表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第6章:最終章
63/71

第56話 ハインリッヒへ

 「ハインリッヒに行くって、正気ですか!?」



私室に帰ったわたしは、すぐさま女官にハインリッヒへの渡航準備を命令した。

理由はもう言うまでもない。


せっかく2か月ぶりに帰ってきたというのに、またすぐに出かけると知ったリサは心底驚いた様子でわたしにそう問い詰めてきた。


「もうあの人のところにはいられないわ。だから彼のお望み通り出て行くの」

「執務室で何があったのかは察しかねますが、さすがにそれは――」

「今になってもまだ犯人扱いしてくるのよ!?信じられない」

「お言葉ですが、やはり不倫の件が効いたのでは?」


わたしがロイと密かに交際していたことはリサも知っている。

それを見逃してくれた優しい彼女に反抗する権利はないはずなのに、わたしは首を横に振ることしかできない。


「たしかにそれはわたしが悪いわ。でも考えてみて。『ごめんなさい、もうしません』って謝って許してもらったとしても、会う度に犯人扱いされたらたまったもんじゃないわ」

「そうですけれど、今しばらく御考え直しいただくことはできませんか?」

「リサ。助けてもらった身でありながらこんな事を訊くのはアレだけど、あなたはどっちの味方?」


こんなことを問う権利は無いのは分かっている。

リサは重いため息をつくと、わたしの手をそっと握った。


「わたくしめはいつまでも姫さまの味方です。しかしながら本件をわたくしめの主観で判断した時、イジワルされたからといってロイ王子殿下のところに赴くのはやや早計」

「じゃあどうしろっていうのよ。わたしには赤ちゃんがいるのよ?この子まで犯罪者扱いされちゃう」


自分が罵られるだけならまだいい。

だけどなんの罪もない我が子が、ましてや親から猜疑の目を向けられるなんて耐えられない。

それならいっそロイのところに亡命した方が何千倍もいい。


 泣きながらそう告げると、リサはやむを得ずといった様子で首肯した。


「わかりました。すぐに用意いたします。……ですが連絡も無しに急に押し掛けて大丈夫でしょうか?」

「その点はちゃんとロイが手を打ってくれてあるわ」


わたしはピンク色のトランクを開けると、中から一通の手紙を取りだした。


「なんですか、それ」

「亡命許可証よ」





 裁判終結の日、ロイと別れる際にこんなことを言われた。


「万が一またリミューアが不利な立場を強いられる時があったら、これを使うといい。亡命用のビザだ。これさえあればどんな事情でも国境を通過できる」



ロイは「俺が安全を保障する」とも述べた。


通常はあらかじめ早馬でも用意して国境の連絡員に伝え、事前に連絡をとってから異国に行くのが道理。

でも場合によってはそうもいかないときがある。

その際に使われるのがビザ。

特段の事情がある場合のみ大使館が発給してくれるものだが、ロイは王室権力でそれを裏ルートで手に入れたらしい。


これさえあればいつだってハインリッヒにかくまってもらうことができる。




 その日の夕方。


わたしはわずかな手勢を率いてハインリッヒ王国へ出発した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ