表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/71

第49話 暴露された真実 [ウィルズ視点]

 盟友のロイが事前に知らせも無く訪れたとの報を受け、ウィルズはまず衣装部屋に足を運んだ。

数十にも及ぶ女官の助けを経てわずか10分ほどで正装に着替えると、その足ですぐさま王宮の迎賓館に向かう。



衣装部屋から当館までは徒歩でおよそ5分。

ウィルズは少しでも時間を短縮しようと大股で廊下を歩きながら、ずっとロイとリミューアの関係について考えていた。



 この前の親交会以来、妻の様子が少しおかしいように感じる。

いつも何かに満たされているというか、自分がいなくても満足しているような。

彼女がタイロン公国に姉と買い物に出かけたときもそうだった。

浪費した金に見合わない高額の品を山ほど持って帰ってきた。

姉に奢ってもらった、と聞かされたが、あとになって調べてみるとリミューアの姉は全て国外に嫁入りしていて、一緒に買い物に行こうにも連絡を取り合うのはそう容易なことではない。

ましてや一国の正妃になった彼女ならなおさら。




リミューアは何か重大なことを隠している。そう感じた。





「久しいな、盟友よ」


それがロイの開口一番の挨拶だった。

国賓を迎えるために用意されたふかふかの椅子に腰を据え、脚を組みながら茶をすする彼の表情はかなり落ち着いている。


「今日は一体どうした。同盟20周年記念祭はまだ半年先だけど」

「とぼけるな。俺がここに来たのはリミューア妃が濡れ衣を着せられて牢にブチ込まれたと聞かされたからだ」

「なぜに君が」


盟友の正面にある椅子を引いて座る。


「強いて言うなら“友人”だから――だな」


ロイはカップを皿の上に戻し、(しか)め面をするウィルズの目を見てそう言った。

その余裕気な笑みにウィルズの眉がピクリと動く。


「友人だって?」

「フランシアが困っていれば同盟関係のハインリッヒが手を差し伸べるのと同様に、俺の友人が無実の罪で牢に入れられていれば助けてやる。それだけだ」

「詭弁だね。そんな取って付けたような言い訳はしないでくれ」

「なにを以ってそこまで疑う必要がある?」

「先月。君とリミューはタイロン公国で会ったんじゃないのか?」


その瞬間、ロイの顔に焦燥が浮かんだ。

咄嗟に否定しようとしたが、表情から察するにおそらく彼は大体の部分を把握している。

全面否定にまわれば自分の首を絞めることにつながりかねない。


「いや、確かに会ったがあれは偶然出会っただけで――」

「親友だろう?この期に及んで誤魔化しは無用だよ」


口調も態度も、怒っている風ではなかった。

しかも優雅に茶を嗜むほどの落ち着きと余裕が垣間見える。

逆にその安穏(あんのん)な態度に鼻白んでしまい、ロイは引き攣った笑みを向けることしかできなかった。




「君たちはどういう関係だ」




とぼけた風に首を傾げていると、ウィルズは立て続きに淡々とした声色で綴った。


「僕には言えないような色めきたった関係か」

「何を聞いても怒らず、悲しまず、かつ彼女にその矛先を向けぬと誓えるか?」

「約束する。僕だってリミューに酷い扱いをしたのは事実だ。それなりの報いを受けることは当然に予想している」


どうしようか最後までずっと迷っていたが、このままズルズルと底なしの沼に陥るのは自分のためにも――そしてリミューアのためにも良くないと考えた。

ロイはそれなりの叱声を受ける覚悟で息を吸い込む。


「俺とリミューアは交際している」


予想に反してウィルズの反応は薄かった。

案の定、といった様子でテーブルの上で指を組み合わせながら「そうか」と呟いた。


「どうして僕の妻に手を出した、色男」

「怒らないと約束したよな」

「怒っていない。訊いているだけだよ」


そうは言いつつも、目は口ほどにモノを言っている。

いつも温厚なウィルズがここまで強面になるのは初めてだ。彼女にどれほど想いを馳せていたのかがうかがえる。


「あの時、リミューアがお前で満たされていれば俺は手を出したりはしなかった。彼女があれほどまでに寂しそうな顔をしなければ一緒に踊ったりもしなかった」

「だからって――」

「ウィルズ。お前はあの親交会のとき、リミューアが広間を出てどこにいたのかわかるか?」


数秒考えてからウィルズは首を横に振る。

追いかけもしなかったし、探そうともしなかったのは自分だ。


「彼女はバルコニーにいた。アーシェ嬢と一緒に」

「バルコニーか」

「なぜ正妃とあろう身分の女がそんな一目のつかないところにいたのか、考えてみろ」


応接間を沈黙が席巻する。

ウィルズ自身、複雑な女心を理解せずほったらかしにしておいたのは自分が悪いと認識していた。

しかし、そうだからといって彼女が報復に不倫していたとは衝撃的(ショック)だった。


 前髪を押さえるようにして考え込むウィルズにロイは苦笑する。


「ま、そういう辛気臭い話は彼女が無事牢屋から出てからにしようぜ」

「……………。」

「それともここで決着(ケリ)をつけるか?」


ウィルズは机上の茶に視線を落としたまま「いいや」とだけ告げた。


「今は俺とウィルズで争ってる場合じゃない。彼女に協力する目的で俺はここにきたと言ったはずだ」

「ハインリッヒ王室がわざわざ?」

「毒が出たっていう茶葉はもともとハインリッヒ産でな。こっちにもメンツとか色々ある」


実は判決が出た直後、証言台に上がった一人の女官がいきなり裁判とは違う主張をし始めていた。

当初は『リミューアに指示されてやった』としていたものが、あとになって『やっぱり元から入っていた』としたため、もしかするとロイから茶葉を渡された時点ですでに入っていたかもしれない可能性が出てきたのだ。

それゆえ、同国も国の威信を懸けて再調査するよう詰め寄ってきたのだと後になって聞かされた。


「訊くまでもないが、今回の判決、ウィルズはどうする」

「――控訴するに決まっている」


するとロイは安堵したようにクスッと微笑した。


「俺もだ。リミューアのためにも祖国のためにも、控訴してもらわねば困る」

「じゃあ2審では君も弁護側にまわってくれるのかい?」

「そのつもりだ」


ロイは腰を浮かせて立ち上がると、カゴに入っていたクッキーを一枚摘まんでから外に向かって歩き出す。


「君は――」

「ん?」


妙な呼び止められ方をして90度身をひるがえす。


「もしもリミューが助かったら、また元通り交際を再開するのか?」


脅し――いや、警告。

ウィルズから発せられるただならぬ怒気。その原因は言うまでもない。


ロイは長いため息をつくと、毅然とした態度で告げた。


「俺は今の関係をやめるつもりはない」

「たとえそれが僕らの関係を引き裂いたとしても?」

「――ウィルズにその覚悟があるのならば」


ロイはマントをはためかせ、音もなく部屋をあとにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ