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政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第6章:最終章
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第54話 猜疑心

5章のあらすじ。

アーシェ王女が毒入りの紅茶を口にし、意識不明になった大事件。リミューアは覚えのない罪で濡れ衣を着せられるが、一度は有罪判決を受けたもののロイの尽力により第2審で無罪が確定する。ようやく疑いが晴れて正妃の座に復権することを認められるも、ウィルズはすでにリミューアとロイの不倫を知ってしまっていた。ずっと愛していたはずの正妃が自分を裏切ったと知ったウィルズはこれに深くショックを受け、無意識のうちにリミューアとの間に距離が生まれ始める。せっかく元の生活に戻ったというのに関係に大きな亀裂が入った二人。二人は本当に元の関係に戻ることができるのか――、そしてアーシェ毒殺未遂の結末は――


 無罪判決が出たあと、わたしは政府からも王宮からも復権を認められ、再び正妃として城に戻ることを許可された。


ちゃんと自分の主張が受け入れられて解放されたのも嬉しかったけれど、またあの部屋に戻れるのだと思うと胸が弾む気がした。


城に到着するや否や、「はしたない」と言われることも覚悟で私室のあるミネルバ塔へ走り出す。

階段を最上階まで上ると、その部屋は見えた。

景色、匂い、物の配置、すべてがあの時のままだ。

もうあれから2か月も経つのだと考えればなんだか自分の部屋が物凄く懐かしい気がした。


「姫さま!」

「ああ、リサ!!」


部屋を見回して感慨にふけっていると、わたしは中で待っていた侍女長のリサに抱き付かれてしまった。

彼女はわたしが秘密警察に捕まったあとも諦めずにできる限りで尽力してくれた。

牢屋に閉じ込められていたときだって看守と交渉して毛布を送ってくれたのはリサだった。


「今まで迷惑をかけてごめんなさい」

「なにをおっしゃいますか。一度姫さまに仕えると心に決めた以上、何があっても尽くすのがわたくしめの使命にございます」

「さすがわたしの選んだ侍女長ね」


彼女の敬虔(けいけん)さには頭が上がらない。

周囲からのバッシングを覚悟でわたしの無罪を最初から声高に主張してくれたのはウィルズでもなく彼女だけ――


――そういえば彼は今どうしているのかしら。


「ねえ、リサ。旦那さまは今どうしていらっしゃるの?」

「ああそうでした」


わたしの背中から手を放し、ポンッと手を打ってみせる。


「姫さまが無事帰還した暁には執務室にお連れするよう仰せつかっていたのでした」

「じゃあ執務室に行けばいいのね?」

「さように」


ウィルズが待っていると聞き、浮足立ったわたしは荷物の整理を女官らに押し付けてリサと共に執務室に向かった。




――だが、待っていたのは予想もしなかった事態だった。




――☆――☆――




 「失礼します」


冤罪によって逮捕される前のように、慎ましげにノックしてから中に入る。

部屋には珍しくメリッサの姿は無く、案の定、お片付けスキル0を誇るウィルズの執務室は書類、書籍、文房具で荒れ放題。

またわたしが片付けるのね、とため息をつきそうになったが、今ではそれがとても嬉しく感じる。


床に落ちている書類を片付けながら執務机に向かうと、ウィルズは作業の手を止めて顔を上げた。


「久しぶり――だね。まずは出所おめでとう」

「ありがとうございます」


かつてと同じくドレスの裾を摘まんで低頭する。

これを機にまた彼とやり直そうと思い、真心をこめて笑顔を作ってみる。

でも次に彼の顔を見るといつもの微笑は消えていた。


「アーシェの体調も良くなってきているし、君が無罪を勝ち取ったことは僕も喜ぶべき事項だ」


だが、とウィルズは話を折り返す。


「リミューに一つ問いただしたいことがある」

「なんですか、いきなり」

「とぼけないでくれ。僕に隠していることがあるだろう」


まさかロイとの関係が――と思ったけれど、バレていないと思い、わざと首を傾げて見せる。

でもこれが地雷だった。


「まだ隠し立てするのか」

「だからなんの話ですか?」

「君は僕に内緒で不倫していただろう。いや、正しくは継続中か」

「なっ――」


あわてて口を覆うも時すでに遅し。

不意を突かれてわたしが狼狽したのを確認すると、ウィルズは目を細めた。


「先に言っておくが、ロイが口を割ったんだ。2審でリミューに加担する理由を問うたらあっさり吐いた」


大変なことをしてしまったと気づいた頃には、わたしはウィルズに睨まれていた。


――背徳。

その味は何よりも甘く、切ない。純粋に恋愛するだけでは手に入れられないものを有している禁断の果実。

それに手を伸ばしてはいけないのに、禁忌を破ってしまったのはわたしの方だ。

「ウィルズに引き留めて欲しかった」なんていうのは、自己を正当化しようとしただけの都合のいい理由に過ぎない。



ごめんなさい――



そう心の中で何度も泣き叫ぶも、喉の奥から外に出て来ない。


「別に『どういうことだ』とか責めたりしない。今すぐロイと別れろとも言わない」

「じゃあどうして――」

「リミューには心底失望したからだ」


その一言はわたしの胸に深く突き刺さった。

なんでそんなこと言うの、とは言わない。これは言われて当たり前のことだ。


――当然の報いだ。


「ごめんなさい……ごめんなさい」

「謝られても困る。これは僕だけの――フランシアだけの話じゃない。それに、君がまさか最後まで僕に嘘をつき続けるとは思ってもいなかった」

「本当にごめんなさい」

「その調子だと、まさか今も嘘をつき続けているんじゃないだろうね」

「それは……どういうことですか?」



「君は本当に事件の犯人じゃないのか?」





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