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政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第1章 (★は官能表現を含みます)
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第5話 愛してる

 背後から音も無く手が伸びてきて、わたしがベッドに押し倒されるまでは文字通り「あっ」という間だった。

一体なにが起こったのかと現状を理解したころには、夫はわたしに馬乗り状態で、今度は手袋ではなく唇に口づけようとしていた。


「だ、旦那さま!」


網にかかった魚のようにジタバタもがくも、ウィルズの強い力に押さえられて身動きすらあたわない。


「なにもしないとおっしゃったじゃありませんか!」

「うん。だからなにもしてない」


まるで子供を褒めるような手つきで髪を撫でられ、馬鹿にされている――というより手玉に取られている感じがした。


「こんなことをなさる旦那さまなんて大嫌です」

「ははは。4月1日まではまだ少し日があるよ」

「ウソじゃありませんッ!!」


しまった、やってしまった……

言い返されると相手が黙るまで反論する自分の悪い癖だ。


あわてて謝罪文句を口にしようとするもウィルズの方がわずかに早かった。


「リミューが僕を嫌いになるのは自由だ。でも、僕から嫌われると困るのは君の方だろう?」


なにも言い返せない。

この人はわたしに余裕がないことを知っている。

彼に嫌われるということは、ひいては祖国とフランシアとの関係悪化を意味する。


「……申し訳ございませんでした」

「そう硬くならなくてもいいよ。僕が君を嫌いになることなんてありえないから」


耳元で優しくそう呟き、ウィルズはさらに言葉を綴る。


「正直に言うと、僕は君に一目惚れしていたんだ。一目見たあの日からね」

「あの日――というと5日前の結婚式の日ですか」

「うん。リミューが僕を好いてくれるなら第一王子の座なんか弟に譲ってもいいとさえ思ってる」

「あら、4月1日まではまだ日があるんじゃなくて?」

「これが冗談に思うかい?」


ウィルズの曇りなき目を見てわたしは閉口を余儀なくされた。

王位を放棄することがどれほど大変なことかを彼が知らないはずがない。だが目が据わっている。

下手に答えれば本当に王座を譲らんばかりの勢い。






「愛してるよ、リミュー」





トクン、と心臓に熱い何かが流れた。


甘い声でわたしを誘いながら、ウィルズはおそるおそるといった様子で唇を近づける。


なぜ自分は今これほどまでに心臓が高鳴っているのだろう。

愛するつもりも愛されるつもりもないはずなのに、見つめられるとなぜか胸が熱くなる。どうして――


「旦那さま……」


あわや彼を受け入れてしまいそうにもなったものの、つまらないプライドが先行してわたしは王子の顔を両手で押し返した。


とはいっても決して強い力で押したわけじゃない。形だけ遠慮して見せただけなのに、ウィルズは案外あっさり唇を遠ざけた。


「もし僕が君に無理やりキスしたらどうなる?」

「し、しないでください」


ウィルズは破顔した。


「わかったよ、今日はやめておく。どこぞの貴族さんみたく舌を噛み切られたくないからね」

「なっ……」

「この国でもリミューは結構有名だよ。キスしようする男の舌を噛んだ“噛み切り姫”って」


わたしはカーッと赤くなってのぼせる感じがした。

あんな黒歴史を知っているのは国内の者だけだと思っていたのが、まさか異国の王子まで――って、ことは必然的に他の貴族にも知れているわけで……。


「ち、違います!」

「なにが?」

「あっ、いえ」


さらりと否定され、わたしの反抗精神は脆くも砕け散る。


「別にあの時は――っていうか、噛んだことは認めますけど、切ってません!あくまで噛んだだけです」

「あははっ、リミューって面白いこと言うね」

「わたしで遊ばないでください!」


ふんっと決まり悪そうに鼻を鳴らしてそっぽを向く。

でもそれがいけなかった。


「隙ありっ」


2秒にも満たない一瞬のできごとだった。

わずかに見せた隙に突け入られ、とうとう頬に夫のキスを許してしまったのだ。

顔に熱を感じてうずくまった時には遅かった。


「敵国の王子に隙を見せるなんて感心しないね」

「じゃあこれから見せないようにします」


わたしの頬を押さえる彼の手をさらに上から押さえながらぶっきらぼうに返す。

一方のウィルズは肩を震わせて苦笑した。


「冗談だよ。真に受けないでくれ」

「…………。」


この人は本当にわたしのことを愛してくれているのかしら。

たとえ愛があろうがなかろうが、いずれウィルズの子を産まなければいけないことはわかっている。

それが政略結婚で最も大切なこと。

けど、“そのためだけ”に仲良くするのは嫌だわ。




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