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第32話 詰問

3章のあらすじ。

ウィルズがメリッサを側妃に迎えて以来、今までの関係にズレが生じ始めた二人。領地への旅行の一件もあり、ウィルズの寵が側妃のメリッサに傾きつつある中、孤立するリミューアのもとにハインリッヒ王国第一王子のロイが現れる。紳士的で優しい彼は、夜会で前々からリミューアのことが好きだったことを告白。ついには事実上の不倫をするよう迫り、一方の彼女もつい許諾してしまう。

もしこのことがウィルズにバレるとただ事では済まされないことは分かっていながらも、後宮で孤立する自分のことを心の底から愛してくれるロイを断れないリミューア。良心との呵責(かしゃく)で悶々とする日々を送るなか、予期せぬ大事件が彼女に降りかかる!




 当初、ロイとの関係はあくまで遊びの程度で済ませるつもりだった。


昨日の事件をきっかけにウィルズが反省して謝ってきた暁には、不倫関係を解消しようと本気で考えていた。

無論そのことにロイも異論を唱えなかった。

わたしがやめたいと思う時に関係を解消する。それが、わたしと彼が付き合う際に結ばれた絶対的条件。


お互い100%結ばれないことを了解したうえで付き合っている。

いずれ来るであろう期限(タイムリミット)を知ったうえで交際している。

もしどのような事情で別れたとしても、一度離れたのならもうお互いに追いかけない。

関係は最初から無かったのだとスッパリ忘れる。


でも万が一にも外部にこのことがバレてしまったら?


「そのときは全ての責任を俺になすりつけろ。リミューアに不倫を迫った以上、俺が一切の責任を取る」


それが彼の一貫した主張だった。

もし浮ついたシーンを目撃されたのなら、ロイに強要されて仕方なくやったと誤魔化せとも教え込まれた。

だからわたしもその言葉を信じ、有事の際にはロイを切り捨ててでも保身に走る構えだった。


――なぜそんなことが許され得るのか?


だって、わたしたちは決して認められてはならない不純な仲なのだから。




――☆――☆――




 「昨日の態度は一体なんだ」


執務室にウィルズの低い声が響く。


 ハインリッヒ王室を招いての親交会を終えた翌日。

まだ全身の疲れが取れていないというのに、わたしは朝の早くから執務室にお呼び出しをくらい、机の前に立たされていた。


原因は他でもない。

昨日、わたしがウィルズから逃げてしまったことに関連し、一連の悪態を非難しているのだ。


「なんだ、と言われてもどうお答えしてよろしいかわかりませんわ」


トゲのある返事をしてやる。

彼が怒る気持ちはわかるけれど、気持ちよく寝ていたところを起こされたこちらだって苛立っている。


「どうして公衆の面前であんな態度をとったのか、理由を訊いている」


声のトーンに変わりはないが、こみ上げてくる悔しさ――というか怒りを押さえつけている感があった。


 ウィルズが問うている「あんな態度」というのは、わたしが彼から逃げたこともあるが、それ以前に夫の了承もなくロイと勝手に踊ったことだろう。

本来夫の側にいなければならないはずの正妃が勝手にどこかに去って――あろうことか別の男と手を繋いで帰ってくるというのは度し難い行為であるのに間違いない。


おかげでウィルズが恥をかくハメになったということもリサから強い口調で聞かされた。


「特に理由はありません」

「――なんだって?」

「し、強いて申し上げるのならば、外の空気を吸いに出た際に偶然あのお方と出会い、『踊ってくれないか』と頼まれたので香水の御礼も兼ねて舞踏して差し上げた次第です」


一気にウィルズの顔が曇ったのであわてて言い訳の言葉を並べる。

そりゃあ恥をかかされておいて「意味なし」の回答がかえってきたら、相手が誰であれ怒るのは当然。


即興の言い訳にしてはかなりいい出来だったと自負していたが、夫はまだ猜疑の視線をこちらに向けたまま。


「それにしては随分仲が良さそうだったが」

「仲が良いのは旦那さまとメリッサ殿にも言えることでしょう」


案外わたしもいい度胸をしている。

しまいに彼がブチ切れてしまうんじゃないかという懸念を内心に抱きつつも、今の開き直った態度を変えるつもりはない。


ウィルズは前髪をかき上げてため息をつくと、わたしに向けていた視線を机横の鳥かごにやった。

中にはつがいのケツァールがいる。

2羽はこの前ロイからウィルズ宛てに贈られてきたものだ。


「ここ最近ずっとそんな態度だね、リミュー」


問いかけた先はわたしではなく鳥たちだった。


「もうここへも来てくれなくなったし、笑顔も見せてくれなくなった。しかも昨日の僕へのあてつけみたいな態度。アールニヒトにメリッサを連れて行ったことをまだ根に持っているのかい?」


そう言ったあとで憂き顔だけがこちらに向けられる。

一方でわたしは俯いたまま何も答えなかった。


核心を突かれたからだ。


「たしかにあの時は僕の軽率な行動に問題があった。反省している。だが君は――リミューは『もういい』と許してくれた」

「ええ。わたしももうその件については何も」

「じゃあなぜあの日以来この部屋に来なくなった?」


ウィルズだってなぜわたしがストライキしたのか知っている。

あとで冷静になって考えてみれば自分の行った行為はあまりに幼稚で我儘だったと言わざるを得ない。

でも負けず嫌いな性分で、どうも自分の方から頭を下げられない。


素直にここで「意地を張っていました、ごめんなさい」と謝れば許してもらえるだろう。

でもその後、彼はまたわたしのことを愛してくれるのか?

またわたしの横で寝てくれるのか?


深く考えれば考えるほど不安が募り、言うに言い出せない。

自分に非があるのはわかっている。そのせいでメリッサに突き入る隙を与えてしまったことも。

でも負けを認めたくない。

いや、もしかしたらわたしはロイとの関係を正当化しようとしているだけなのかもしれない。


「諸事情です」


悩みに悩んだ末にでた答えがそれだった。

もはやアーシェくらいの年齢の子供が使うような言い訳だが、ウィルズは静かに「そうか」と呟くと、再び鳥かごの方に視線を戻した。


「じゃあその諸事情が無くなり次第、またこの部屋に戻ってきてくれるか?」

「そのつもりです」

「……わかった。その言葉を信じよう」


コクコクと頷くウィルズの視線は終始ケツァールに向けられたままだった。


「つまらないことで朝の早くに呼び出して済まなかった」

「いいえ、こちらこそ」


わたしは身を翻し、なるべく音を立てないようソロリと部屋を出て扉を閉める。


パタン、と音がして執務机のウィルズが見えなくなると、わたしは肺に溜めていた重い空気を一気に吐き出した。


扉に凭れかかり、斜め上の天井を仰ぐ。



(これからどうしたらいいのかしら……。)



心の中には、将来への不安が募っていた。



誤字脱字・訂正等があれば、個人メッセでお知らせください。

なお、豆腐メンタルなので小説に関する一切の批判はNGでお願いします<(_ _)>

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