第50話 牢
ややシリアス的な表現あり。
半年前、わたしは王権力の中枢にいた。
当初は異国の女というだけで蔑まれ、友達なんていなかったけど、ウィルズがわたしにベタ惚れしているのを知ると次第に集まる人は多くなっていった。
さらに春の園遊会で彼の王位継承が決定し、その際にわたしを寵妃に選んでくれたことで絶大な権勢を振るうようにまで成り上がることができた。
――だが、そうして成り上がった女は衰退するのも早い。
1年ももたなかった。
裁判で死刑が言い渡されると、今まで支えてくれた多くの人が肩を落として離れて行った。
しかも判決と同時にわたしは現在の地位も全て奪われ、事実上ウィルズの正妃は解任された。
「ちょっと待って!こんな判決デタラメよ!捜査だってメチャクチャだったし、そもそも逮捕から判決までの期間が短すぎるわ!」
「いいから大人しく牢屋に入れ」
「お願いだから話を聞いて!わたしは本当に何も知らないの!!」
「うるさい!」
刑務官はわたしを牢の中に押し込むと、さっさとカギを閉めてどこかに去ってしまった。
移送された先は多くの囚人が捕らわれている国内最大の留置所。
収容される人物はそれぞれの犯した罪によって階級ごとに分けられている。
その中でわたしは戦犯や連続殺人犯などを収容するA級犯として独房に閉じ込められることとなった。
噂にしか聞いていないが、A級犯は無期懲役か死刑が言い渡された人物しか入ることが無く、その不衛生さと寒暖差、食事の少なさゆえ刑の執行までに命を落とすのがほとんどだという。
まさに文字通りの生き地獄。
ここはかつてフランシア独立戦争時に捕虜を収容していたこともあり、人間を収容するスペースなど余るほどある。
逃げ出さないよう足首にクサリを巻かれ、手には手錠。
しかも裸足にされたうえ、身に纏っている服はローブを含めてたった2枚。
春先ならともかく、朝になると気温が0度を下回るこの季節にそれはあまりに苛酷だった。
(寒い……)
夜にもなるとコップの水は表面が凍りついていた。
誰とも面会することを許されず、一人で凍えながら絶望に満ちていた。
寒さにもある程度慣れたその日の夜中。
壁にもたれかかってウトウトしていると、階段を誰かが下りてくる音がして目を覚ました。
カツン、カツンという硬い靴音と共にオレンジ色のランプの灯がゆっくりこちらに近づいてくる。
どうせ見回りに来たのだろう、と明かりから顔を背けて目をつむる。
そのとき。
「おい、起きろ」
格子の向こうには明かりを持った刑務官が仁王立ちしていた。
「2038番、お前に客人だ」
2038番。それがわたしの仮名称。
牢屋に入る際に囚人の一人として付けられたのだ。
男はランプの明かりを牢屋の前に置くと、階段に向かって何やら手招きする。
一体こんな時間に誰が来るのだろう、と思って格子の方へ這い出てみると、螺旋階段の方から複数の明かりと靴音がこちらに降りてくるのがわかった。
やがてその正体が明かるみに出ると、わたしは思わず口を覆ってしまった。




