。
そして真面目に前説してる自分に驚愕をするのでした(笑)。
☆。砕妖魔乙女伝 彩優記。☆
第二話 教師と生徒のいけない関係の先に。ーその3
「チッ……」
2号館2階に着いた時、沙紀が舌打ちする。
そこに着いた時には妖気の痕跡すら消えてるのだ。
「一瞬の強い妖気だったから直ぐ消えた?」
ふと漏らす私の言葉に、
「殺気じゃなく強い妖気なら、少しは辺りに漂ってたっておかしくは無いはずだけどなぁ……」
続いて言葉を漏らす。
「確かに……特定しずらい大まかなものだから、直ぐ消えるなんて有り得ないかもね」
と、相槌を打つ。
すると、前の方からバタバタという足音共に桃と凛ちゃんの走ってくる姿が見えた。
「そっちは?」
「全然」
私の問いかけに言葉で答える桃に、首を横に振る凛ちゃん。
「そっか……」
呟いて、私は微かな妖気が残ってないかと気を集中させる。
辺りの空気がシーン……と、先ほどより静けかえっていく。私の気が空気を澄まし、一片の濁りを探っているのだ。
大きく、そして静かに範囲を広げるが……
「ダメだわ。何も感じない」
何も反応が出て来ない事に私は中断する。
「毎回思うけど、お嬢のそれすごいな……」
「うん。完全に隠してるはずのボクの気が奥底から逆撫でられる感じ」
「三蔵法師の血を引いてるのをシッカリ感じさせますね」
と感嘆の言葉を次々と漏らす三人。
その時、
ガラガラガラ!
直ぐ側の教室のドアがスライドする!
私は思わず解放しそうな気を必死に抑えた。
固唾を飲んでスライドしたドアを見る私達。
次の瞬間、ソレは咆哮を上げた!
「廊下を走るな!」
と。
咆哮を上げてこちら見るは、お昼に会ったあの生物の先生。
「またアナタ達なの……?」
はい、すみません私達です。
と、心の中で苦笑い。
「ン? 上履きを見れば全員1年生か〜。ここは小学校じゃないんだから、廊下を走ってはいけませんよ」
またたしなめられる私。
『すみません』
全員して苦笑い浮かべて謝る私達。
すると、先生の後ろから女生徒が出てきて、
「先生ありがとうございました。お蔭で少しは楽な気持ちになりました」
肩までありそうな綺麗な黒髪を後ろでアップし、髪留めで留めた綺麗な女性とが先生に微笑んだ。
「いいよいいよ、何かあったらまた来なさいな」
と、ニッコリ微笑み返す先生。
「はい。それではありがとうございました。さようなら」
先生に一礼し、私達を見て会釈して過ぎ去って行く彼女。
会釈されたので会釈を返す。
その時にふと見えた上履きの色は青色。どうやら上履きの色から3年生らしい。
「さて……と。アナタ達をこれからお説教したいけど、他校の授業案作らなきゃだから、お説教が出来ないのが少し残念かな」
可愛らしいウィンク一つして言う先生。
その台詞に、心のどこかで安堵する私。
「では、その授業案出来るまで待ちましょう。それとも一緒に別の授業案を作りましょうか」
沙紀が落しの声で、先生にそう提案する。
始まった、沙紀の悪い癖……。
きっと誰もが心の中で呟いただろう台詞だ。
「あら、嬉しい。私のお手伝いしてくれるのかなぁ、その綺麗な顔と指で」
どうやらノリのいい先生らしく、沙紀の言葉にのる。
「ぇえ、仰せの通りに何なりとも使わせて戴けるなら、それは本望ですよ、先生」
聞いているこっちが恥ずかしくなる様な台詞をもっともらしく操る沙紀。視線の先はきっと先生の瞳を捕らえてるのだろう。
「そぉう……それじゃたっぷりと使わせて貰おうかしら?」
「仰せのままに」
耳がかゆい。
凄くかゆい。とってもかゆい。
「な〜んて、何を言ってんの。そうゆう台詞は18歳過ぎてから言いなね」
指をピストルの様にして、バンッ! と一つ撃って普通に戻る先生。
「それなら先生……」
「はい、すみませんでした〜。私達今後言いつけを守って学校生活をおくりますね」
「では先生、ボク達はこれで失礼しますね」
「さようなら、先生」
「ン? はい、さようなら」
私達は沙紀の口を塞いだり、体を抑えたりしながら、各々が挨拶をしてその場から離れたのでした。沙紀を無理矢理に連れながら。
「このエロガッパ」
「いくらなんでも、自分達の歳を言う訳には行かないですよ、沙紀さん」
罵倒する桃に、苦笑い一つ浮かべる凛ちゃん。
「わりぃ……。ちょっと調子に乗った」
後ろ頭をかき、苦笑い。
1号館の屋上に戻った私達。戻って直ぐに注意をしたのだ。
「それにしても、2階か3階と言うくらい大きい妖気だったのに、痕跡一つも残って無いのは……不思議」
私はポツリと呟く。
「ぇえ、私と桃さんが探し出した頃には急に消えて、目視で探すしかありませんでしたよ」
「うん。いろんな教室見たけど、皆部活とか帰宅とかしてて誰も居なかったね〜。妖怪だって見当たらないし」
再びお菓子を食べ始めながら言う桃。
「俺達も行った時には妖気が消えちゃってたな……」
「私が気を探しても見つからないくらいね」
「ここで『アレは気のせいだった』で通じるものじゃないですしね」
と、ニッコリ微笑んで頷く凛ちゃん。
「真相は闇の中。だね」
「難しい言葉をサルが知ってるとは思わなかったなぁ」
「沙紀さん、それはあんまりにも酷いかと……」
「なんかむかっ」
「あ〜……もう。喧嘩なら他でやりなさい」
私は紙札を取り出して忠告する。
「うん……」
「あい……」
「あははは……」
それぞれの頷き声に、乾いた笑いが日の暮れる屋上に小さく響いたのだった。
「とりあえず、今夜は何事も無ければいいけど」
私は呟いて、帰りの身支度を始める。
それに合わせて、三人も身支度を始め、私達は家路へと向かうのでした。
「鏡は真実を見せる為にある。それが負であっても、映し出さなきゃならない。
だけど、虚像の負ばかり映し出し不安にさせるばかりの鏡は、既に『鏡』ではあらず。
解る? 私の言葉の意味」
私は一枚の大きいアンティークの全身鏡に紙札を貼りつけ終えて、静かに述べた。
そこは、とある寂しい公園。遊ぶ者も居なくなって、片隅にはごみ置き場の様に粗大ゴミがいくつも置かれている……。
暗闇に薄っすら光る街灯の光に照らされる私の姿。その先に鏡は壁に立て置かれている。
『映すだけ物に説教を? 映し出されるだけの者が御託を並べるな。私は真実を見ない者にもっと真実を見せただけに過ぎない』
鏡は、ぬめりある光を反射させ、私の言葉に反論する。
「真実をみてどう思うかなんて、その人、それぞれが考えるべき事だと思うけどなぁボクは。
だから、無闇に負だけを見せ続け、心に不安ばかり与え続ける鏡はボクは許せない」
私の後ろにいた桃が姿をみせてそう告げる。鏡に映し出された姿は長い尻尾の生えた鋭い目の半妖の桃の真の姿。
鏡の妖怪が桃の真の姿を映し出しているのだ。
「よって、私はここに汝に告げる。そう『滅せよ』と」
私の言葉と共に紙札は強い閃光を放ち、
『ぐげぇぇえっ!』
鏡に宿った妖怪の断末魔が響き渡ったのだった。
するとそこには、パリンッと、割れる全身鏡だけが残っていた。
「よし。追い込み退治終了だね」
微笑む桃にハイタッチ。
夜な夜な醜い姿をした人間がうろつき、人々を怖がらせている事を聞いた私達は、夜の仕事をしていたのだ。
そう、私達の本職妖怪退治。
今回は、妖怪の半身であるうろつく妖怪を桃に追わせ、私が前もって確信していた残り半身のそばに隠れて、追われた半身が傷を癒す為に戻ってくるのを待ったのだ。
そして戻りきった直後、私が紙札を貼って動きを止め、今にいたる訳である。
「ご苦労様、桃」
「私達、今回は要らなかったですね」
トコトコと歩いて来る沙紀と凛ちゃん。凛ちゃんはジーンズに黒の長袖に、白のTシャツを重ね着したような長袖Tシャツ姿で、沙紀はジーンズにクリーム色のパーカー姿である。夜なのでクリーム色は見えずらい。
「まぁ、何かあった時のためかな」
そう返す私。
「終わった事だし、帰って何か食べよ〜。お腹空いたよぉ」
「おま……相変わらず電池切れ早いな、桃。さっき夕飯食べたばかりでしょ」
「高性能だから早いんだよ〜ボクは」
「あははは、だそうです」
愉快に笑いながらそう言う凛ちゃん。
「うんじゃ、残った鍋の汁でうんど作ってあげるわ、桃」
「やった!」
メンズ服で揃えた七部丈のズボンにオレンジ色の長袖Tシャツを着た桃が喜ぶ姿は、どこか少年の様に思える私。
容姿はいいんだからもっと女の子すればいいのにとか、どこか思う。
なんて、ジーンズに大きめのメンズTシャツを着た私が言える事ではなんいだけどね。
「では帰りましょうか?」
「そだね」
「帰ろ〜」
「うぃ〜」
それぞれが頷いた時、
『なっ』
全員が驚愕の声を漏らした。
それはどろっとした気味の悪い大きな妖気……。
どんどん妖気が近づいてくるのがひしひしと伝わってくる。
「来ますよ!」
凛ちゃんの声に私達の気は一瞬昂った。
そんな中、私達が居る公園の前の通りを通り過ぎていった何かを見た私。
「人間が、女の子が、気色の悪い妖気と共に通って行ったよ!」
桃がそう叫ぶ。
私達の場所から通りまでは距離があり、私の目では確認は出来なかった。
「軽く浮いてましたね……」
「ぁあ、何かに運ばされてる様に」
凛ちゃんの言葉に相槌を打つ沙紀。
「とりあえず追うよ!」
私は言って駆け出した。
私の駆け出しに皆も駆け出し、その女の子を追うのだった。




