第6話 初めてのキス ★
どう接するのがベストかと考えながら黙り込んでいると、その顔がまたも強面に映ったらしく、
「僕のことが嫌い?」
と、不意にそう問われてわたしはビクッとした。
「い、いえそんなことは――」
「ならいいけどさ」
ウィルズは窓の外を見ながらため息に似た息を吐く。
ちょっとばかり冷たく接しすぎたかな。
彼がわたしのことを本当にどう思っているかは分からないけど、あまり余所余所しくし過ぎて距離を置かれてもつまらないし……。
とにかく向こうが「好きだ」って言うのなら、一旦ここは下手に出ておく方が建設的よね。
「失礼な態度を取って申し訳ございません。でもわたし、男性の方と過ごすのが初めてなもので緊張してしまって」
「今まで僕以外の男と付き合ったことは無かったのかい?」
「はい。……だから接し方も分からず冷たく振る舞ってしまうこともありますけど、お気になさらないで」
ベッド脇のランプに視線を落としてそう呟くと、夫の顔にも笑顔が戻った。
正しくは、「誰とも付き合ったことが無いのか」という問いかけに「はい」と答えたときから。
ウィルズは上体を起こすと、こちらが反応できないような速さで強引かつ優しく抱き寄せてきた。
そしてそのまま重なり合うようにして覆いかぶさろうとする。
「大丈夫、すぐに慣れるさ。可愛い子猫ちゃん」
「猫は飼い主には懐いてくれないのを御存知?」
「じゃあ仔犬と言ったら懐いてくれるかい?」
なかなか手ごわい。
この人といると別の意味でおかしくなってしまいそうになる。
その気がなくてもときめいてしまいそうな微笑。そうやって今まで無数の女を落としてきたんだろう。
その笑みは反則だ。
「ずるい人ね」
逃げ場を失ったわたしはついに白旗を振る羽目になった。
だけどウィルズはわたしとの行為を始める様子は見せない。
「今日は君としようと思っているわけじゃない。ちょっと確かめたいことがあってね」
「確かめたいこと?」
「リミューが今の僕をどこまで許してくれているのか――を」
わたしは首を傾げながらヒントを待つ。
「例えば?」
「そうだな。……まずは君を愛撫することなんて、」
「ちょっ――へんたい!」
恥部に指を伸ばされ、思わず本音が出てしまう。
手を叩いてからハッとしてあわてて口を押さえるも時すでに遅し。
ウィルズは複数の感情を含んだ笑いをこちらに向けてきた。
「一国の王子を変態とは酷いな」
「す、すみません。つい」
「じゃあこれは僕を酷く言った罰だ」
「――っ!?」
ウィルズはわたしの手をグイッと引き寄せ、拒む時間さえ与えず唇に口づけた。
前触れもなく口の中に彼の気配が流れ込んでくる。
とろけるような熱と吐息が全身を包み込み――
絡みついてくる甘い舌。
わたしを抱く強い腕。
それでいて優しい――綿に触れるようなフワッとしたキス。
息できない。
なんで自分がウィルズを拒まもうとしないのか分からない。
どうしても頭の中が真っ白になる。
結局ウィルズが解放してくれるまで身動きの一つもとれず、目をパチクリさせるので精一杯だった。
「これで御相子だろ?」
悔しいけれど認めざるを得ない。
思っていたよりかなり手ごわい人だ。
わたしはすでに白旗を揚げていたが、彼はそれ以降わたしをどうにかすることはなく、ベッドを下りてまっすぐ入り口に向かった。
「おやすみ、リミュー」
ウィルズはそう告げてから、こちらの返事を待たないで早急に部屋を後にした。