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第47話 裁判 Ⅱ (判決)

(注)本話はシリアスな表現を含みます。R15

「では証人となる者は証人台へ」


裁判長に命令され、こちらからは見えない白いボード越しに誰かが台に立つ。

顔を隠していることから察するにわたしに見られるとマズイ人物なんだろう。


「あなたは城で働いていた女官の一人ですね?」

『はい。茶会当日、お嬢さま方の後ろでお茶の管理をしておりました』

「事前に被告人から毒を混ぜるよう命令されたのは本当ですか?」


白いボードの向こうに立つ女は、少し躊躇った様子で「はい」と回答した。


『あれは前日の夜中でした。当日のお茶会で使う器具の点検をしていると、急に正妃殿下がやって来られて『この草の液を紅茶に混ぜてからアーシェ王女さまに手渡すように』と仰せつかったのでございます』


「異議あり!!!」


法廷にわたしの甲高い声が響く。

記憶が正しければ、わたしは茶会前日の夜、就寝時の護衛をリサに任せて夜も更けないうちに寝たはず。

それに、もしそんなことをしようと動けば真っ先に彼女が気付くにきまっている。


だが、


「却下。被告人の言い分はあとでうかがう。次に弁護側の主張を」


裁判官の指示を受けてやっと弁護席が動き、書類を携えた髭面の男が立ちあがる。

ウィルズが付けてくれたという国内屈指の有力弁護士らしい。


「検察側は、本件における被告人が意図的に毒を混入させ、暗殺を試みたと主張したが、我々は完全に否定する。そもそも複数の証人が得られているからといって、ただちに被告人が毒物を混入したという確固たる証拠に繋がるわけではないし、次期国王であるウィルズ王子や現国王陛下ならまだしも、前々から懇意にしていたアーシェ王女を真っ先に暗殺しようとする理由が無い」


弁護側はわたしの行動に動機が見当たらないとしたうえで、最後にこう綴った。



「第三者による、失脚を狙った陰謀である可能性が極めて高い」



と。

だが弁護士からそう告げられるや否や、真っ向から対立する検察官も立ち上がって反駁を試みる。


「たしかに見聞による証言を得られたからといって証拠に結び付くわけではない。とはいえ、これを無視して捜査することができないのは明白である。しかも被告人が王女を狙ったのにも考えられうる理由がある」

「被告人はアーシェ王女と懇意にしており、それは周知の事実。それを鑑みたとき、殺意を抱く動機は見当たらない」

「いいや。――もともと被告人は我が国と敵対していたシャーマリスの出身。もともと紛争でフランシアに恨みを抱いていた被告人が、我が国の王族の命を狙うことは容易に想像しうること。さらば、毒物混入によって王女を殺傷しようとした行為は何ら不思議なことではない」

「ならばもっと時期が早くてもよかったはずではないか。なぜ今になって行う必要があるのか」

「怪しまれないよう普段からあえて大人しく見せることにより、周囲に穏やかなイメージを植え付けた後で凶行に及んだ用意周到な作戦である。さらに被告人は第一王子殿下の側妃、メリッサ・ド・オーグ・フォルニクス殿とも仲を違えており、茶会により同時に殺めようとした」


検察官は厳しい視線を弁護士から上座の裁判官に向けた。


「被告人はフランシアに対し個人的な恨みを抱き、それを果たすために本件のような凶行に及んだ。これは王室に対する大逆の罪のみならず、国の基幹部分を根底から揺るがし、混乱を深めさせる国家騒乱罪にもあたる。――以上をもって、我々検察側は被告人に対する『死刑』を求刑する」


その瞬間、法廷はしんと凍りついた。

正しくは、『死刑』という言葉が出た瞬間から――である。


先に検察側に論告され、あわてて弁護士も反論を打ち立てる。


「これは第三者が関与しなければ起こらないような事件であり、そもそも被告人がかような凶行に及ぶ動機がない。弁護側として、被告人の無罪を主張します」


極刑か無罪という究極の主張に、聴衆は息を呑む。

フランシア司法では検察か弁護側のどちらかの意見を採用する場合がきわめて多く、裁判官の裁量で中間をとった判決を下すのは珍しいのだという。

となれば、わたしに下されるのは上記のどちらか。


「双方の意見を受理した。異論や反論等がなければ今より審議に入る」




――☆――☆――




3名の裁判官による審議が裏で行われている間、わたしは被告人席でじっと背中を丸めながら天に祈る思いで無罪を信じつづけていた。

やれることはやった。

何もかも正直に話したし、ウソなんて一つもついていない。

きっと司法ならわたしの無実を証明してくれる。


そう信じていた。



2時間の継続審議の末、再び法廷に裁判長の姿が現れた。


「一同。御起立願います」


副判事が全員の起立をうながす。

判決が言い渡されるときの儀式みたいなものだ。


 裁判官は無表情のまま上座の席に腰を据えると、官吏から手渡された資料を強い語勢で読み上げた。





「主文。被告人リミューア・S・シャーマリスを、死刑に処す」





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