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政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第6章:最終章
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第62話 話し合い

 ウィルズが来たと聞いて、会いたかったと思う反面、会いたくないという思いもあった。

会いたくないというのは、お互いに喧嘩したばかりだからというのもあるが、不倫相手と一緒に居ることを見られてしまうことだった。


だが今更ロイと距離を取って歩くわけにもいかず、ハインリッヒ王宮に戻ったわたしは彼の背中を追いながら応接間に入る。


中に入ると暖房が効いていて随分温かかった。

特に極寒地からの帰りだから余計にポカポカする。

でも、夜遅くにこちらへやって来た夫の後姿を見ると、身も凍るような感じがした。


「待たせたな」

「こちらこそ。急に押し掛けたりして済まない」


ロイとウィルズの淡々とした会話を聞きながら、わたしは隠れるようにしてロイの背後に立っていた。

今ではもう頭を冷やして自分にも非があったことを素直に認めている。

でも、そうだからこそまた怒られるのが怖かった。


 当初、事情を聞いたロイはわたしを蚊帳(かや)の外に置いてウィルズとは面会させない方式を提案してくれていた。

ウィルズがどうしてこんな時間に来たのか分からない以上、迂闊にわたしの身柄を引き渡すことで危害が加わらないようにした彼なりの配慮だ。

だけどそんなことをすればわたしが怖がって逃げたみたいに映るので、あえて一緒に付いて行った。



 ロイは怯えるわたしの身体に優しく手を添える。


「ところで我が盟友よ。ハインリッヒ王国に何の用か」

「決まっている。僕はリミューアに用がある」


それを聞きロイはわたしの身体を無理やり背中に隠そうとする。

でもその直後、わたしは勇気を振り絞って彼の横に立った。


「わたしに何の用ですか」


自分でも声が震えているのがわかる。

顔だって結婚当初みたいに強面になっている。

そんなカチコチのわたしをみておかしく思ったのか、ウィルズはどこか見覚えのある微笑を浮かべた。


「他でもない。君を取り戻しに来た」

「取り戻しにきただと?」


割って入ったのはロイだ。


「冗談を言うな。俺はリミューアを奪った覚えはない。それにお前の側妃はどうした。連れてないのか?」

「死んだ」

「は?」

「メリッサは自ら命を断った」


水を打ったような静けさに包まれる。

言葉を部屋の端で聞いていたリサも反応した。


「俺に冗談を言っているのか?」

「冗句に思うのなら好きにするといい。もう彼女はこの世にいない」


目には涙が浮かんでいた。

ウィルズが人前で涙をみせるのなんて初めてだ。


――ということはおそらくメリッサは……


「リミューア。君のことを疑って悪かった」


次に彼の口から出た言葉は「すまない」の一言だった。


この一言にわたしが衝撃を受けたことは言うまでもない。

深々と頭を下げる夫は今にも土下座しそうな勢いだ。


「リミューアが出て行ってから色々考え直したんだ。あれは完全に僕の方が言い過ぎていた。本当にすまないと思っている」

「ええ。わたしの方こそごめんなさい」

「では――フランシアに帰って来てくれるか?」


「待て」


ウィルズから伸ばされた手を握ろうとすると、急にロイの身体が阻んだ。


「笑わせるな盟友よ。リミューアを散々酷い目に遭わせておきながら『すまなかった』だけで許されるのか?随分な高慢ぶりだな、おい。何ならお前にもリミューアが受けたような苦痛を与えてやろうか?」

「ロイ。君がリミューアの裁判で尽力してくれたのには感謝している。だけどそれはそれだ。僕の妻を勝手に奪うことまでは許さない」

「どの口がそんな仰々しい台詞を吐くんだろうなッ」

「ちょっとやめて二人とも!!」


お互いの胸倉を掴みあう男二人の間に割って入る。

このままでは殴り合いどころか殺し合いになってしまう。事実、二人の腰には剣がある。

貴族ならではの格好だが、その気になれば人だって殺めることができる武器だ。


二人は睨みあったまま離れると、舌打ちを交換した。

もう本当にヤバい。


「リミューア、悪いが外に出てくれ」

「席を外してもらいたい」

「二人とも絶対喧嘩する気でしょう!!駄目よそんなの!!」

「いいから。俺たちは話し合いで解決する」

「僕もそう思っていた」

「ああそう!じゃあもう好きにして!」


いくらわたしが宥めたところでこの堅物二人は言うコトを聞いてくれない。

わたしはお望み通り、リサや他の女官全員を引き連れて外に出た。




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