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第28話 新たな出会い

本話から物語が大きく動きます。

 ウィルズの寵がメリッサに移ってからは文字通り「あっ」という間だった。


いつまでも落ち込んでいじけている間に、彼女は次々に手を打ってウィルズの気を独占していた。


わたしが妊娠しているというのもあるのか、ウィルズの渡りも日に日に少なくなっていった。

多い時には毎日通ってくれたわたしの寝室は今や閑古鳥が鳴いている。

身の回りの世話をしばらくストライキして以降、会話もほとんどしなくなった。

それでもたまに会うと笑顔で話しかけてくれるんだけど、その横には必ずメリッサの姿がある。

会話の内容も全て彼女が聞いている。

見ている。

監視している。



 側妃の登場からわずか数か月にして王室の勢力図は大きく塗り替えられていた。

周囲も徐々にではあるがその異変に気づきはじめ、わたしは次第に不利な立ち位置を強いられるようになった。

このままでは正妃の座を奪われ失脚する可能性も現実味を帯びてくる。

そうなればアーシェも、そして祖国シャーマリスにも甚大な影響が及ぶ。


 でも狡猾な女に対抗する手段などなく、ただただじっとしていることしかできない。



そんなみじめな生活を送っていたわたしに新たな出会いが舞い込んできたのは、それから間もないある日のことだった。




 雪の降る夜。


王宮では、フランシアの友好国であるハインリッヒの王室を招いての大規模な夜会が催されていた。


なんでも来年は同国との同盟20周年を迎えるそうで、それに先立って親交会が開かれることに決まったらしい。


 まあ夜会と言っても晩餐会とさほど相違ない。

単においしい食事をしたあとで舞踏を披露し、笑顔を交換するだけでそれ以外なにか特別変わったことをするわけでもない。


 久しぶりに着飾ったわたしは、軽い食事を終えるとウィルズの待つ広間には向かわず、逆方向に歩を進めた。

広間では今、メリッサとウィルズが踊っている。

他人の舞踏には興味が無いというのもあったが、大好きだった彼があの女に微笑みかけているのを見るのが辛かったから、というのが最たる理由。


ウィルズに対しわたしがダンスを誘えば、彼は進んで踊ってくれるだろうけれど、いまさら正妃が夫と一緒になったところで好奇の目で見られるだけだ。

もう周囲だって、ウィルズがわたしかメリッサのどちらに傾いているかを知っている。

彼を取り返すのは容易ではない。

今や自分の地位でさえ危ういというのに。


 向こうから声をかけてきてくれるわけでもなく、わたしは幼いアーシェを連れて会場を離れ、護衛付けずにバルコニーに向かう。


人見知りが激しい年齢のせいか、アーシェもまたわたしと同様に大勢の人が集まる場所が苦手らしく、二人だけで過ごそうと提案すると彼女は大層喜んだ。




 目的地(バルコニー)に到着すると、前方に見知らぬ男性の後ろ髪が見えた。

艶のあるやや長めの黒髪で、背はウィルズと同じくらいの180センチほど。まあもっとも、手すりに前のめりになって外を眺めているから、実際の身長は測りかねるが。


護衛の姿も見えず、当初は大した身分を有さない人物かと高を括っていたけれど、服装は雰囲気に似つかわしくなかった。

腰には剣をおさめた黒い鞘が見える。黒いブーツに大きめのマントを羽織い、貴公子というよりいかにも吸血鬼っぽいその男性は、こちらの気配に気づいて身を反転させる。


「貴殿は――」


振り向いた顔は思ったより小さく、高い鼻梁と端正な顎が特徴的な美男子だった。

何を隠そう、我が夫であるウィルズもそれなりの美形だが、目の前の男は美形というより男性の要素が多い気がする。


男でありながら男性の要素が多いというのも妙な表現だけど、分かり易く言うと女顔ではない。

獅子の如く強そうな雰囲気(オーラ)

そしてがっしりとした体でかつ引き締まった体は自然界の覇者を表すかのような。そんな印象にウィルズとはまた異なる魅力を感じた。


「久しきかな。リミューア殿」


男はどこか野心的な笑みを浮かべると、そのままわたしの方に大股で歩み寄ろうとする。

まだ名前も――ましてや自己紹介もしていなかったというのに正体を当てられ、わたしは狼狽した。


(久しいとは一体どういうことかしら)


男の顔に見覚えはない。

でも口調から察するに、わたしは一度彼とお会いしている?


「お姉ちゃん……」


アーシェはこちらへ歩を進めてくる男に怖がってしまい、わたしの背に隠れようとする。

なにせこの場にはわたしとアーシェと男の3人しかいないのだから、怖がるのも無理はない。


怯えるアーシェを見て男はピタッと足を止める。


「俺はそんなに怖い顔をしていたか?」


フッと唇を揺らして笑って見せるも、彼女の態度に変化は見られない。

ゆえにこれ以上近づくのは諦めたのか、男はわたしに向き直って貴公子の礼をして見せる。


「こんばんは。そちらの可愛いお嬢さんは?」

「えっと、この子は夫の妹ですわ」

「というと王女さまか」

「ええ。アーシェ王女さまです」


男はどこか納得した様子で「そうかそうか」と呟き、アーシェの方に視線を落とす。


「驚かせて済まない。よく周りから『見た目が怖い男』と言われるものでな。別に悪いお兄さんじゃないから安心してほしい」


そう言いながら彼はマントに手を伸ばす。


「ご覧」


わたしの目の前でアーシェの目線にあわせてしゃがみこみ、グーの拳をこちらに差し出す。

一体なにが始まるのかと思いきや、次の瞬間、パッと手を開いたと同時に手の平から小さな薔薇の花が出現したのだ!


「まだまだ」


男はさらにもう片方の手をこちらに差し出すと、今度は各国の国旗が連ねられた一本の紐を拳の中から出して見せる。


「――すごい……」


タネも仕掛けもわからないわたしたち――特にアーシェは真剣に男のマジックを見つめていた。

初対面による警戒よりも好奇心の方が勝っているらしい。


「怯えさせてしまったお詫びだ。これらはアーシェ殿に差し上げよう」


そう言って男は彼女に花と国旗を差し出す。

するとあれほど怖がっていたアーシェが嘘のように男の手に飛びついた。

やはり好奇心には勝てないらしい。


「お兄ちゃんスゴイ!これどうやって出したの!?ねえ!」

「それは内緒だ」

「えー!アーシェにも教えてよ!!」

「ははは。説明すると長くなるからまた今度な」


男は笑いながらアーシェの頭を撫でると、立ちあがってわたしに視線を向けた。




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